619 イグの小言と見回り、学校で魔獣の解体




 光の日は自由に過ごすと決めた。

 アントレーネは屋敷で使用人らの手伝い兼、子供と遊びながら体を鍛える。ククールスは朝寝を決め、午後から馴染みの店へ飲みに行くらしい。冒険者仲間と一緒だ。

 ロトスはレオンやエアストを連れて養育院に行く。プリュムに誘われたとか。

 シウはフェレスらを連れていつもの見回りだ。爺様の家やコルディス湖の小屋、崖の巣に秘密基地と急ぎ足で転移する。イグにも会いに行った。バルバルスとは訓練内容について顔を合わせて話し合う。

 その際、イグに「ちゃんと修行をしているのか?」と小言をもらった。シウは「忙しかったから」と、最近の出来事を説明したが――ロトスからも報告はあったらしいのだが――イグにとっては人間の世界で起こる事件など「些細な出来事」に過ぎない。

([さようか])

 と、軽く流されてしまった。

 シウもすっかり修行を忘れていたので、まとまった休みにクレアーレ大陸へ転移して頑張りたい。そろそろ畑も見て回りたいから、シウは脳内で計画を立てた。


 火の日、学校の様子が気になってレオンと共に向かうと、研究科からのメモがロッカーにあった。

「エルシア大河の魔獣スタンピードで倒した魔獣の処理、シーカーの生徒に回ってきたみたいだね」

 ピラッとメモを振ると、レオンも自分のロッカーから取り出したメモを見て溜息を漏らした。

「兵士だけじゃ厳しいのは分かるけど……。まあ、アイテムボックスがあるとはいえ数が多いもんな」

「魔獣を入れる魔法袋の容量が『小さすぎる』とぼやいていたからね。時間経過もあるらしいよ」

「さすがに俺たちが持つ魔法袋ほど高性能とはいかないんだろ。高価な魔法袋は偉い奴が使うだろうし」

 時間停止で容量が大きいとなれば、値段もそれなりだ。魔獣を入れておくだけには使えないと、上は考えたのだろう。

「まとめて処分すればいいのにな。王城なら魔法をガンガン使える場所もあるだろ。燃やせばいい。こんな面倒な作業、学校に振るなよな」

「今回の事件で費用が掛かりすぎているから、少しでも足しにするんじゃないの? ほら、小さくても魔核があれば売れるもの」

「あー、そうか」

「兵士もちゃんと手伝いに来るんだって。ここに書いてある。僕も手伝うよ」

「俺にも招集掛かってるからな。一緒に行く」

 シウとレオンも戦力として期待されている。それぞれジルヴァーとエアストを連れて研究棟に向かった。


 シウたちが到着した頃にはもう解体が始まっていた。中庭に大型のシートが敷いてあった。休憩場所は教室だ。

 解体を主導するのは魔獣魔物生態研究のクラスで、他の研究クラスはサポート役らしい。

 冒険者の姿もあった。国と学校が共同で依頼を出したという。シウの知らない顔だった。若い冒険者が多いため、新人だろう。

 指示を出しているバルトロメに声を掛けると、そうだと返ってくる。

「解体ができれば十級でもいいと依頼したんだ。解体が無理でも『手伝えるならパーティー全員で来てもいい』と付け加えたら、意外と集まってね。助かったよ」

 バルトロメはシウとレオンを歓迎した。レオンも魔獣魔物生態研究に在籍している。ただ、シウがまとめた資料を読んで勉強していることや、実際に冒険者として魔獣に接することもあって授業にはあまり出ていない。時折、課題をもらって提出する形だ。

 研究科では珍しいが、他の授業ではレオンのように課題で乗り切る生徒も多い。貴族の付き合いや仕事もあって忙しい生徒がほとんどだからだ。中には出席しないと点数を付けてくれない教授もいるが、大抵は課題の結果を見て、本人の理解があれば許してもらえる。

 レオンの場合は平民で「働かないと生活できない」といった理由があった。

 もちろん全く出席しないわけではない。ルイスやプルウィアに誘われて顔を出す場合もあるそうだ。彼等には「解体ができる冒険者」として知られている。

「週末は生徒だけでやっていたんだよ~」

 筋肉痛で動けないというクラスメイトが教室で休んでいる。シウはルイスたちに手を振り、早速取りかかろうとした。

 その前に。

「流れ作業にしましょう。今は各グループごとに解体しているでしょう。できない人が補佐についているのは良いとしても、その空いた手が勿体ない」

「というと?」

「まずは、練度ごとにグループ分けします」

 解体ができる者の中でも上級者中級者とレベルを分ける。

「僕やレオン、あそこの冒険者は上級者に入れていいです。グループ内で休憩も取れる。で、各部位に解体したものを中級者が更に細かく解体していきます。流れ作業でどんどん次に送っていけば、できない人にも作業が割り振れる。袋詰めにして何の魔獣か書き込んで魔法袋に仕舞うといった作業にも就けるでしょ」

「それもそうだ。いやー、せっかくだから解体を覚えさせようと思ってたけど、今じゃなくていいよねぇ」

 バルトロメはシウの提案を素直に受け入れ、早速、皆に休憩を言い渡した。

「作業場を作り替えます。魔法を使っても?」

「いいよいいよ。シウ、頼むね」

 というわけで、遠慮なく中庭を作り直す。すでにシートやテントで綺麗だった中庭は消えている。いや、その前に魔法競技大会中の避難で踏み荒らされていた。折れた木々の枝は取り払われているものの、残った木も抜いた方がいいだろう。

 シウは自重せず、魔法であっという間に片付けた。そこから整地し直し、土属性魔法で作業台を作る。

 溝も作って防水を施した。元々あった広い防水シートは《浄化》し、大勢での作業場に敷き直す。

「大物を解体するにはコツと力が必要です。ここは僕ら三人で回すので、部位ごとに解体する人は次のテーブルで作業してください」

 バルトロメとレオンがすでにレベルを判断して分けていた。シウたちは一組、次が二組と名前を付けて配置に就く。

「各ブロックに必要な道具をまとめました。これで道具も足りるでしょう。女性は魔核を綺麗にしてランクごとに分けてください。肉をラップするのは浄化魔法が使える人も一緒に作業して、何の肉か間違えてはいけないので確認のために一人を付け、三人を一組として動くようにしましょう」

「了解。連絡係もいた方がいいね」

 ルイスが全体のまとめ役に手を挙げた。

「シウの方法なら手持ち無沙汰でウロウロしていた生徒も手伝えるよ。実は相談されていたんだ。手伝いたいのに魔獣が怖いとか、血が苦手という子もいるからね。解体が全くできない生徒もいる。僕らだって知識はあるけれど、得意とは言えない」

「そうだね。それぞれの得意分野で分担していこう」

 人数がいるからできることだ。応援に来ていた兵士も一緒になって組み分けに参加してくれた。

「じゃ、大物は僕が、残りの魔獣はレオンとそちらの冒険者でお願いします」

 二人が頷く。

 作業台は二つあり、シウのところだけ広くて大きい。流れで続く作業台は二レーンとも同じだ。だから、シウはその作業台に流せる大きさにまで解体する予定だった。

「休憩終わりだよー。皆、シウが準備してくれたから始めよう」

 バルトロメの合図で、解体が再開した。


 冒険者や兵士はナイフの取り扱いが生徒よりもずっと上手だ。しかし、魔獣を解体するのが得意というわけではない。兵士は魔獣討伐の経験が乏しいし、冒険者も持ち帰れる部位しか切り取らない。

 こうした中途半端なグループには魔獣魔物生態研究の生徒を宛がった。

 知識の豊富な生徒がどうすればいいのかを指示する。幸い、首を落としたり肋骨を開いたりといった大変な作業はシウたち上級者がやってしまえる。中級者は魔核やお金になる部位を切り取り、更に食用となる部分とで分ける。せっかくの肉だ。処分するのは勿体ない。

 ナイフも使えず知識もない生徒には、細かく分けられた部位をラップしてもらう。

 細々した仕分けも必要で、得意な生徒が率先して動く。

 魔獣の血を処理する者、噎せるほど濃い匂いを消す者など、思い付いた生徒たちが役割分担表に名前を書いて参加し始めた。

 応援に駆け付けたのは研究科以外の生徒もいる。彼等は後方支援を担った。

 ジルヴァーやエアストだけでなく、魔獣魔物生態研究の生徒が連れている希少獣をまとめて見てくれる生徒もいた。

 食堂から食事を持ってきてくれたり、休める場所を教室に作ってくれたりしたのだ。徐々に応援の輪が広がる。

 先週も生徒一丸で頑張ったが、全員ではない。学校に来ていなかった生徒もいる。魔法競技大会での事件に巻き込まれなかった生徒たちもだ。彼等は「自分だけ」置いていかれたような気持ちになった。貴族としての矜持もあったろう。何かしたいと教授に頼んだことで、最終的に午後の授業は取りやめとなった。









********************


◆宣伝◆

魔法使いと愉快な仲間たち 2巻が4月26日に出ます


詳細はこちら↓↓↓

魔法使いと愉快な仲間たち2 ~モフモフと楽しい隠れ家探し~

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4047378988

イラスト 戸部淑先生

書き下ろしはエミナ視点となります


アントレーネ初出回、ロトス泣き笑い号泣回、キリクが美味しいところ持ってく回です

素敵なイラスト満載ですので、ぜひお手にとってみてください


書店特典についてなどは近況ノートやXをご覧ください

また、それとは別に発売記念SSを用意してます

発売日に「魔法使いシリーズ番外編」へ投稿予定です

タイトルは「飛竜と遊ぶ騎獣たち」

よろしくお願いします


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る