640 恒例の合同依頼、穴場、魔法袋
翌日のシウは王都巡りである。ギルドに顔を出したり、知り合いの店に挨拶したりといつものコースだ。クロとエルが一緒だった。ロトスはコルディス湖に転移して希少獣組と遊んだ。
光の日は冒険者ギルドで依頼を受ける。シウがシュタイバーンに里帰りするたび恒例となっている、友人との合同依頼を受けるためだ。
養護施設に里帰り中だったレオンは「二日も休暇を取ったから」とやってきた。体が鈍らないようにだろう。
ロトスは不参加だ。クロとフェレスを連れてブラード家に向かった。アントレーネから通信が入り、一緒に薬草採取の依頼を受けるという。リュカの護衛も兼ねている。数日はミルトたちが護衛をしていたそうだが、もう少し森の奥へ行きたいらしい。ロトスなら王都近くの森に慣れている。薬草採取のスポットもシウが叩き込んである。
一緒に行けばいいとも思ったが、ロトスは首を振った。
「リグは親友なんだろ。積もる話もあるだろうし、ゆっくりしてきたらいいじゃん。夜も飲みに行ってさ」
「んー、じゃあ、そうする」
以前は一緒に行ったのに、成長したらこんなものかとシウは少々寂しい気がした。ところが、ロトスは「へっ」と鼻で笑う。
「どうしたの?」
「どうせ、リア充の相談とかされんだろ。聞いてられるかっての」
相変わらずのロトス節に、シウは苦笑した。ロトスは「リア充」とやらがどうにも気に障るらしい。
とはいえ冗談交じりだ。「邪魔になりたくない」を彼の言葉で変換するとこうなる。
「ああ、これがツンデレ?」
「はぁ? 俺が? 違うから!」
ロトスはドスドス足音を立ててフェレスたちを連れていった。
待ち合わせ場所にはすでにレオンとエアストが来ていた。次いで、フェンリルを連れたリグドールがやってくる。
シウはブランカにジルヴァーを乗せたまま手を振った。
「騎獣を借りたの?」
「よう、シウ。遠出は無理だって聞いたけど、荷物持ちがてら借りてきたんだ」
リグドールがフェンリルを振り返って笑う。
「今日もよろしくな」
「がうっ」
「顔馴染みか?」
レオンが問うと、リグドールは頷いた。
「卵石探しによく付き合ってくれたんだ。カッサの子の中でも特にコルへの気配りが行き届いていたし、しっかりしてるんだよな」
「そうか」
レオンは何か言いたそうな顔だったが、結局黙ったまま頷いた。視線がエアストに向く。
エアストは先輩フェンリルに興味津々だった。尻尾を振って近付こうとする。
「がうがうがう」
「きゃん?」
「がうがう、がうがうがう」
リグドールがシウを見る。通訳しろという意味だ。シウは苦笑いで答えた。
「フェレス組にいた割には飛びつかないし『まとも』だって、褒めてる、のかな?」
それを聞いたリグドールは腹を抱えて笑い、レオンは表情に困ったようだ。
「……俺には遠慮なく近寄っているように見えたが、これで褒められるのか」
「フェレスやブランカは飛び跳ねてたもんなぁ? カッサの子はみんな大変だったって、リコラさんが話してたっけ」
「ぎゃぅ?」
ブランカが名前を呼ばれたと思って割り込んでくる。フェンリルは途端に後退った。釣られてエアストもタタタッと寄り添うように動く。
シウはブランカに答えた。
「昔のブランカはやんちゃだったねって話をしていたんだよ」
「ぎゃぅ~」
「シウ、それだと、まるで今はやんちゃじゃないって意味に聞こえるぞ」
「今は落ち着いた、いや、騒がなくなったよ……」
言い直したシウに対して、リグドールは半眼になる。それからレオンを見た。確認するような視線だ。レオンは肩を竦めた。
「本当だ。しっかりしてるよ。今も我慢してるだろ。ジルを乗せているしな。エアストが騒いでも窘める時があるんだ」
「へぇぇ。ブランカも成長したんだな。偉いぞ」
「ぎゃぅ!」
「おっ、返事は昔のままじゃん。元気でいいな。ジルはどう? 俺を覚えてる?」
「くるるる」
目をくりくりさせたジルヴァーがチラチラとシウを見ながら頷く。
「うわ、可愛いな~。女の子っぽい」
「希少獣は人間の仕草を真似るというが、ジルヴァーには粗雑なところがないよな。シウが学校に連れていくからか?」
自分で話しておいて、レオンが首を傾げる。
「まあ、シウには冒険者仕草が少ないけどな。といっても周りはフェレスたちだぞ。冒険者も多い。なのにおとなしいだろ」
実際、ジルヴァーはおとなしやかだ。シウは少し考え、こう答えた。
「フェレスを真似ているのかもね。ほら、澄ましている時のフェレスは『高貴な猫』と呼ばれているでしょ。要領がいいから、だらしない部分も他人にはバレない」
「あー、あれな」
笑い合いながら、シウたちは王都の外壁門を通って森に向かった。
常時依頼の薬草を採取したあとは、少しだけ遠出をして珍しい素材を探すという名目で奥に分け入る。
といっても王都近くの森だ。虹石のような希少素材はない。
「相変わらずシウは目敏いな。今度は黒茸か。この場所、覚えとこ」
黒いフリルのようなひだが目印の黒茸は上級薬の素材になる。菌を殺す力が強く、医療関係でよく使われる。良い菌も殺すため使いどころが難しい。扱えるのは資格を持った薬師や医者、神殿ぐらいだ。
「俺も金青花の穴場をシウに教わったんだよな。養護施設の後輩にも教えていいって言ってもらえて、助かってる。あいつらも、ちゃんとルールを守ってるぜ」
レオンがシウに礼を言う。シウは笑って首を振った。
「ところで、リグも黒茸を使うの?」
「実験でな。浄化魔法以外にも綺麗にしておく方法は必要だし」
リグドールには竜苔の栽培実験を頼んでいる。新たな組み合わせや他の実験にも使おうと考えているようだ。実験室や器具の清浄さを保つのにも役立つのなら、黒茸を見付けて良かった。
シウは他にも使えそうな素材を探してはリグドールに教えた。彼はせっせと地図に書き込み、採取しては魔法袋に放り込む。
魔法袋は、竜苔の件を任せた時に渡した分だ。シウとしては報酬の一部のつもりだったが、リグドールは借りているという感覚らしい。
「これ、助かってるよ。あ、なあ、シウ。やっぱり魔法袋を買い取らせてくれないか?」
などと言う。
これに対して答えたのはレオンだった。
「シウはリグの手を借りるために報酬として渡したんだ。素直にもらっとけよ」
「えっ、どうしたんだよ、レオン。らしくないな。そういうの、嫌な性分じゃなかったっけ」
「まあ、基本的にはな。けど、こいつときたらパーティーメンバー全員に魔法袋を配るんだぜ」
「そういやレオンも持ってたな。確かに最近じゃ、王都にいる冒険者の多くが魔法袋を持って歩いてるから、そう珍しくはないのか」
さすがに大容量の魔法袋を買える冒険者は少ない。中級レベルのパーティーなら、彼等が初級の頃に泊まるような宿屋の一部屋程度が限界だろうか。それでも十分に高価だが、以前と違って手に届かない価格ではない。
「意味が違うって。メンバー全員って言っただろ。シウは希少獣にも渡してんだ」
「あ、そうか。そうだったな。フェレス、持ってたもんなー」
あれには驚いたと、リグドールが笑う。
「エアストやジルヴァーはまだ幼獣だから渡してないよ?」
「そういう問題じゃねぇ。希少獣に渡すってところが、もう非常識なんだよ。しかも、あいつらにとっては『宝物入れ』かもしれないが、入っているのは何の役にも立たないものばかりだ。ロトスに聞いて、俺がどれだけ驚いたか知らないだろ」
そこでシウも耐えきれずに笑った。
言われてみると確かにそうだ。蛇の抜け殻、綺麗な石、ツルツルした木の枝にヌイグルミや玩具の数々。生きるために必要なものとは言い難い。
冒険者が魔法袋に何を入れるかといったら、非常事態に備えた「生き延びるために必要なもの」だ。そして冒険の成果。
フェレスたちはそんなことは考えていない。
もっとも、シウは希少獣用の携帯食を念のためにと入れている。ただ、知っているはずのフェレスらはお腹が空いても食べようとしなかった。
忘れているのか、あるいはシウが必ず用意してくれると思い込んでいるのか。それにお腹が空けば森に行って勝手に採ってくる。そういう子たちだ。
「そんなだから、俺も悩むのを止めたんだ。だからリグも考えるな。素直にもらっておけ。いいな?」
「お、おう。ていうか、レオンいろいろ変わったよな」
「変わりもするだろ。鍛えられてるんだよ」
そう言ってシウをチラッと見る。リグドールは何かを察したように含み笑いでレオンの肩を叩いたのだった。
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【お知らせ】
まほゆか3巻が9月30日に出ます!
シリーズ合わせて19冊目となりました
これも応援してくださる皆様のおかげです本当にありがとうございます💕
魔法使いと愉快な仲間たち3 ~モフモフと新しい命と心機一転~
ISBN-13 : 978-4047380677
イラスト:戸部淑先生
今巻も素敵なイラスト満載です
一枚ずつ語りたいところですが長くなるのでX(旧Twitter)でやりますね
他に書き下ろしもあります(今回はキリク視点です)
表情豊かなシウや元気いっぱいのモフモフたち、中二病と言われるキリクを楽しんでいただけると幸いです
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