新しい紅茶?
える
新しい紅茶?
「紅茶を出すのです」
「さあ、早く出すのです」
とある日の、とある山頂の小屋の中。
大きなドアを開けて入ってきたのはハカセことアフリカオオコノハズクと、助手ことワシミミズク。
「いらっしゃ~い!ようこそ~じゃぱりかふぇへ~。わぁ~どうしたのはかせ~?おきゃくさん?おきゃくさんかな~?」
嬉しいという感情が溢れ出てくるような、優しくて明るい声色で出迎えてきたのはアルパカ・スリ。
「いえ、我々は学術的興味を満たしに来ただけであって客などではないのです」
「……おきゃくさんじゃないのか」
途端、意気消沈してしまうアルパカ。ジャパリカフェにお客さんが来る事が楽しみで仕方がないアルパカにとっては大きなダメージであった。
「待つのです、助手。アルパカの気分をあまり下げない方が良いのです。機嫌を損ねるとアルパカはつばを吐くのです。なのでここは我々も客ということにし」
「ペッ」
「遅かったのです」
多少げんなりとした様子を見せたハカセではあったが、助手と共に席に座る。
「とにかく、紅茶を出すのです」
「え~?なになに~やっぱりおきゃくさんかな~?」
「まあ、そういう事にしておくのです」
「えへへ~、うれしいな~うれしいな~それじゃあこうちゃ、いれてくるよ~」
「待つのですアルパカ。実は今日は……」
そんな時、小屋の外から歌声が聞こえてきた。
「わた~しは~ト~キ~♪仲間をさがして~る~♪どこに~いる~の~♪」
この歌声は、と顔をしかめるハカセと助手。
それは決して音痴というわけではなく、しかし耳に良くはない音の奔流。その歌声はいわゆるカラスに似た濁った、と形容されるトキの歌声だ。
「いきなり歌わないで欲しいんですけど、それに仲間ならここにいるんですけど」
その歌声の主と一緒にドアを開けて小屋に入ってきたのはショウジョウトキ。
「まあまあそう言わずに。あら、今日は珍しいお客さんが来ているわね」
ショウジョウトキの文句を軽く流しつつ、トキは先客のハカセ達を見て言った。
「そうなの~きょうはおきゃくさんいっぱいでうれしいんだ~」
「これでいっぱいなのね」
「二組だけなんですけど」
切れ味の鋭いツッコミをするトキ達。
「トキ、歌うのはいいのです。でも歌うのは紅茶を飲んでからにして欲しいのです。我々は耳が良いのですから」
耳に蓋をしつつ、助手はトキを軽く睨みつけて文句を言った。言外に耳障りだと言っているようだ。
「あら、アンコールということかしら。では早速」
「どうしてそうなるのです!我々は騒がしいのは嫌いなのです!」
アルパカの出す紅茶を飲むとトキの歌声はとても綺麗なものとなり、聴く者の心を震わせる歌声に変わる。トキとて綺麗な歌声の方が良いと思ってはいるはずなのだが、いかんせん歌いたい時に歌う癖はあるようだ。
「それはともかくアルパカ、今日は茶葉を持ってきたのです」
ごそごそとどこからともなく黒っぽい乾燥した葉っぱを取り出すハカセ。
「おぉ~あたらしいはっぱだね~」
その茶葉をしげしげと眺めつつカウンターの奥に入って行くアルパカ。早速新しい茶葉で紅茶を入れてみるようだ。
「以前は紅茶になど全く興味はなかったのです」
「紅茶と言えば草。我々は草には興味などなかったのです」
「ですが、皆が美味しそうに飲んでいるのを見て興味がわいたのです」
「そう我々の野生が……いえ、グルメの血が騒いだのです!」
きらきらと目を輝かせながら熱弁をするハカセと助手。
「なので、早速新しい茶葉を作ってきたのです。新しい味をも追及する。我々はグルメなので」
「ちゃちゃっと作ってきたのです。それに我々が手を加えたものは美味しいに決まっているのです。じゅるり」
ほのかに香る紅茶の香りに興奮を隠せない助手はよだれまで出てきてしまっていた。上手く隠しているつもりだろうが、ハカセの口端にも光るものが見えていた。
「ふぇ~、はかせたちはすんごいね~!いつもはもっとつくるのに、じかんがかかるっていってたのにね~」
「当然なのです。我々は賢いので」
「本気を出せば造作もないことです。我々は賢いので」
「……決していつもは興味がないのでほったらかしにしているわけではないのです」
明後日の方向を見て話すハカセ。
「はいできたよ~。どうぞ~はいどうぞ~、ときたちもどうぞ~」
相も変わらずにこにこと笑顔で嬉しそうに紅茶を皆に配るアルパカ。
「では、早速。ごくり。ほう、ほうほう。なかなかどうして美味しいではないですか」
「ごくり。ほう、流石我々の紅茶。それにしても、何故かお腹が空いてきた気がするのです」
そう言うと不思議そうにお腹を撫でる助手。
「あら、この紅茶も美味しいわね。それに確かにお腹も空いてきた気がするわ」
「さっき柱でジャパリまんを食べてきたばかりなんですけど」
はじめはおっかなびっくりといった風に飲んでいたハカセ達であったが、直ぐにがぶがぶとカップの紅茶を飲みほしてしまった。
「けぷっ、おかわりなのです」
「さあ、早くするのです」
早々に紅茶を飲みほしたハカセ達は、机をばしばしと叩きながら次を要求する。その様子を笑顔で眺めながら次の紅茶を作っているアルパカ。
「ふふ、風情というものがわかってないわね」
「ふうん、そういうの、全然わからないんですけど」
そう言いつつもカップを静かに傾けるショウジョウトキの仕草は、様になっているように見えた。
「ごくり、ごくり、これならいくらでも飲めそうなのです」
「そうですね。なかなかどうして紅茶というものもあなどれな……うぐっ」
「むぐっ」
「「お、お腹が……」」
新しい紅茶? える @eruchi
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