第2話 レポート2
20XX年○月×日
私の申し出は、ことごとく握りつぶされてしまった。誰よりも彼らと接してきたのはこの私だ。私は知っているのだ。彼らには確かな知性が、意思があるのだと。
私は、戦い方を変えることにした。すなわち、当事者であるフレンズたちにこの不当な扱いをやめるように訴えかけてもらうのだ。彼ら自身が反抗すれば、さすがにこのプロジェクトも止まるだろう。
20XX年○月×日
だめだ。どうやってもうまくいかない。
フレンズたちに、自尊心という概念を理解させることができない。
彼らは、プロジェクトの核となる存在である。当然、手厚くもてなされて日々を過ごしている。
すべてにおいて満たされている環境下で、不満も不安も無い中で、自ら何かを変えようとする向上心が芽生えるはずもない。
私の行動を問題視する声も研究所内で日に日に大きくなっている。このままでは…。
20XX年○月×日
彼らに精神の成長を促すため、何か「刺激」を与えなければならない。
満たされた環境では得られないものを、彼らが自ら奮い立つような刺激を与えなければ、現状を変えることはできない。
…これまでずっと避けてきたが、彼らが恐れるような、「負の刺激」を与えなければいけないのか?
だが、彼らは傷ついてもすぐに修復してしまう体質だ。そんな彼らに「脅威」を与えるものがあるのか?
何よりも、私自身が、彼らを傷つけることはしたくない…。
20XX年○月×日
私はサンドスター研究所に戻ってきた。
かつてはこの場所で情熱を燃やしていたが、今はむなしさと無力感しか感じない…。
私は、間に合わなかった…。
20XX年○月×日
なんということだろう!まさか化学者の私が神に感謝する日が来るとは!
集中力を欠いた単純ミスで失敗したかと思われた実験で、偶然にもサンドスターの物性を変質させることに初めて成功した。
サンドスターは、観測はできてもその物質量の増減にこちらから干渉することはできなかったが、この新物質は、熱を吸い取るがごとく、周辺のサンドスターを吸収する作用があった。
サンドスターを吸収する…つまり、サンドスターを奪う物質。
これはこれまで観測されなかった、フレンズに「脅威」を与えうる存在だ。
私はまだ、彼らを救えるかもしれない!
20XX年○月×日
かつて働いていたこともあり、追い出された身とはいえ、なんとかフレンズの研究所へ赴くことができた。
他の人間に見られないようにフレンズに例の物質を見せたところ、かつてない反応を引き出すことができた。
彼らのおびえた顔を見るのは心苦しかったが、私の求めていた「負の刺激」を与える手段を確認することができた。
追記:手に持っていたこれが、フレンズに近づけたときにうごめいているような感触がしたので、後でこの現象の分析を行うこととする。
20XX年○月×日
新物質は、サンドスターを吸収するごとにその物質量を増やし、ある一定の大きさになるとその作用が停止した。
限られた空間内では、サンドスター濃度と新物質は一定のバランスを保つらしい。
また、新物質はサンドスター濃度の高い方へ移動する性質があるようだ。フレンズに見せた時のあの手の感触は、勘違いではなかった。
もっと多くのサンドスターを使用した実験がしたいが、現状の予算ではいかんともしがたい。
この新物質を発表すれば研究予算は投入されるだろうが、フレンズに近づけさせないように厳重な管理体制が敷かれるはずだ。そうなってしまっては、私の目的が達成できない…。
20XX年○月×日
ついに、例のテーマパークの開園日がやってきた。
私は客の一人としてテーマパークに入り、島を回りながら各地に例の新物質を置いてくるつもりだ。
職員に見つかればすぐに回収されてしまうだろうが、この広大な敷地だ。すべてを回収するのには時間がかかるだろう。
また、現在の島のサンドスター濃度なら、新物質も大きくて直径20cmの球体ほどのサイズにしかならないはずだ。移動速度も非常に遅いため、フレンズに危害を加えずに「脅威」のみを与えてくれるはずだ。
この脅威という刺激が、フレンズたちの精神を向上させること、ひいてはフレンズが人と同様の権利と地位を得ることのできる、新たな法を打ち立てる未来が来ることを願って、この新物質を「サンドスターロゥ(LAW)」と名付けることとする。
執筆者:イマイ
――――この文書は特定機密文書に指定されています。ジャパリパーク外への持ち出しを固く禁じます。――――
或る研究員のレポート イマイ @igaiganinja
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