取り立て業務(四)

 彼女とその先輩-井上とゆうらしい-の食事の日取りが決まりその前に打ち合わせも兼ねて彼氏役のハチと引き合わせる。彼女の顔が僕と最初に会った時より引きつっているのはハチが僕の弟分の中でもとびきり強面だったからだろう。僕と歳はそこまで離れていないはずだが老け顔で強面なものだから顔だけ見れば若頭くらいの風格はある。その顔の箔で最初から期待をかけられ実際に暴力が必要な時には活躍したらしいが義理人情に篤いバカとゆうのが致命的だった。組の裏切り者の処理を任されていたが口車に乗せられて見逃してしまったのだ。そいつはシノギの機密を持ってそれを手土産に他所の組へ移り当然シノギも打撃を受けた。幸いそのシノギのトップがうちの組の中でも有能な幹部だった為被害は最小限で盛り返すこともできたがその幹部の怒りはすさまじく殺されかけたとこを僕がなだめ-なだめたのは僕とゆうより僕が持参した金なわけだが-そこにさらに金を積んでハチを買ったとゆうわけだ。そんな訳で僕はハチの命の恩人でこの義理人情に篤いバカは僕の命令には命がけで取り組んでくれている。暴力がらみを頻繁に任せていたらその忠実ぶりと狂暴ぶりで”闘犬ハチ”などと二つ名がついている。ちなみに本名は全く違う。今回は暴力は厳禁で適当に脅してこの女はやめとこうと思わせればいいだけなのだが、果たしてハチが彼氏役をちゃんとこなせるか正直不安がないわけではない。

 

 彼女にもハチの人情派なところが伝わったのか打ち合わせの終わりの方には警戒感も溶けてきたようだった。1時間ほどで彼女と別れハチの運転で他の回収に向かう。ハチと一緒に向かうのは暴力が必要だからだ。ほぼ全てが電子決済で済む現代は現金の引き出しに面倒な手続きが必要でそれを省略できないようにセキュリティも厳重になっている。暴力で脅しその手続きを履行させるのは客の血を抜くようなものだと思う。ここまで至ってしまった客の将来はそう長くない。現金取り立ても出来なくなった時がその客の最終地点だろう。その意味でまだこの客には未来があるのかもしれない。

 

次の客の取り立てプランを考えているとハチが口を開く。

 「なんであんなにあの女に親切なんスか?」

 無視しようかとも思ったが弟分の勉強として一応答えてやる。

 「投資、だな。将来性があると思ったからだよ」

 「でも体売らせるわけじゃないんスよね?それで元とれるんスか?」

 体を売らせるとゆうのは金にはなるがそう簡単なものでもない。組同士のドラブルのほとんどはシノギをめぐるものだが、その中でも女の引き抜きはけっこうな割合を占める。ウチの組にしてもそうだが商品価値が高ければ他所の組より高い報酬を出してでも引き抜く。それが体を売っている女ならなおさらだ。そうゆう女はホステスのような女に比べて他所へ移ることに抵抗がなく平気で世話になっている者に泥をかける。

 「長い目で見ればとれるだろうな。それにもう金は受けととれることになっている。カジノの奴から人手が足りないからいい女がいたら回してくれって頼まれててな。悪くない値段で買ってくれたよ」

 ハチは流石だとゆうように感心していた。

 長時間労働にそれを支える薬その他もろもろ、世界のシステム自体ははドライな時代になってきたがだからこそ情がものをいう時もある。わざわざこんなことしなくてもカジノに売るのは簡単なのだから。だがハチのように情の力が想像以上の役に立つことも多くある。これはそうゆう投資だ。

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