違和感
すっかり寝てしまったキタキツネをギンギツネは起こそうとするも起きず、さりとて負ぶって運ぶことも出来なかった。
「仕方ない。あの手を使うか…」
ポツリとつぶやき
「あーあ。寝ちゃったんじゃしょうがない。私は温泉にもどるか。ゲームもあるのになー。」
むくり、キツネの耳はいい。
「ゲーム…。そうだゲームだ。何をしてるのギンギツネ?はやくはやく。」
先ほどまでテコでも動かなかったとは思えないほどの速度でキタキツネは進んでいく。
「全くゲンキンなんだから。」
口では愚痴を言うギンギツネも心なしか口角が上がっていた。
ギンギツネたちが管理している温泉施設はすぐそこにあった。にも関わらずキタキツネはそれに気づくことはなく、ギンギツネを困らせていたのだった。もちろん本人は困らせようとしたのではなくあくまでマイペースを貫いた結果なのだが。
「あ、コラ!ゲームより先にお風呂でしょ。」
「えー、いいじゃん。1回くらい。」
温泉施設に戻ってもキタキツネはマイペースだ。そしてギンギツネもそのマイペースに惑わされずに注意する。キタキツネがゲームを1回で終わらせる訳がない。
「ほら、行くよ。」
「あーうーゲーム、ボクのゲーム。」
「はいはい。お風呂から上がってからね。」
ズルズルとキタキツネは引っ張られるものの大した抵抗はしなかった。こうなったらギンギツネの言うことを聞くしかないのは分かっていた。
「さあ、お風呂に入ってさっぱりするわよ。」
湯船の前に2人が到着して、そこでギンギツネはあることに気づいた。湯船のある部屋の前には風呂場の湿気が入り込まないようにするため引き戸があるのだが、そこが開いていたのだ。
「アンタ、開けっ放しにしたでしょ。他の部屋が湿っぽくなるから閉めなさいってあれほど…」
「ボクじゃない。今朝、出かける前にお風呂に入ってたのはギンギツネじゃないか。」
「あ、そっか。…ごめん。でも私はちゃんと閉めたはず…。」
誰か来たのだろうか。もちろん温泉施設は2人だけのものではない。だがそもそも温泉にわざわざ近づこうとするフレンズは滅多におらず、もの珍しさに見学に来るフレンズがいても湯船に入らず帰っていく者がいるほどだ。水辺は動物によっては危険と隣り合わせなので無理もない話だ。
ギンギツネは誰か来たのかと思ったが、知り合いなら挨拶くらいするはず。でもいないということは新しいフレンズ?
あれこれ湯船に浸かりながら考える。結果、長湯になりちょっとのぼせたのはカラスの行水ならぬキツネの行水で、ゲームに夢中のあの娘にはナイショだ。
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