第11話 どちらかといえばクワガタ派 11



「雨宮君が停学になった」


おかしくない。

瀬尾川を煽って、暴力沙汰にする事であの場をやり過ごそうとしたんだもん。やっぱり人間はそう変わらないって事か。

そういえば刹菜先輩の時もこんな風にもやもやしてたっけ。


よくよく考えてみれば、どうしてあんな奴が好きなんだろ。

確かに顔立ちは普通の男子に比べれば、まあまあいいし、横に並ぶといい感じになるし。それから文句言っちゃってるけど、猫被らなくても素直に話せるし、あと……笑った時の顔がめっちゃ好きだし。


要するに上がるとキリがない。


 恋は盲目とはまさしくこの事だろう。

 だって雨宮と私だよ? 入学当初なら絶対想像出来ない二人組だよ? しかも私から好きになったんだよ? 全くわからないもんだ。


「五日市、聞いてるか?」

「あ、聞いてます。今日は文化祭の第一回会議に向けての資料作成ですよね」

「いや夏期講習後の生徒会合宿についてなんだけど……どうしたんだ」

「何でもないですよ。仕事に戻ります」


 机に座った私は逃げるように目の前のデスクトップパソコンを睨む。きちんと手も動かしてるからへーき、へーき。

 にしても停学二週間かー。意外と短いようで長いなー。


「そういえば楼真もそろそろ部活が落ち着くからこっちに顔を出すらしい」

「本当に全員揃わないですよね、この生徒会」

「まあ拘束している訳ではないし、ほぼ来ないという訳でもあるまい。むしろ部活に入ってない私と五日市くらいだろう。ここに毎日顔を出してるのは」

「あとはサナさんくらいですよねー」


 かたかたとキーボードを打ちながらもきちんと会話はしていく。だって無視してもこの人黙んないし。


「そういえば最近は雨宮ともよく会うな。彼も暇なら仕事の一つや二つくらい手伝わせようか」

「すでにお姫様の護衛がありますから」

「お姫様より上の存在だがね。でもそのおかげで神様は友人関係も上手く築けているらしいから効果はあったもんだ」

「それ雨宮関係あります?」


 そもそもいつまで護衛なんか続けてるのだろう。昼休みなんかも二人でご飯食べたりして、いつも傍にいて……カップルだよね、うん。

 ま、しばらくは謹慎だからあの子は一人だろう。じゃあ友達とご飯食べてるのかな……ずっとそれでいいのに。わざわざ上級生の教室に行くのも気が引けるだろうから、お昼くらいは護衛なんかいらないでしょ。


 と、思いながらぶつぶつと考えているとこんこんとノックする音が聞こえる。

 すぐに生徒会長が「どうぞ」と声をかけると扉が開き、生徒が入ってきた。

 リボンの色が黄色なので同級生か。でもこんな子いたっけ? 自分で言うのもあれだけど、私は結構顔の広さには自信がある。それに生徒会以外でもイベント行事に極力参加してきたおかげで相手が知ってる場合も多い。

 でも彼女は私を見ても、特に知ったような反応を示す様子もない。


「あ、あの今、お時間大丈夫ですか?」

「構わないよ。えーと」

「あ、島張一華しまばりいちかです。二年二組の」


 二組はそういえば知り合いが少ないっけ。

 ひとまずは軽く会釈すると、一華がこちらを見て、笑顔を見せた。


「初めまして、五日市さん」

「あ、知ってるのね」

「そりゃあ知らない人の方が珍しいですよ。雨宮さんの彼女ですし」


 ……ん? 今何か聞き間違いがあったような。


「か、彼女?」

「ええ。皆言ってますよ」

「み、皆?」


 顔が赤くなっているのは熱く感じたので分かった。

 いやだって……えええぇぇぇ!?

 何その噂!? 聞いた事ないんだけど!? うちのクラスが内紛状態の時にそんな噂流れてんの!? まじでクラスより深刻じゃん、それ。


「五日市、やっぱりそうだったのか」

「ち、違いますから! てかやっぱりってなんですか!」

「まあそれは置いといて。今は島張さんのお話を聞くとしよう」


 扱いが適当なのはあとでたんまりと怒るとする。


「今日は生徒会の皆さんにあるお願いがあって来たんです」

「お願い?」

「はい。六月にある体育祭についてなんですけど」


 まだ大がかりな準備に入ってないので忘れかけてたが六月の初めに体育祭が行われる。体育の授業でもさっそくそれぞれの競技練習に入ったり、放課後も部活動が対抗リレーの為に走ってる姿をよく見かけるけど、いざ近づいてくると仕事量の多さもやってくるので胃が痛くなってきた。


「そういえば体育祭の打ち合わせも来週あるな」

「資料ならご自分で」

「まだ何も言ってないだろう。とにかくその件はあとで相談だ。それで体育祭がどうしたんだ?」

「はい。生徒会の皆さんは体育祭で毎年やってる『運命の告白』はご存じですよね?」

「あの『誰々が好きだー』とか『実はニートだったー』っていうやつでしょ?」

「はい。ただその運命の告白なんですけど実はちょっとおかしな噂を聞いて」

「おかしな噂?」

「あの告白って事前に応募して、人数多ければ抽選で告白できる人数を決めるってやつじゃないですか?」

「公平にしないとまずいからな。意外と毎年募集が多いらしい」


 体育祭実行委員が面倒そうな顔をしていたのをきちんと覚えている。

 大胆な人が多いもんだ。


「それなんですけど、実は実行委員もしくはそれに関与している生徒会であらかじめ出せる生徒が決まってるって噂があるのは本当ですか?」

「……そんな訳ないだろ」



 別にその答えはおかしくない。

 ただ生徒会長にしてはずいぶん歯切れが悪いなぁと私はしっかりと見てしまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る