邂逅



これは数か月前のこと。


「その絵…」

「…?」

「その絵、好き。惚れた」

「はい?」


初めて会話したのは、ひーくんと。

その時は美術の時間だった


「君が描いたのか?」

「…そうですが、何か?」


私は所謂人見知りで、同い年でも大半は敬語を使ったりと一線を引いてしまう

勿論、初めて会って数日の彼にもそれと同じように接していた


「カッコ良くて、俺は好き」

「ありがとうございます…」

「あ、突然話しかけてごめん」

「いえ、大丈夫です」


全然大丈夫ではない。既に心臓はバクバクしていた。別にときめきとかではない。どちらかというと不安でいっぱいだった


「これ、提出する?」

「もう一枚を提出するんでそっちは棄てる予定ですけど…」

「…じゃあこれ、貰う」

「へっ!?」


あ、変な声でた。絶対周りに笑われたコレ。どうでもいいけど。


「どっどうぞ?」

「ん、ありがと崎山さん」

「!!?」

「どうした?あれ、崎山さんじゃなかったっけ?」

「いえ崎山さんですけど」

「自分でさん付ける?」

「あ」


ついテンパってしまったようだ

いや付けねーよ常識的に考えて



「おい崎山、提出まだかー」

「あっすみません今提出します!!」


先生に促されて急いで提出し、戻ると彼は既に席に戻っていた。とはいっても斜め後ろだけど。こちらを見て軽く頭を下げたので私も下げる。すると私の隣で彼の前に座っていた男子が私に話しかけてきた


「先ほどはうちのおとーとが失礼しましたー」


…弟?

よくみると2人は顔がそっくり

まだクラスの人の顔と名前が一致していなかったのでそういえば双子がいたような…という認識だった


「あなたが兄だったんですか」

「そゆことー。よく歪魅の方が兄とか言われるけどねっ…なんで?」

「いやその口調だろ歪深」

「酷いなーおとーとよっ!」


双子っていうだけあって息ピッタリの掛け合いに私はつい笑ってしまった


「……笑った」

「へ?可笑しいですか?」

「いや逆に何で可笑しいのさーっ君笑った顔普通に可愛いよ!?いつも伏し目がちな子って笑うと可愛い系だったりするけどまさにそうだよ!!」

「おにーさんうるさい」

「うるさくないし!!」

「ぷっ」

「あっまた笑った!!」



それから急に仲良くなった私達

私は彼らに言われたとおり

"ゆーくん""ひーくん"と呼ぶようになり

彼らも私の事を

ゆーくんは"曖瀬ちゃん"

ひーくんは"曖瀬"と呼び捨てで


お互いを呼ぶことになった



「でもなんでゆーくんひーくんなの?」


私は基本苗字にくん付けかさん付け

だから他人をあだ名で呼ぶのは初めてだった。呼ばれたことはあるけど。



「なんでかって?」

「だって私から呼ぶならまだしも、自分でゆーくんとかって…」


ひーくんも"ひーくん"なんてキャラじゃないのにね


「うんと、しづちゃんにそう呼ばれてるんだよねー」

「しづちゃん?」

「そ。僕らの母さん」

「お母さんを名前で呼んでるの?」

「志津母さんは若くてとても母親とは呼びがたい」

「あ、ひーくんは志津母さんなんだ…って若いっていくつ?」

「あっ僕写真あるよー」


勿論今年のだよーとか言いながらゆーくんが生徒手帳から取り出したのは一枚のプリクラ。双子と一緒に女の人と女の子が写っている。


「えっこの人?」

「そうこの女の人ー何歳に見える?」

「えっと…」


私は高1で15歳。双子が既に誕生日を迎えてるかはわからないけど16歳と考えて…

「…34歳?」


これはせいぜい産んでも18歳とかその位なんだろうと考えた結果

まぁ実際もっと若く見えるんだけど…


「今年、31歳だよ」

「ふーん…はぁ!?」

「志津母さんが俺らを産んだのは15歳の時らしい」

「…ははぁ」


私の母さんで37歳なんだよ?

私らの年代だと若い世代なんだよ?


田中(志津)母、恐るべし若さ



「って話それたけど、そのお母さんがそう呼んでるから私にもそうしろと」

「まあ…そういうこと」

「そもそも、この名前好きじゃないんだよね僕ー」

「歪深って名前が?」

「うん、だって"ユガミ"だよ?漢字は嫌いじゃないけどぱっと見なんか嫌でしょー?」


確かにふざけた名前だと思ったよ

何考えてるの志津母さんは


「俺も歪魅は嫌い」

「"ヒズミ"…私は名前の響きは嫌いじゃないけどなぁ」

「変わってるな曖瀬…まあ俺は漢字の方が好きになれない」

「歪んで魅せるって凄いよねー」


「けど、お互いは名前で呼び合うよね。それはなんで?」

「……変に鋭いよね曖瀬ちゃんはー」


鋭い…?普通に疑問に思ったんだけど


「昔からそれで呼び慣れてしまった、それだけだ」

「そうそう!!物心つく前から呼んでたしー仕方ないんだよ、ね?」


そういう彼らは笑ってはいたものの




うっすらと冷たい目をしていた気がする



何故か不穏な空気になりかけたので話題を変えることにした


「そういえばこの女の子は?」


とりあえず先ほどのプリクラに写ってた女の子を指差す。とても可愛らしい、10歳位の子だ。


「ん?あぁ、妹だよーん」

「妹いるんだ…名前は?」

「うごめ、と言う」

「うごめってこれまた凄い名前だね」


漢字はあるのかと聞こうとしたら運悪く着信が入った。母からの催促。


「ごめん、早く帰らないとお母さんが怒るから…」

「あららー残念。ま、これから学校でも話せるしいーか」



それじゃあと別れを告げ帰宅する私達



その後、絵を貰ったお礼にとひーくんがケーキを持参してくれたのをきっかけにこの双子の曲に絵を提供することになったのだった。






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