取り立て業務(一)
午前11時、朝昼兼ねたサンドイッチとコーヒーを買って事務所に顔を出した。この事務所は薬の仕入れ・販売・売掛の集金を行っている販売店だ。
今は世界中でフレックスタイムとゆう働き方が一般的だが日本で世界と同じ意味でフレックスタイムなのは僕等ヤクザくらいだ。一般の企業では上限のない勤務時間でフレックスタイムと称して長時間労働が行われている。
事務所には所長以外は誰もいなかった。売人は基本的に夜勤だし事務所に人が少ないのは常だが仕入れ係までまるっきりいないのは珍しい。仕入れは先方の都合もあるので誰かしらいつも事務所にいるのだ。
「おはようございます。仕入れもまだ出社してないんですか?」
所長はパソコンから視線を上げ、
「おはよう。いや、近々群馬の生産工場に監査が来るらしくてね、その対応で出向いてるよ」
僕らはガサ入れのことを監査と呼ぶ。大抵は内通者から事前に情報は漏れているし警察も本気で取り締まる気はないのだ。ただ薬の普及で欧米諸国並みかそれ以上に増加した犯罪に対して、自分たちは良しとしていないとゆうアピールができればいいのだ。それは警察とゆうより国家の方針だ。
「いつもの茶番ですか。そもそも警官だってみんな客なのに、ナンセンスですね」
所長は笑いながら「持ちつ持たれつとはそうゆうことだ」と鷹揚に言った。
「それより今日から集金対象に1名追加だ。顧客リストに目を通しておけ。写真見た限り美人だからいくらでも金は作れそうだ、逃げられないようにだけ気をつけろ」
「新入社員…もうそんな時期ですか。忙しくなりますね」
僕は事務所備え付けのパソコンで顧客リストを開く。多くのことはネットワーク上で確認したり決済できるが顧客リストはスタンドアローンで機密している情報の一つだ。顧客リストの中から新たに集金対象に加わったその女を探し出す。
伊藤有子、22歳、雑貨メーカーに事務として勤務。パッチリした目と艶やかで暗めの茶髪が上品で男受けしそうだ。鼻筋も通っていて口の形もいい。確かに金を作るには困らなそうだ。客が女だった時の僕の悪い癖で、出来れば汚いことはさせたくないと思う。美人ならばなおさらだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます