神様、君の初恋を僕に下さい。
鏑木鉱旗
第1章 初めまして、ハッピーエンド!
第1話 好きと嫌いは紙一重
高校生という生き物はまさに青春を具現化した生物といえる。
短い時間の中で友人と楽しんだり、泣いたり、時には好きな子が出来て、片思いを楽しんだり。他にも告白して上手く言ってリア充生活を楽しんだり、振られてメンタルズタボロになる奴もいる。ざまぁみろ。
あとは部活。中学からの部活をそのまま継続して、青春に捧げるって奴もいれば、新しい事に興味を持ち、一歩踏み出す奴もいる。まあ部活動なんざ向き不向きあるから仕方ないだろう。
そう、高校生活は人それぞれであり皆、自分の青春という名のページを毎日こつこつと書いていき、思い出という名の執筆活動をしている。皆が、だ。
だから自分も知らず知らずに勝手に書き進んでいるものだと勘違いしてしまうのだ。
それが書いたフリとも知らされずに。
「つまり彼女なし、女友達なし、男友達もなし、大好きな先輩、後輩もいない上に美人教師に手をだそうという男気もない」
「いや待って。いろいろ待って。確かにこのクラスではそうだけど、待って」
と
放課後の教室で相談に乗ってくれているのは委員長の
そんな彼女といるってだけでも、不思議と何かが書けそうなのに、ペンが進む事はない。実際には進んでいたとしても、それは白いインクで書かれているだろう。
「はぁ。一年間もおしゃべりに付き合ったのにこれだけって先生にどう報告すればいいのやら」
「いつも通り『問題なし。クラスメイトと交流を深めようとする傾向有』でお願いします」
「もう七回目になるのに友達が一人も出来ない。それを信じろと?」
「五日市さんが友達になってくれれば済む話ですよ?」
「敬語」
「あ、ごめん」
どうやら癪に障ったようだ。同年代の人と話すのはどうにも慣れていない。
「雨宮の更正なんてこの先の人生を捧げても無理そうね」
「そもそもクラスメイトを更正なんて失礼な話だな。これだから教師は信用出来ない。近頃は教職員の不祥事も相次ぐ社会だ。自分の事は自身の判断で任せるという事でいいと思うんだけど」
「そもそもこういうのって普通は中学生までよね?」
「確かに」
高校になってまでお節介をかけられるのは余計な世話ってやつだ、全く。
なんて思ったところで、ふと廊下から声が聞こえた。恐らく部活動をしている生徒だろう。丁度教室を通りかかる時に目が合ってしまう。
「ねぇ、あれって」
「うん、あれが刹菜先輩に……」
あのー、もう少し声のボリューム低くしてくれます? まあわざとか。わざとだよね? 俺にこそこそする必要なんかないもんね。
そんな事を心でぼやいていたが彼女達が通り去ると、再び現実のコミニケーションに目を向ける。
「そういえばもう半年だっけ。例の事件から」
「そうだね。半年記念日だからイベントとかやろうかね」
「ゲームと現実が一緒だと思ってるならすぐに病院へ行きなさい」
「ご親切にどうも。てか五日市さんとのお話も今日で最後かー、悲しいなー」
「私はやっと解放されるけどね。毎月、毎月面倒だし、遊びに行けないし、私にメリットなんかひとっつもないし」
「本当にありがとうございました」
「……こうして私と話す時は普通なんだから、普段からそうすればいいのに」
「いやいや。俺、話してからフレンドリーになるタイプなんで」
そこでチャイムが鳴った。時刻は午後五時。部活動もそろそろ終わりのミーティングに入る頃合いなので、帰宅ラッシュが続く前に去ることにしよう。
「それじゃあこれで終わりって事で」
「うん」
互いに荷物をまとめ、教室から出る。五日市さんはまだ用事があるのでここで別れることになる。
「じゃあ元気で。二年生は何の問題もなく過ごす事を紙切れくらいには祈ってる」
「五日市さんも。早く彼氏と仲直りできる事を祈ってる」
「ちょっ……それ誰から?」
「特技、聞き耳」
「死ね」
くすっといたずらっぽい笑みを浮かべ、ひらひらと手を振りながら、去って行った。見送った後は俺も昇降口へと足を進める。
今日は終業式だった。つい最近三年生が卒業し、一、二年生は来月から一つ学年がランクアップする。新しいクラスに期待に胸を膨らませたり、春休みを思い出作りに利用しようと考える者もいるだろう。
ちなみに手帳にはSNSで繋がったアニメオタクとのオフ会以外は何も書かれていない。バイトする予定も友人と遊ぶ事もない。更に補足するならば、学校関連で用事がつくことは卒業するまで一切ありえないだろう。この後の文化祭も体育祭も修学旅行もよっぽどの理由ない限りは全部休むと決意している。これは中々揺るがない。マグニチュードをいくら越えようが破壊されないだろう。
昇降口へ向かっていると、再び他の生徒とすれ違う。
「おい、あれ」
「ああ。あいつって不登校じゃねえの?」
「よく学校これるよね。あんな事しといて」
はい。学校来てすいませんねぇ。これでも職業、学生で通しているので許してください。口揃えて陰口なんて他に話題がないのだろうか。あんまり調子乗ってると社会に出てから大変だぞー。会社なんかで言ってみろ。録音すれば、十分な証拠に成りうるのだから。
もちろん彼等はそんな事を気にしない。本人にとっては無限地獄でも、皆にとってはごく一般的な当たり前の日常だから。雨宮蒼の陰口は自然と出てきてしまう、それくらいこの学校では有名人だ。
指定靴のローファーに履き替える。これ以上の生徒に目撃はされたくない。逃げるように校舎を後にする。
「それじゃあ、また数週間後に」
ぽつりと校舎に向けて、独り言を零して帰路に着く。
この一年、いや半年前から俺のページは筆が進まない。毎日『平和な一日だった』と自動的に更新されていく。なのでこちらから加筆する事は何もない。
春休みが終われば、新学期。新入生もしばらくすれば、先輩達から聞かされるだろう。雨宮蒼には近づくな、雨宮蒼と話すな、と。賢明な判断だ。五日市さんでさえ、担任の指示がなければ話そうとはしなかった。
それくらいの事をしでかしてしまったのだから。
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