圏外




【曖瀬へ

誕生日おめでとう。曖瀬も16歳か…曖瀬、立派な大人になったのかな?16歳じゃまだ子供か。でも結婚できる歳なんだ、気持ち的にも大人になったんだろう。

いつも会いに行けなくてごめんな?でも、遠くからでも俺は曖瀬の事を思ってるよ。これからも頑張れ。母さんをよろしくな

                            父さんより】






毎年、私の誕生日辺りに届く手紙

いつもは誕生日よりも前に届くから、感覚的に手紙が来た=誕生日だと思っていたのかも。(誕生日を忘れていた言い訳)


私は父親を直接見たことは無い。

母は結婚してるし、だからと言って離婚したわけでもない。まぁ言えば《十数年に渡る長い喧嘩》をしているようなもの。

写真でしか見たことがない父親とはこの手紙しか繋がりはない。


近い筈なのに、まるで圏外の父親

いつか会える日は来るのだろうか






「曖瀬ちゃんのお母さんってどんな人なのー?」

「何突然」


毎度ながら昼休み。

パンを頬張ってたら横から話しかけられた


「別に普通の母さんだけど」

「だから普通って何」


ひーくんの鋭いツッコミ…挫けないよ私は

「お父さんは?」

「……」


まぁ、この流れならそう聞かれるよね


「家にはいないよ」

「そうなんだー単身赴任?」

「まー近いかな、会ったこと無いけど」

「あれ、そうなの」

「あ、死んでるとかっていうオチじゃないよ?ちゃんと生きてるし」

「…死んでたらこっちが困るよ」

「へ?」

「ん?」

なんだろう、なんとなくだけどゆーくん少し元気が無い…?



「2人の父親は?」

「曖瀬と同じ感じだ」

「えっ家にいないの?」

「死んではないけどねー」

「じゃあ私と同じだ」

「違うとしたら僕達は父親に会ったことあるとこかなー?」

「へぇーいいなぁ…」


するとゆーくんが小声で何かを話した気がした。


「え?なんか言った?」

「………ううん、何回かしか会ったことはないよって言いたかっただけ」

「なーんだ」


双子の家も父親いないのか…

しづ母さん若いのに3人も育てて大変そうだな…特にあの双子じゃ…


「あ、チャイムなる前にトイレ行こー」

「俺も行く」

「何、双子で連れション?」

「やだ歪魅、僕とトイレで何する気!?」

「馬鹿じゃね」

「酷いよーぅ」


さて、私は2人が居ない内に昼寝しようかなー…最近イラスト描いてて寝不足気味の私です


「ふぁぁッ…眠い…」






「…曖瀬ちゃん、あの人に会ったこと無かったんだね」

「あぁ」

「ま、あんな人会わなくて良いと思ってるけどねー僕は」

「…そういえばさっき、お前らしくない台詞を吐いてたな」

「そうだっけ?」

「……いや、何でもない」

「何々ー」

「はぁ…俺は先に戻る」

「はーい」



……


あー、歪魅にも"嘘"をつくとか

本当に僕らしくもないや

いや、歪魅は気づいているんだけど


でもさ


事実を言っただけなんだよ




「会っても良いことなんてねーよ」








放課後ですが



「沢山食べてね?」

「あっはい…」


どういうことでしょう

私は今、何故か、どういうことなのか


田中家にいます

しかも、双子に呼ばれたわけではなく


「曖瀬ちゃん、紅茶のおかわりは?」

「大丈夫です…」

「もーおにいちゃんたちはまだ帰ってこないのー?」

「もう少ししたら帰ってくるわよ」

「うごめ早くケーキ食べたいー!!」

「こら、今日は曖瀬ちゃんの誕生日なんだから」


志津子様…志津母さんにお呼ばれされたのです




今日は何故か私の誕生日会をするらしい

私の誕生日を聞きつけた志津子様が

「曖瀬ちゃんを家に呼びなさい!!」

と言ったらしい。流石は天下の志津子様



「突然呼んでごめんね?」

「いえっむしろ悪いです…お菓子とか色々用意までしていただいて…」

「いいのよ全然!!曖瀬ちゃんも家族みたいなものだしね」

「曖瀬おねーちゃんも家族!!」

「そんな…嬉しいです」


畜生、大好きな志津子様にそんな事いわれたらまた倒れるじゃないか




「ただいまー…」

「疲れた」

「お帰りなさい」

「ひーくんゆーくんお疲れ様っ!!さて、ケーキ出すわよー」

「やっとケーキだぁぁあ!!」

「ちょっまだ僕帰ってきたばっか…」

「疲れた」

「ゆーくん、疲れたしか言ってないし」



その後はケーキ食べて…お菓子も沢山食べて…色々話して…


気づいたら夜の7時になってた



「あ、もう帰らなきゃ」

「曖瀬おねーちゃん帰っちゃうの?」

「ごめんね、うごめちゃん」

「じゃ、僕送るよー」

「俺も」

「あら紳士」




おじゃましました、と言って歩き出す

この時期はまだそこまで暗くはないから送ってもらわなくても大丈夫だったけれど、たまにはお言葉に甘えてと2人についてきてもらった。


「…今日、すっごく楽しかった。ありがとう」

「いや、誘ったのは志津母さんだ」

「そうだよ…むしろ家であんなお菓子食べたり遊んだり話したりって楽しかったのは僕たちもだよ!!」

「そう?あっ志津子様にも改めてお礼言っておいて下さい」

「あぁ、伝えとく」

「そうそう、それとね…あっゆーくん携帯持ってて」


私は手に持ってた携帯をゆーくんに預けて鞄を漁った。取り出したのは紙袋…必死に作ったクッキー。


「これ、お礼…たまたまだけど。」

「えっ曖瀬ちゃんが作ったの!?」

「うん。あんまうまくないけどね」

「何故家で出さなかったんだ?菓子と一緒に出せたのに」

「ほら…私あんま料理とかしたこともないし自信なくて…ね」

「確かに、僕もあんなお菓子の中に自分の作ったケーキとか出せないや」


アップルパイなら対抗できるよ、ゆーくん


「でも…やっぱお礼したかったからあげる。不味かったら捨ててもいいから」

「曖瀬が作ったクッキーを捨てるわけがない」

「そうだよ!!ちゃんとみんなで食べるからねー、楽しみだなぁ」


よかった。拒まれてはいないみたい。


正直食べてくれなくても捨ててしまっても、受け取ってもらえるだけで嬉しいよ





「ここまででいいよ、ありがと」

「えっ家まで送るよー?」

「大丈夫、もうすぐだし」

「そう?じゃあ明日ね!!」

「クッキー、ありがとな」

「どういたしまして」





双子と別れてから数歩

ふと、頭の中でとある歌がよぎった


「…きみに…つたえたい…はっぴーばーすでー…だいすきな…きみへ…はっぴーはっぴーばーすでー…」










「あっ曖瀬ちゃんの携帯…」

「歪深…忘れるなよ」

「やっちゃったねー…携帯は困るよなぁ」

「届けるしかないだろうな」

「だよねー…さっき別れたばっかだしまだいるかな?」


僕、田中歪深は預かってと頼まれたまま持ってきてしまった曖瀬ちゃんの携帯を弟の歪魅と届けにいきます。

ん?なんでフルネームで言ったのかって?みんな僕の名前覚えて無いだろうなって思ってね。正直僕自身本名を忘れかけてたよ…あ、気にしないでー



とか言ってたら前方に曖瀬ちゃん発見。まだ家まで着いてないじゃん、だから送るって…


「…き……つた…た……ぴ………す…」


ん?曖瀬ちゃん歌ってる?これは貴重だ。


「…だいすきな…きみへ…はっぴーはっぴーばーすでー…きょうは…とってもすてきなひ…」


「えっ…」


驚いた。曖瀬ちゃんが歌ってた曲は……まさか………


「おい馬鹿」

「へ?」


後ろから歪魅の声がしたと思うと手に持っていた携帯を取られ、気づいたら目の前にいた。



「…おい、曖瀬」

「ッ…!!?なっなんでひーくんが!?」

「忘れ物」

「あ、携帯預けちゃったままだったのかーごめんね?」

「いや、別に…じゃあな」


うん、じゃあね と彼女の声がなんとなく耳に入り、僕はハッとした。


「なにしてるんだ」

「…ごめん、ボーっとしてた」

「……曖瀬の歌が気になったのか」

「!!聞こえてた…よな」

「確かにあれは"あの歌"だ。それを曖瀬が知っていても不思議じゃないだろ」

「それは…そうだけど」


曖瀬ちゃんが歌ってたのは

他の誰も知らない、曖瀬ちゃんだけの"たんじょうびのうた"のハズだ。






でも、その歌は



僕達にとってもかなり身に覚えのある歌なんだ





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