過去


『曖瀬、パパから手紙よ』

『てがみ?』


それはまだ私が5歳になったばかりの時。

この時も例外なく、お父さんから手紙が届いた。


『なんかおっきいね』

『本当…何が入っているのかしら』


ただ、手紙と一緒に届いた包みはこの時だけだった。母の手の平位の大きさ。

開けてみると、それはカセットテープ。


『ままぁ、なにこれ?』

『カセットテープよ。何かしら…』


母が手紙を読むと、突然カセットテープをデッキに差し込んだ。再生すると、男の子の声がした。


《きんちょうするね》

《もう声入ってる?》

《うん、入ってるよ》

《あー…こんにちはっ》

《曖瀬ちゃんだっけ?たんじょうびおめでとう!!》

《ぼくたちは、きみのおとうさんのお友だちです》

《きみのおとうさんのおうちの近所にすんでます》

《おはなしをきいてたら、むすめがたんじょうびだっていうから…ぼくたちもおいわいしようとおもいます!!》

《ぼくたちは、うたをつくってうたうのがだいすきなので、うたをプレゼントします》

《きいてください、"たんじょうびのうた"です》

《そのまんまだね》

《いいからうたうよ!!せーのっ》


【今日はたいせつなたんじょうび

だいすきなきみのたんじょうび

きみにつたえたいハッピーバースデー

だいすきなきみへハッピーハッピーバースデー

今日はとってもすてきな日

生まれてきてくれてありがとう】



この歌を聴いたとき、何かが私の中で響いた。

まともに歌を覚えたのはこの曲が初めてで、私は何度もこの歌を聴いた。





それから11年


私は16歳になった


あの時の男の子の正体は未だにわからない

私と母と、その男の子(お父さんもかな?)しか知らない"たんじょうびのうた"


まさかこんな簡単に、真相がわかるなんて全く考えてなかった




それは、あの日の私の誕生日会の翌週

いつも通りの学校。いつも通りの昼休み。


「ゆーくん私のパン盗った!?」

「ひらないよーもぐもぐ」

「って食べないでよ馬鹿!!」

「オイ歪深」

「冗談だよーこれ自分のパンだしー」

「じゃあ私のパンは…」

「まだまだ隙だらけだな曖瀬」

「………ひーくんっ!?」


まさかひーくんにパンを盗られるとは…


「もうっ…まーいーけど」

「悪い曖瀬、ふざけが過ぎたな」

「いや、ひーくんがこんなことするとか逆に新鮮でいいかも」

「えっ僕は?」

「ゆーくんいっつもじゃん飽きた」

「曖瀬ちゃん本当僕に酷いよね…」


いつも通りの会話。いつも通り。



でも、この後ちょっとした事件が起きるの。いや、私からしたら結構な事件が。



「ごちそーさま、トイレ行ってくる」


そういってトイレへ向かう。

しかし、着く手前でポーチを忘れたことに気づく。運の悪いことに、今は月1のアレだった。


「うわっ最悪…」


仕方ないので教室に取りに行くと、双子が話していた。

なんとなくの思いつきで、さっきの仕返しをしようとそぉっと近づいた。

脅かそうと思ったから静かに…静かに。


私たちの席は今は教壇の前だったから、教壇の影から飛び出てやろうと隠れた。

会話のタイミングを図ろうと耳を澄ますと、双子の会話が聞こえた。




「あの時歪魅、結構食べてたよねぇ?」

「…腹が減ってたんだ」

「主役の曖瀬ちゃんより食べてたよね?」

「歪深も負けてなかったと思うんだが」

「そうかなぁー?」


どうやら…私の誕生日会の話のようだ


「そうそう、曖瀬ちゃん送ったときはびっくりしたよー」

「…何にだ」

「曖瀬ちゃんが歌うなんて珍しかったしさー…ねぇ、今度の新曲コーラスに入ってもらわない?」

「確かに思ったより上手かったな。普通に歌ったら結構なものだろう」

「だよね?あの時はボソボソとだったから聞こえにくかったけど…」



…止めろ!!私の居ないところで…照れるじゃんかッ!!!


てかやっぱ聴かれてたのか…突然双子が追いかけてきたからびっくりしたんだよね。

それより…私をコーラスとか何を考えてるの?私はイラストだけでいっぱいいっぱいだからね!?


ちなみにここまでは大した事件ではない。

問題はこの後だった。



「…曖瀬ちゃんが歌ってたのってさ、あの歌だよね?」

「……恐らくな」

「覚えてたんだね、たんじょうびのうた。ねぇ、歪魅は歌える?」

「一応覚えてはいる」

「ですよねー。ま、初めて作ったやつだし思い入れあるからね」

「単純に覚えやすかったしな」

「ハッピーハッピーバースデーとかね」



…は?



「…どういうこと?」


「!!?」

「えっ…なんで曖瀬ちゃんがいるの!?」


思わず飛び出してしまった。

まぁ脅かす、という目的は果たせた。


…違う意味で、かもしれないけど。




「ねえ…なんで知ってるの?」

「何をー?」

「…たんじょうびのうた」

「あー、んとねー…」


お茶を濁してごまかすゆーくん


「…歪深、もういいんじゃないか」

「でも…約束…」

「もう10年は経ったんだ、そろそろ時効だろ」



キーンコーンカーンコーン


「って予鈴鳴ったし」


最悪、トイレ行けなかった…


「…わかった。曖瀬ちゃん、今日の放課後空いてる?」

「空いてるけど…」

「じゃ、帰りにでも僕の家に来てもらえるかな?……ちゃんと話すから」


大体内容はわかった。どういうことなのかもなんとなく予想はつく。


「OK。帰り真っ直ぐ寄らせてもらうね」

「…ごめんね」




本令がなって5時間目が始まる。

でも、話が気になって授業が頭に入らない。先生に頭をはたかれても気にしない。






「やっと終わった…」

「曖瀬、何回先生にはたかれてた?」

「わかんない、5回目までは覚えてるんだけどね」

「そんなに気になるか」

「うん、もうひーくん今全てをさらけ出せよ」

「…家で全部話すから」

「なんで田中家に行かなきゃ…」

「嫌か?」

「なんでそうなるのさ」



その後、掃除を終えたゆーくんも合流して田中家へ向かう。

別に帰り道で話してくれても良かったのに…2人は全くその話に触れなかった。




「おじゃましまーす」

「どーぞどーぞ」


今日はゆーくんの部屋に通された。

いつもはリビングなのに…


「俺もお邪魔」

「歪深も入るのは久々だっけ?」

「ああ…しばらくぶり」

「気づいたら全然互いの部屋に入らなくなってたねー」



ゆーくんがひーくんの部屋に入らなかったのもだけど、何よりも…私も初めて部屋に通されたのが気になった。





「…さてと」

そういうとゆーくんはクローゼットへ向かう。しばらくして持ってきたのは一冊のアルバムだった。


「ここ、みて」


ゆーくんがアルバムを開いた。

小さい頃の2人。その中で彼が示した写真…それは小さな双子と1人の男……


「………お父さん」



私の父だった。




「…なんで?」

「日付は11年前の9月16日」

「私の誕生日…11年前って…」

「そ、曖瀬ちゃんがあのテープをもらった日だよ」


そういえばテープの中で喋っていたのは男の子が2人。



「やっぱ…2人が?」

「そういうことだ」

「びっくりした?」

「いやぁ…ここに来るまでに予想はついてたから…でもなんでお父さんと?」


そうだ、そこが大事。


「んとね、僕たちがこっちにくる前に住んでた家の近所に曖瀬ちゃんのお父さんもいたんだよ」

「お父さんが?」

「…よく近くの公園に来てて、遊びに来ていた俺たちの相手もしてもらった。そこで曖瀬の存在も知ったんだ」

「そうなんだ…」


「納得したかな?」

「ん…まぁ…」

「ごめんね、今まで言えなくて…その、恥ずかしかったんだよ」

「まさかあの時の娘に会えるとは思ってなかったからな」

「…もういいよ、わかったから」


正直、もう父親のことはどうでもよかった。2人があの時の男の子だとわかっただけで充分。


「さっお菓子でも食べよ?学校で食べ逃したやつが結構あるんだよねー」

「…太るよ?」

「いいのっほら、ゆーくんお茶出して!!」

「曖瀬ちゃんも遠慮しなくなってきたねー」



そういってハハッと笑う2人。

よかった、いつもの雰囲気に戻せそう。









「あー疲れた」

ただいま帰宅。正直疲れた。

部屋に戻るなり、あのテープを聴いた。


「…これが5歳の双子かぁ…いや、まだ4歳かな?」


写真の双子は4~5歳にしては大きかった。昔は体格がよかったのかな?

「…よし、描こう」


そろそろ新曲のイラストを描き始めないと。今回はアニメーションにするから時間がかかるんだよなぁ…


曲を聴きながら描こうとして、動画サイトへ飛んだ。ちなみに音楽プレイヤーはない。PCはあるのに…



前回、双子が出した曲をかける。画面には私が描いたイラストが映し出され、歌詞と視聴者のコメントが流れた。


「あっコメント増えてるー……」



流れるコメントを眺めていると、色付きで目立ったコメントが私の目を奪った。





【これで本当に高3?】



…へ?高3?




新たに知った双子の事。

私はまた、よくわからない凄い事実を知ってしまったのかもしれない……







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