夢追


そんなことを思い出しながら授業は進み、気づけば帰宅時間になっていた。

私はまっすぐ帰るだけ。



「あれー?曖瀬ちゃーんどぉこ行く系ー?あれれー?」

「歪深、それは流石に引く」


…この双子に捕まらなければ、の話だけど




気づくと私は田中家にいた。


「いつもごめんね崎山ちゃん、家の馬鹿双子が」

「いえ、大丈夫ですよ」

「あのっしづちゃ…」

「志津母さん…お茶お願い」

「やだ忘れてた!!今出すから待っててね」

「いやいやおかまいなく!!」


なんだかばたばたと構われています

お母さまらしき方がお茶を淹れに部屋を出るとゆーくんが話しかけてきた


「あのさ、曖瀬ちゃんに質問したいんだけどー」

「スリーサイズは言わないよ」

「えーケチーッ」

「歪深、趣旨変わってる」

「あれ?」


何がしたいんだゆーくんは


「誕生日っていつ?」

「は?」

「だーかーらー、誕生日」

「誕生日…?何、祝ってくれんの?」

「場合によっては祝ってあげるよー?」

「まぁ…ケーキ位は作る」

「ひーくんのケーキの為なら」


食い意地はってるとか言っちゃ駄目


「んと、9月16日だけど?」

「…そっかー16日ね、りょーかい!!」

「じゃあ次、血液型」

「はい?」


なんで私のプロフィール公開しなきゃいけないんですかねぇ?


「A型」

「僕と歪魅もA型ーっ」


だからどうした



それからも私のプロフィールを色々聞かれた。流石にスリーサイズは死守したけども。にしても、何故?


まぁ、双子のことも少しは知れたからいいか。でも初チューがお互いに双子の兄弟で女の子に見られたとかはどうでもよかった気がする。幼稚園とか可愛かったんだろうけどさ。



「じゃあ最後の質問」

「ん、今度は何?」



「どうして絵を描いてくれるの?」


「え?どうしてって…」

「実際絵を見て俺達の曲に嵌ったから俺は気に入ったけど、それはあくまで俺達の話。曖瀬には関係の無い話だった筈なのに詳しい話も無しに今も俺達に描いてくれてるのは何故か、と疑問に思った」

「何故かって……」


これは言ってもいいのだろうか、と何故かどもってしまう。


「けっケーキ、だよ!!ひーくんのケーキがあまりにも美味しかったから…」

「それぐらいでここまで考えて描いてくれるって相当だよ?ねぇ曖瀬ちゃん、本音、言っていいよー?」

「…えっと…その…」


言うことに抵抗は無い。けど…

何でかな、言いたくない。


「……わかった。なら、僕達の話を聞かせてあげる」

「2人の話?」

「うん、僕達がどうして曲を作るのか」



そして、ゆーくんが話し始めた。

曲を作る意味。曲で伝えたい事を。








むかしむかし、あるところに

双子の兄弟が住んでいました


2人は歌を歌うのが大好き

毎日沢山歌っていました


ある日、2人はある少女の存在を知りました。とても可愛い、妹の存在。


2人はその妹のために歌をプレゼントしようと、曲を作り始めました


まだ幼い2人はよくわからない歌詞に思いついたメロディを当てはめながら一生懸命頑張りました





それが、今の双子の曲づくりの始まり



「それからも曲を作って、僕達の伝えたい気持ちとか、今なりたい気分にしてくれるような物を作ってるんだよ」


「まぁ、そんな感じだ」


「そうなんだ…」


始まりは、妹の為…そういえば、妹いるって言ってたっけ





「で、曖瀬ちゃんの理由、知りたいんだけどー?」

「…やっぱ話さなきゃ?」

「うん、駄目ー」


まぁ、2人も話してくれたからな…

(双子が勝手に話し始めたということに気づいてない私である)



「……私」

「ん?」

「私、将来イラストレーターになりたいの。絵を描きたいの、沢山。

ひーくんに誉められて、凄く嬉しかった。

ゆーくんも私の絵が好きだって言ってくれて、励みになった。

元々、頼まれた時は…結構なファンも付いてるみたいだったから、もしかしたら将来の架け橋になるかもしれないって下心で…でも、双子の歌を聴いて…あ、好きだな。って思ったの。」


気づいたら、無我夢中で話してた

この際全部吐き出そうと。


「初めて描いたとき、後からファンに叩かれるんじゃないかとか考えたけど、逆に応援してくれる人がいっぱいいて…これからも描きたいって思った。まだ下心あるけど…それよりも、2人の歌が好きだから」


「…曖瀬」

「下心なんて関係ないのにーむしろそんくらい貪欲な方が良い絵を描いてくれそうだしさー?」

「歪深は黙ってろ。曖瀬、話してくれてありがとな」

「ん。」


なんか話して逆にスッキリしたかも

なんで躊躇ったのかな私…?




「それで、お茶のおかわりいる?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「いつの間にかしづちゃんいるし」

「志津母さん、大丈夫だから部屋に戻れ」

「えーっ私を仲間外れにしちゃうの?寂しい…ぐすん」



えーと、志津母さんは若いですね

年齢的にもだけど…


「早く仕事終わらせろって」

「んもーっ」


「志津母さん何の仕事してるの?」

つい気になって隣にいたゆーくんに聞いてしまった。勿論小声だよ?


「しづちゃんはイラストレーターだよ」

「えっ!?」

「"宮本志津子"って人知ってる?」

「宮本志津子って人知ってる…!!」

「あれ、そういえばイラストレーターになりたいんだっけー?」

「はい……あっあのっえっとッ…」


まさかの…まさかの…


「…大ファンです」

「あらま」


憧れの宮本志津子様が目の前に…


「宮本は旧姓なんだよねー」

「だって田中言っちゃったら近所にバレるじゃないの」

「別にいいじゃん」

「良くないわよ、面倒になるもの」



私の目の前で…宮本志津子様が面倒くさがっている…


「私幸せでぶっ倒れます」

「えっちょっ曖瀬ちゃ…起きて曖瀬ちゃーーーーん!!?」




「いきなり倒れてすみません」

「いえいえ、仕方がありません」


双子に介抱されてなんとか起きた私

憧れの人の前で気絶とか…


「そろそろ帰らないと…」

「あーもう7時だもんねー」

「明日、ケーキ持って行くから」

「うん!!」


と会話しながら玄関へ


「じゃあ…」

「ゆーにぃただいまーっ!!」

「ゴフッ」

「!?」


突然、本当に突然、女の子がゆーくんに突進してきました。何コレ。


「ちょっうごめっ!!離れてー!!」

「じゃあひーにぃ!!」

「ゴフッ」


いちいち突進する女の子。2人ともお腹抱えて大丈夫なのだろうか


「一回離れて、うごめ」

「はーい…ん?」


女の子がこちらを見ている


攻撃

逃げる

アイテム←


私は女の子に飴をあげてみた


「わぁい!!飴貰った!!おねぇさん大好き!!」

「懐くの早」


この子…多分双子の妹さんだよね…


「お察しの通り、僕らの妹だよ」

「やっぱり?可愛いね」

「でしょーほら、挨拶して」


「蠢くと書いて田中蠢(うごめ)、12歳!!小6だよ!!おねぇさんは?」

「私は崎山曖瀬です…」

「曖瀬おねえちゃんかぁ…よろしくっ!!」

「よろしくね、蠢ちゃん」


軽く受け流したけど"蠢"って…


「凄い名前だね」


あれ、声に出ちゃった


「?凄いかなぁ」

「蠢って蠢くって書くんでしょ?」

「そうだよ!!みんなも変な名前ーとかからかうの!!けど私この名前好きだよ!!!」

「そうなの?」

「だって春と虫が入ってるもん!!!春も虫も大好きだからっ!!!」

「……」


「あ、曖瀬ちゃん黙っちゃった」

「まぁ曖瀬の反応は正しい」






「じゃあ今度こそ、お邪魔しました」

「またおいでねー」

「いつでも来い」


今日は色々あったなぁ…双子の事も少しは知れたし、憧れの人には会えるし…

帰ったら頑張ってイラスト描かなきゃ












「誕生日、9月16日かー」

「……どうでもいいだろ」

「血液型も同じかー…」

「同じ人なんてゴロゴロいる」

「もー認めざるを得ないのかなぁー」

「……歪深」

「なぁに?」

「俺、ケーキ作ってくる」

「もー歪魅逃げる気?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る