618 立場の変更と依頼達成、講習会




 ロトスが止めるもレオンが話を聞きたがる。

 シウはロトスの呆れた視線を気にしながら、続けた。

「キリクも冒険者になったんだ。貴族でもなれるし、王族だって禁止されているわけじゃない。それに、本来の仕事をしないで『遊んでいる』と判断されたなら『立場を返上』すればいい。そうした意味では、彼等はレオンよりも自由なんだよね」

「そう、なのか」

「だ、だが、貴族として生まれ育った者にそんな生き方ができるとは思えない」

「アルゲオの言う通りだ」

 スヴェルダも慌てて同意する。シウは肩を竦めた。

「できるかできないかの話だよ。情熱があれば何にでもなれる。反対はちょっと難しいかな。やろうと思えばやれるとはいえ――」

「えっ」

 全員がこちらを向く。ロトスだけは呆れ顔のままだ。しかも小声でボソリと突っ込む。

「どうせ、国を興すとかそんな話だろ」

 三人がやっぱり驚くが、シウは「違うよ?」と首を横に振った。

「その手もあるけど、もっと簡単な方法があるんだ」

「なんだよ?」

「結婚すればいい」

「はぁ!?」

 今度は四人が口を揃えた。シウは面白くて笑う。

「作家のイノマ=ウスラフが書いていたんだ。あ、小説じゃなくて実録本にね。彼女が例として挙げた成り上がり系は、ほとんどが男性貴族に嫁いだ平民女性のパターンだね。女性を貴族家の養子にするんだ。そのあとに結婚する」

 そのやり方で王族と結婚するパターンもあった。

 男女逆でも少数ながらある。ただ、挙げられていた例として「男性が元々貴族の血筋」ばかりだった。何らかの理由で先祖が爵位を失い、しばらくして名誉が回復されたものの元に戻れずに、結婚という形を取ったようだ。他にも、落とし胤だと判明し「跡継ぎに」と連れ帰る場合だろうか。

 本人が何らかの功績により授爵するという形も有り得る。しかし、若くして成るのは難しい。

「ロトスの案もアリはアリだよね」

「ヤベー話だから蒸し返すなっての。俺は知らん。ていうか、レオンのトラウマを刺激すんな。そっちの二人もだぞ。大体、解体の途中で手を止めるなってんだ。護衛への指示出しも忘れてるしよー」

「あ、ごめんね」

「シウは『視』てるだろ。気配察知もやってるし、一番ちゃんと仕事してんのリーダーのシウじゃん。俺は他の奴に言ってんの」

 ロトスは、シウたちが揉めていると思って様子を見にきてくれたらしい。仕事に戻ると言って、森に向かった。小さな魔獣の気配はまだある。念のための「護衛」だ。

 本来の護衛役である騎士たちは半数が休憩したままで、半数は「揉め事」に対してハラハラしている。アルゲオが来るなと指示しているから来ないだけだ。

「ロトス、ブランカやクロを呼び戻しておいて」

「おー。フェレスは、っと、もうこっちに向かってるみたいだな」

 ククールスやスウェイも休憩を終えている。アントレーネだけは馬車を警護中だ。他にも護衛騎士はいるが、女性の数が少ないため休みなしである。彼女は以前もカルロッテの護衛をしたことがあるので、距離の取り方を心得ていた。アビスと二人で上手くやってくれるだろう。

「とりあえず、残りを片付けてしまおうか」

「あ、ああ、そうだな」

「急ごう。プリュムが戻る前に綺麗にしておきたい」

「俺は薬草をまとめておくよ」

「悪いな、レオン」

 カルロッテはまだ馬車の中だ。そのためレオンも手伝うと宣言した。といっても広げていた薬草を本当にただまとめるだけで仕分けはしない。

 シウは全体の護衛リーダーとして見守るだけだ。


 多少ぐだぐだしたものの、アルゲオは依頼の終了を告げた。

 帰りの馬車は男女別であったのでカルロッテも気まずい思いはしなかった。アントレーネによると、気持ちも立て直せたようだ。

 冒険者ギルドに依頼達成の報告をする段では冷静に見えた。

「薬草に問題はありませんでした。使えない分はこちらで処分しますね。内訳はここに。魔獣討伐の明細はこちらです」

 明細は、読み書きが出来ない冒険者もいるため簡略字が用いられている。アルゲオたちは戸惑ったようだが、なにしろ簡単な文字と数字と合計金額の表示だ。すぐに理解した。

「なるほど、これが火鶏の肉か。飛兎の魔核は安いんだな。肉もこんなものか。薬草は……」

「数が足りなくないか? もっと採取したはずだ」

 スヴェルダが覗き込む。その横でカルロッテがこわごわ口を開いた。

「もしかしたら、使えないものを採ってきたのかもしれません。それに、わたくしが握り締めた分もありますから」

 アルゲオとスヴェルダが振り返る。俯くカルロッテに、二人は苦笑した。

「わたしだって薬草の見極めには自信がない」

「わたしもだな。しかも、君たちほど採取できなかった」

「そんなことは……。あ、あの。もしよろしければ、薬草採取の講習会を受けてみませんか」

 カルロッテの言葉に、二人は目を丸くした。ギルド内にはそこかしこに講習会の張り紙がしてある。カルロッテの視線がチラとそちらに向いた。

 勇気が要っただろう。それでも彼女は前向きな行動に出た。

 アルゲオとスヴェルダは笑顔になった。

「せっかくの講習会だ。受けよう」

「そうだな」

 張り紙には人数が集まれば特別に予定日以外でも講習できると書いてある。アルゲオは早速、受け付けのユリアナと交渉を始めた。護衛騎士も入れるからと話を詰め、メンバーにも時間は大丈夫かと打ち合わせる。

 シウとレオンは少し離れた場所まで移動し、顔を見合わせた。

「ちゃんと浮上してるね」

「めげないところは、褒めてやる」

「レオン、なんで上から目線なんだよ」

 背後に立ったロトスが言う。

「うわ、ていうか、ロトスはいつもコソコソ近付くなよ。気配がなくて驚くだろ」

「訓練してんだもん。あ、シウ。表にいる馬車と護衛騎士が邪魔だって言われて、レーネが移動させてる」

 御者や騎士らが、そろそろ出てくるだろうと気を利かせて玄関前に移動させたらしい。

「レーネが誘導してくれるなら、いいんじゃない?」

「けど、ブランカも護衛騎士に命令してんだよな」

「え」

「お前ら邪魔なんだよ、って。あいつ、マジで口が悪いよな。他の奴に言葉が通じなくてホント良かったぜ」

「フェレスやクロは?」

「冒険者のアイドルやってる。フェレスは可愛がってくれる奴に対する嗅覚がすごい。クロはスウェイと一緒にまったりタイム。兄貴は逃げた」

「そっかー」

 シウが苦笑すると、ロトスも肩を竦めた。

「俺は常識人だからな。仲間が自由な奴ばっかで大変だよ」

 レオンが目を剥く。

「は? おい、待て」

 ロトスのこれは冗談だ。しかし、レオンはからかいに気付かず、去って行くロトスを追った。

 ロトスはレオンを外に誘導し、気分転換をさせるつもりだ。途中でシウに視線で合図した。念話は使わない。

 シウも「頼むね」と目交ぜで答え、こちらも頼もしくなってきたアルゲオパーティーを眺めた。



 結局アルゲオたちは、光の日に講習会をしてもらえるよう頼み込んだ。本当なら休みの日になる。職員は乗り気でなかったが、ガスパロが「代わりにやってやるぞ」と名乗りを上げたので依頼として受け付けた。

 幸い、貴族の彼等にとって講習会の費用や依頼料を割り増しで払うぐらい訳ない。

 スヴェルダもカルロッテも用事はないからと、ついでに他の講習もやってもらえないかとガスパロに頼み込む。

 やる気のある新人冒険者には特に親切なガスパロだ。「任せろ」と胸を叩いた。

「ガスパロ、ちゃんと休まないとダメだからね?」

「分かってる。無理はせん。今日も後輩を近場の森で鍛えただけだ。火の日も近場か、訓練場で教えだけにする」

「ならいいけど。まだ先日の騒ぎの疲れは取れていないんだ。無理は禁物だよ」

「シウに言われたくねぇ。だがまあ、皆もぼちぼちやってる。張り切ってんのは若手だけだ。この坊ちゃんや嬢ちゃんたちのようにな」

 名指しされたアルゲオたちは顔を赤くした。

「照れるこたぁ、ないぜ。発奮する気持ちは分かる。そりゃ良いことだ。しかも、自分の実力が伴ってないと分かってんだろ? だから講習会を受ける。見上げた根性じゃねぇか。俺ぁ、そういう奴が好きだ。しかも、シーカーの生徒だぜ。任せとけ。他にもシーカーの生徒で参加したいっていう奴がいたら連れてきな。俺の方でも知り合いに連絡入れとくからよ」

 頼れる先輩だが、彼はカルロッテの身分を知っているのだろうか。スヴェルダも王族だ。

 しかし、シウは何も言わなかった。知らない方がいい場合もある。

 だからアルゲオや護衛騎士らの微妙な表情にも気付かない振りをしたのだった。









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魔法使いと愉快な仲間たち

2巻が4月26日に出ます

アントレーネとロトスの回になるのかな

キリクが美味しいところ持っていく回でもあります

個人的にはオリヴィア推しです(イラストがあるんすよ…)

よろしくお願い申し上げます☺



詳細はこちら↓↓↓

魔法使いと愉快な仲間たち2 ~モフモフと楽しい隠れ家探し~

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4047378988

イラスト 戸部淑先生

書き下ろしはエミナ視点です


カバーだけじゃなくて口絵も良くてですね!

なんかもう涙が出ます…

戸部先生は神…


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