或る研究員のレポート

イマイ

第1話 レポート1

20XX年○月×日

突如として噴出した海底火山から生まれた新大陸で確認された、既存のあらゆる常識を覆す物質「サンドスター」。これらは生物、または生物であったものと結合し、人間に限りなく近い知的生物として生まれ変わらせる。


改めて考えてみても突拍子もない現象だ。これまで人類が積み上げてきた文明の英知をもってしても、この現象のメカニズムは解明できていない。化学研究の最先端を担っていると自負していた私でさえ、現象の過程を分析する手掛かりはつかめていない。


成すすべがない苛立ちと同時に、未知の物質に対する好奇心が自分を支配しているのがわかる。こんなにワクワクしたのはいつぶりだろう…。



20XX年○月×日

今日の会議で上から新たなお達しが届いた。サンドスターの研究よりも、生物から生まれる知的生物「フレンズ」の研究を優先せよ、とのことだ。


思ったよりも早く、上は「追究」ではなく「運用」の方向に動き出したようだ。

私も、サンドスターではなくフレンズの研究のほうに回されてしまうだろう…。


これまでの実験結果が日の目を見られないのは口惜しいが、上が求める成果を上げられなかったのだから強く反論はできなかった…。将来的にこの研究に戻れることを切に願う。



20XX年○月×日

フレンズの生態の研究に回されてからしばらく経つが、なかなかどうして興味が尽きない。彼らは好奇心が旺盛で、私たちの研究に非常に協力的だ。実験を通じて彼らに様々なものを教え、成長していくのを見守るのはこれまでに体験したことのない充実感を感じる。


また、驚くべき事実も明らかになった。彼らは傷を負っても即時に修復がなされるのだ。しかしその後、体内のサンドスター濃度が低下することが観測された。サンドスターを消費(?)して身体を直しているようだ。


実験中にけがをしたときは肝を冷やしたが、無事でよかった。



20XX年○月×日

フレンズたちのサンドスター濃度が日に日に低下していく問題は、彼らの元の生物に解決の糸口があった。彼らは、元となった生物と同じ環境下にしばらく身を置くと体内のサンドスター濃度が上昇していった。


彼らは人間に近いとはいえ、動物としての本能の欲求を満たすことが生存をするうえで必要なことらしい。

また新たな発見がなされた…が、知性ある存在として接していた彼らが、まるで動物のように振舞うのは、見ていて心が痛い…。どうにかならないものか。



20XX年○月×日

フレンズたちに合わせた自然環境を整備し、ありのままのフレンズと触れ合うことができる一大テーマパークを、サンドスターが噴出した島に造るプロジェクト。


何度も耳を疑ってしまった。上はあろうことか、彼らを見世物にしようとしているのだ。

彼らは、動物じゃない!こんな扱いは許されない!

これが奴らの言うフレンズの「運用」なのか!


このプロジェクトは絶対に阻止しなければ…。

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