第4話「仮面の情報屋」
『魔法少女探しの依頼とか、本当にウケますね。いつから貴女は、そんなことするメルヘンチックな女の子になったんですかねぇ、フフフ』
「笑ってんじゃねーぞ、仮面野郎。ぶち殺すぞ」
笑いで声を震わせながら語りかけてくる電子音声に、オーリムラクは苛立ちを隠すことなく食って掛かる。
場所はあるホテルの一室、オーリムラクはビデオ通話である人物と連絡を取っていた。画面に映るのは、白い仮面を被った人間だ。近世の西洋紳士のような帽子に厚いロングコートも羽織ったその外装からは、相手が男か女かさえもわからない。それが相手の狙いなのだろうと、オーリムラクは付き合った当初から認識していた。
画面に映り、仮面越しの電子音声で喋るこの人物の名は、サーチライト・エクスプロラトルという。
長ったらしい上に、不自然極まりないこの名は、当然偽名だ。それは当人も認めている。
名前といい態度といい、付き合う上では不誠実この上ない人物であるが、しかしオーリムラクにとっては、自分の知る限り最も優れた凄腕の情報屋であった。
そんな相手を威嚇すると、相手は肩を竦める。
『おやおや。それは困りましたね。貴女に狙われたら私の命は尽きたも同然……あ、でもオーリムラクさん、私の居場所分からないんでしたねぇ。残念でした~』
「貴様、ウザさに磨きがかかってねぇか?」
ギリッと、奥歯を軋ませてオーリムラクは画面を睨む。分かりきった挑発であるが、それを我慢するタイプでは彼女はない。
ただ、ストレスが溜まらないわけではない。憤る彼女に、サーチライトの軽口は止まらない。
『しかし、本当に魔法少女の探索などということを国家から依頼されるとは。実に可笑しく愉快な話ですね』
「……情報売る気ないんなら切っていいか? いい加減、私の堪忍袋の緒も切れそうだ」
『貴女にそんなものないでしょう。まぁそれはさておき、いい加減商談に入りましょうか。貴女が求めている情報に、心当たりがないわけではないですから』
肩を竦め、両手の掌を上へかざしながら、サーチライトは言う。ふざけた、まるで
「くだらない情報だったら、本当にぶち殺しに行くからな」
『フフフ、その点は安心を。では早速言わせてもらいますが、そもそも貴女はご存じではないでしょうが、魔法少女のような存在が確認されるのは、日本だけの話ではないんですよ』
「……なに?」
さらりと言われた言葉に、オーリムラクは眉根を寄せる。
『魔法少女、と形容すべきかどうかは分かりませんが、年頃の少年少女が力を得た様子で、超獣たちを駆逐している事例は、世界各地で確認されています。半年ぐらい前からですかねぇ、日本、アメリカ、フランス、その三カ国を発端に、そのような存在がちょくちょく見られるようになったのですよ。世界各国で、ね』
「聞いたことなかったが、そうなのか?」
『えぇ。もっとも、それを確認した国家は、大々的にはそれを報じたりはしていませんからねぇ。不思議と、そういう存在はメディアに捕まりにくく、風聞だけでしか伝わっていない……あるいは一部のマニアの間でしか話題になっていないようですからね』
「一部のマニアってなんだよ?」
『オーリムラクさんのような、メルヘン好きの二次元オタクたちのことです』
「殺すぞ?」
『ハッハー、やれるものなら。というか、日本のアニメや漫画文化が好きなのは事実じゃないですか。服装や武器、戦闘スタイルまでそれに影響されているくせに――』
「その話は今はいいだろ! それより、魔法少女の情報だ、情報!」
脇道に逸れかける話を軌道修正しながら、オーリムラクは叫ぶ。
「その魔法少女の正体、あるいは手がかりを何か寄越せ! そのためにお前にわざわざ聞いているんだぞ!」
『聞いていませんでしたか? 今言ったでしょう、風聞、あるいは一部のマニアの間でしか話題になっていない、と』
何故か、少し呆れた様子でサーチライトは言葉をつく。
その態度に、オーリムラクはある予想を得て、目を細める。
「つまり、分からないと言いたいのか?」
『
「……切るぞ」
『冗談ですよ、冗談。貴女が訊きに来ると思って、あらかじめ少し調べました』
ビデオ通話の電源ボタンに手を伸ばしかけるオーリムラクに、サーチライトは手袋で覆った手をパンパンと叩く。
するとその瞬間、彼の周りの画面に、様々な文字の羅列が出現した。それを見て、オーリムラクは動きを止めて、手を引っ込めて画面を見る。
『日本の、東海地方の魔法少女と思われるのは三人確認されています。ただ、情報筋次第ではもう一人いるらしいので、正確には三・四人いるのでは、と推測されます。そして、その出現傾向や、回数なども統計しました』
「仕事が早いな。で、どんな傾向が?」
『それがですね……妙なんですよねー。分散しすぎているのです』
少し、サーチライトにしては言い悩むように言葉を濁す。それに、オーリムラクが不審そうに眉根を寄せた。どういうことか、そう訊こうとする彼女であったが、その前にサーチライトは喋り出す。
『何処か一箇所に集中、あるいは偏っていればいいのですが、まるで居場所を特定させないようにしているかのように、東海地方、より絞ると愛知という地域の中で、転々と現れているのですよ。超獣の出現と同様にね』
そう言って、今度は腕を上げる。すると画面に、今度は地図が出てくる。日本の東海地方、愛知の地図だ。半透明なその地図に、赤いまばらな点が複数刻まれている。それが具体的に何を示しているのかは、これまでの話の流れから、自然と推察できる。
「……確かに、分散しているな。これじゃ、どこが魔法少女たちの本拠地か分からねぇ」
『でしょー? で、これが一番おかしなところなんですよ。彼女たちは、どうしてこうも分散して活動できるのか、ということがね』
「ん? どういうことだ?」
『分かりませんか? ではヒントを。彼女たちは、政府の超獣対策部隊である新選組より早く、超獣たちの許へ辿りついていることが多い』
そう言って、サーチライトは指を立て始める。
『彼女たちは、超獣の出現と同時に出現する機会が多い。また、活動場所が分散されていて、居場所が分かり辛い』
「……おいおい。まさか――魔法少女の出現と、超獣の出現には何らかの因果関係があるとか言いうことか?」
『
指を三本立てたところで、その指の一部を絡めた後、サーチライトは指を鳴らした。
『そもそも、この地域の超獣の出現は読めない。いつの間にか、どこからか分からぬ場所に現れている。これには、私は何かあると見ています。通常超獣は、人目を離れた場所に潜み、そして食事どきに
「……マジか」
その話に、オーリムラクは流石に頬を強張らせて悄然とする。
同時に、目の形が鋭く細まっていった。その手の現象に、彼女はある心当たりがあった。
「まさか、【創造の使徒(ゲネシス・アポストルス)】の連中が?」
『可能性はありますね。そうなると、これは一地域の問題ではなく、国家の問題に――』
頷き、
その画面をじっと見て喋らないでいるサーチライトに、オーリムラクは怪訝を覚える。
「どうした?」
『オーリムラクさん。チャンスが巡って来たようです。おめでとうございます』
そう言って、サーチライトは携帯をしまいながら手を叩く。
そして、こう告げた。
『たった今、愛知北東部に超獣が出現しました。どうやら、住民を襲っているようです』
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