615 アルゲオパーティーの実力について




 シウは「仲良くなったよねえ」とレオンに続けた。レオンは一瞬言葉に詰まった。

「何がだよ。ていうか、なんで笑うんだ」

「ロトスに対して遠慮もなくなったようだし、良かったなーと思って」

「……いつまでも遠慮なんかしてられないだろ」

「うん」

「くそ、お前な、そんな顔で笑うな。ったく」

「ごめんごめん」

 肩を押され、シウは謝った。

 それからレオンは咳払いで話を続けた。若干早口なのは、やはり照れているからだろう。

「とにかく、アルゲオは冒険者になりたてと考えたら、結構やれてる方だ。シウの指示にもちゃんと従うし、理解も早い。あいつなら角牛狩りにも連れていけるだろ」

「ということは、カルロッテ殿下の方はダメそう?」

「そんなもん、シウが一番分かってるだろ。そりゃ、確かに頑張っているとは思う。自分の足で歩いてきたし、そこは偉いと思う。女護衛も周りをよく見ている。手助けは最低限だ。アルゲオの護衛と同じで領分を守ってる。問題は本人だ。肝心のところがダメだろ。パーティー仲間に対しての態度が良くない」

 先ほどもそうだったように、カルロッテはアルゲオに対してライバル心を抱いているようだった。ほんの少し、反発心も入っているだろうか。おそらく自分では気付いていない。

「アルゲオが尽くしてくれることに甘えてるんだよ」

「厳しいなあ」

「じゃあ、シウはあれでいいと思うのか?」

「良くはないね」

「ほらな」

 二人して顔を見合わせ、溜息を零した。

「元々、体力はないんだ。見習いとも言えないレベルだ。断ってもいいんじゃないのか」

「うーん」

「もしかして、荒療治しようとか考えてないだろうな? 角牛を見せたら驚くしな。俺だって屋敷の角牛を知らなかったら驚いていた。普通の冒険者なら連れ帰ろうなんて思わないだろうし、ましてや貴族はビビるだろ」

 その角牛を、貴族たちが狩ろうとしている。去年もそうだったが今年もブームになりそうな予感だ。冒険者ギルドでも警戒している。すでに護衛の依頼が入っているそうだ。素直に指示に従ってくれるのならいいが、そうではない貴族もいる。

「王族相手に無茶はするなよ?」

「分かってる。そう言えば、ルダの方はどうだった」

「あっちは体を鍛えているからな。基本ができている。薬草の見極めは、てんでダメだけどな。魔獣が出た場合はそこそこ動けると思うぜ」

「プリュムも鍛えてるもんね。あそこは大丈夫か」

「人型でも筋肉がすごいのは分かるよ」

 スヴェルダもプリュムも騎士や兵士に交じって訓練を受けていたという。ラトリシア国に来てからも鍛えているらしいから、基礎はできている。

「対人訓練も慣れているし、戦術戦士のクラスでも頑張っているんだよね?」

「かなり上位だぜ」

「じゃあ、あとは魔獣との実戦か」

「……お前さぁ、王族をどうする気だよ」

 レオンは呆れ顔で、しかし強くは反対しなかった。


 必要数の採取を終えたので皆が馬車に戻り始める。

 このタイミングならちょうどいいかと、シウはククールスに合図した。彼がこっそりスウェイに指示し、警戒を解く。さりげなくスウェイが離れていった。

 クロへの連絡はロトスだ。魔獣が近付いても教えなくていいと念話で伝える。ブランカにはフェレスを迎えに行くよう、この場から追い出した。

 しばらくして。

「あ、ねぇ、何かが来たよ」

 最初に気付いたのはプリュムだった。さすがは聖獣だ。

 シウは護衛役で見守り中だから、メインで動くのはアルゲオとカルロッテとスヴェルダになる。アビスやプリュムもパーティーメンバーになるだろうか。もっとも、護衛騎士らも彼等の手足となる。

 まず反応したのはスヴェルダとアルゲオだ。

「何かは分かるか」

 スヴェルダはプリュムに問い、アルゲオは皆に命令する。

「全員、配置に付け」

 予め決めていたのだろう。護衛の多くがカルロッテの周囲を囲む。

「ま、待ってください。わたくしの方に人員を割きすぎですわ」

「最初に説明していた通りです。それにパーティーのリーダーはわたしのはず。従ってください」

 アルゲオがきっぱりと言い切る。

 その間に、スヴェルダがプリュムとの話し合いを終えた。

「火鶏が数匹、こちらへ向かってくるようだ。他にも小さな魔獣の気配がするらしい」

「ならば結界の魔道具を盾になるように設置する。魔獣避けは扇型に配置して焚く。後衛担当は急げ。攻撃担当は前に」

 アルゲオがテキパキと指示する。スヴェルダも落ち着いた様子で頷く。カルロッテは緊張しつつも、機会があれば魔獣の討伐も経験すると話していたためか覚悟を決めた表情だ。

 護衛騎士らも打ち合わせ通りに動いているようだった。

 シウとレオンはカルロッテの近く、パーティー全体の中心となる場所で見学した。

 ロトスは危険を察知して戻ってくるかもしれないブランカを引き留める役として、離れていった。魔獣に気配を悟られないよう結界魔法を自力で発動させている。魔力量の多い聖獣の彼が誰にもバレないのは、こうした隠蔽もあるからだ。もちろん、シウの作った偽装用魔道具も身に着けている。

 ククールスは魔獣が来る側とは反対の、端に移動した。後衛たちの背後側だ。ただし、そこに冒険者がいると安心されては意味がないため、木の上に移動した。スウェイは追加で指示をもらったらしく、街道方面に向かったようだ。馬車側に回り込まれるとも限らないため警護するのだろう。

 そうこうするうちに火鶏がやってきた。

 アルゲオは攻撃班の最後尾に立っている。

「素材として狩りたい。なるべく頭を狙え。だが、最悪はこの一線を通すことだ。抜けさせるぐらいなら倒せ。いいな」

「はっ」

 数人が剣を使って倒していく。魔獣を相手に戦う経験がないため、やりづらそうではあった。それでもさすがは騎士たちだ。倒していく。

 ところが、火鶏とは別方向からも魔獣が来た。これが厄介だった。飛兎だ。脚力があるため人の高さを飛び越えてくる。

「くそっ」

「しまった、そっちに向かった」

 と、焦る。

 しかも一匹が「これ以上はダメだ」と決めたラインを超えた。

 カルロッテの近くにいた騎士の数人が慌てるも、スヴェルダが声を張り上げる。

「落ち着け! ここには聖獣もいる!」

「は、はいっ」

 スヴェルダ自身も剣を抜いている。プリュムは彼を守る位置で立っていた。まだ人型だ。こちらは慌てていない。聖獣という自信もあるのだろう。ただ、聖獣だからこそ狙われているとも言える。

 魔力の多い聖獣は魔獣にとってのご馳走だ。そこを目指して来ていることに気付いているだろうか。シウはチラリと横を見てから、向かってくる飛兎の一匹を見た。

 その飛兎が横に吹っ飛ぶ。首に刺さっているのは氷の矢だ。

 無詠唱で魔法を放ったのはアルゲオだった。

 集中しているせいか指示は出せていない。前線の立て直しができず、また数匹がラインを超えてくる。アルゲオはそれにも氷撃を当てた。

「上手いな。動く標的に当てる練習をしたのか」

「無詠唱も問題ないよね」

「初めてにしちゃ、かなり上出来だぞ」

「レオンの初陣はもっと幼かったんでしょ」

「別にやっかんでない」

 無駄口を叩きながらアルゲオの奮闘を眺めていると、指示ができていない事実に本人が気付いたらしい。

「飛び越えた分はこちらで受け持つ。後衛もいるんだ。前衛は目の前だけを見ろ。後衛、魔獣避けの矢を射ろ! 方角は手で示す!」

「はい!」

 近くの騎士に気配察知をさせたのか、アルゲオは正確に魔獣の位置を示せている。方角で言わないのも加点だ。混戦状態だと方角なんて分からない。大雑把でもいいから目に見える形の方が分かりやすいのだ。

 アルゲオは戦略指揮のクラスで学んだ内容をちゃんと実戦に落とし込めている。

 魔獣の生態についても頭に入っているのだろう。飛兎の動きも把握しているようだった。無駄撃ちはあったものの、彼より後ろへは抜けさせていない。

 最終的に、スヴェルダやプリュムの手伝いはないままに魔獣を倒せた。

 もちろん護衛騎士の助けあってこそだが、そこは問題ない。パーティーのリーダーとしては満点に近いのではないだろうか。シウは感心した。


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