ゆけむりに隠れる影

 その後も温泉施設には誰か訪れているようだった。もちろんたまに知り合いが来ることはあるがその場合はたいてい2人に挨拶して帰っていった。だが、たまに施設から出かけて帰ってくると風呂桶の位置やバスマットの位置がズレているのに施設には誰もいないのだ。勘違いの可能性もあるので、ギンギツネはわざと風呂桶を入口の邪魔なところに置いたり、風呂場の床に雪を敷き詰めてみたりしたが、いずれも誰かが来た痕跡があった。



 そんなある日、2人は猛吹雪の中温泉施設に来ていた。ふもとの施設のあたりまで吹雪くのは珍しい。



「誰かいる。」

「え?外はものすごい吹雪よ。風の音じゃないの?」

「ううん、間違いない。」


こういうときのキタキツネの話は正しい。マイペースだが、五感はギンギツネが舌を巻くほど優れている。


「アンタはここで待ってて。万が一私が取り逃がしたらよろしく。」

「わかった。」


施設の入り口にキタキツネを残して、ギンギツネは奥へ進んでいく。脱衣所、そしてカラカラと引き戸を開けて露天風呂のあるところまで進む。



「いない…。」



やはりキタキツネの勘違いか。と思ったそのとき、物陰から何かが動いた。


「あ!待ちなさい!」


ギンギツネは振り返ったがハッキリと影を見ることが出来なかった。




「わーーーー!」



普段あまり大きな声を出さないキタキツネにしては大きな声がした。



しまった!とギンギツネは思った。どうして他のフレンズだと思ってしまったのだろうと。セルリアンの可能性を考えなかったのだろうと。セルリアンは水に弱いというが、今までそんなセルリアンがいなかっただけかもしれない。それなのにキタキツネを1人にしてしまった。後悔の念で涙が出そうになったが必死に声がする方向に走った。


「お願い、無事でいて…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る