第7話 ヒロインが二人以上の場合は危険信号 7
気が付くと、そこは暗い夜空に静かに波音が響く一面の海、そして満天に輝く星々達。
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。
恐らくだがユマロマとnichさんのデートが水族館からプラネタリウムへ移動した後、日頃の疲れからはすぐに夢の世界へ落ちてしまったのだろう。もしかしたら隣の席に座っている神様が起こそうとしてるかもしれない。
「そういや丁度南国の星々とか言ってたよな」
ニュージーランド付近の南半球から見た星は俺達が見ている星空とは逆に見えるのだとか。だからこうして見える星空もどこかいつもとは違う気がするのか。
せっかくなのでそのまま砂浜に腰を下ろし、やがて仰向けに転がった。
「あれ? 蒼じゃん」
「……どうも」
その人は真横に来ると、腰を下ろし、同じように仰向けになった。
「星、綺麗だね」
「日本じゃ見られないですから」
「でも確か南の方にいけば、ギリギリ見えたはずだよ」
「そうなんですか?」
「今度行ってみる?」
「……一緒に行ってくれるんですか?」
「うーん、それは気分次第。なーんてね、嘘。蒼ならいいよ」
顔が見えなくても、きっと笑みを浮かべているだろう。安易に想像が出来る。
「俺さ、来年の春には死ぬらしいんです」
「ふーん」
「全然驚かないんですね」
「そりゃあここ夢だし」
なるほど。現実では死なないと思っているらしい。
しかしその誤解を解かなければならないと思った。何せ相手が相手なのだから。
「残念ながら本当らしくて俺の輝かしい人生も二十代迎えぬまま、ジ・エンドです」
「輝かしいって絶対思ってないでしょ」
「こういうのは言葉の綾なんですよ」
「ふふ……やっぱ蒼だなー」
「適当だから何言ってもいいってやつですか」
「そういう事」
それはそれで悲しい所なのだが、夢の中だけだろうから、見逃すとしよう。
輝く星々はまるで別世界だ。届くようで届かなくて、近いようで遠い。そして同じように見えて、全く違う性質。
人間の社会もそうだ。あの時は大事な人だと思っていても、今はもうそんな風に思う事も出来ない。別に取り戻したい訳じゃない。ただもしあの時、俺が動く事がなければ今とは違う未来が訪れていたかもしれないから。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なーに?」
「どこかへいってしまったであろう意識を取り戻すにはどうすればいいと思います?」
「と、言いますと?」
「あんま詳しい事は話せないし、信じてもらえないと思うから例え話になってしまうんですけど、ある女の子がある日とある事故に合いました。目覚めた時、彼女の意識は消え、まるっきり別人の意識に切り替わっています。その別人というのがどこの誰なのかはわからない」
「なるほどなるほど。また随分と厄介な事に顔突っ込んでんだね」
「ほっとけ。で、どうですか?」
向こうからの返事はすぐにはなかったが、五分くらいしてからようやく声が響いてきた。
「きっかけ」
「きっかけ?」
「あくまで仮説だけどその事故には彼女以外にも巻き込まれている子がいた。恐らく入れ替わった子はその子の意識。だからその子の身体には今彼女の意識があると思う」
「まあ普通に考えればそうですよね」
「何で巻き込まれたのかは事故の種類にもよるけど、そこは置いとく。一応改めて言うけど、あくまで仮説だからね」
「わかってます」
「……多分だけど何らかのきっかけで自然と意識は戻ると思う」
思わず起き上がりそうになったが堪えて、話を続けた。
「理由は?」
「ニューロンって知ってる?」
「あれですよね。人間の脳にある」
「そう、神経細胞の事。結構前に意識の発生源として脳を取り巻いているニューロンが見つかって、それがそうなんじゃないかって。だから同じニューロンならば、何らかのきっかけで意識が切り替わる事が出来るんじゃないかって」
「いやでもそれは問題の答えじゃないですよね。意識が入れ替わってるんですよ?」
「確定はしてないし、仮定の話だからいいの」
強引に押し切られたがこれ以上は抵抗しても無駄だろう。
しかし考えた事もなかった。脳が別人の意識と判断しているなんて。確かにきっかけが起きる事で意識が入れ替わるのならば、辻褄は合うかもしれない。
ただ神様は自分の力で入れ替わったと言っている。とてもその言葉が嘘だとは思えないし、彼女自身の力を身を持って、経験している。
「さて。そろそろ時間ですよ」
「時間?」
「プラネタリウム鑑賞も終わり。また学校で会おうね」
「会えないですよ、俺達は」
「……本当に?」
「本当に」
そう答えてから目を閉じた。
波音だけが静かに耳の中で響き、その中に彼女の足音が聞こえる。どこかへ行ってしまったのだろう。
夢の中でよかった。もし現実で、顔を見合わせていたら、きっと余計な事を口走ってしまうから。
× × ×
「お目覚めですか?」
「んっ……どうだった?」
「綺麗でしたよ。あと先輩の寝息がそこそこ可愛かったです」
「どこを観察してんだ」
しかし寝てしまったのは事実なので返す言葉もない。
ひとまず席を立ち、劇場を後にする。
「ユマロマ達は?」
「外で待ってます。この後はご飯行くそうですよ」
「そ」
食欲はそこまでないのだが食べないと怪しまれる。ここは心配されないように我慢するか。
そう考えながら、劇場を出て、そのまま屋外に出た時だった。
「……雨宮?」
「……五日市?」
見間違うはずがない。紛れもなく五日市だった。
「め、珍しいじゃん。都内まで来るなんて」
「いやお前もだろ……」
埼玉県内に住む俺達がここまで来るなんて普通は考えられない。互いに何らかの用事があったのだと頭の中で詮索してるに違いない。
とりあえずここは一旦中に戻った方がいいか。
「あれ? 五日市先輩?」
「……あ」
あ。
その台詞を言おうとしたがその前に既に隣にいる神様と向き合っている五日市を目撃してしまった。
少なくともデートのサポートより面倒な事が待ち受けているのは明らかだった。
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