614 冒険者についての説明と客観的な目
一つ目の森での採取が終わると、足りなかった分を探すため三つ目の森に移動した。
馬車はまた街道沿いの休憩場に置いていく。見張りは少数にし、森へ連れていく護衛騎士の数を増やす。二つ目三つ目と王都から離れるごとに魔獣の数が増えるからだ。
近場は下級の冒険者もよく見回るので魔獣の数は少ないが、三つ目になると難しい。下級冒険者には馬車や馬を借りるだけの余裕がなかった。反対に中級以上の仕事としては旨味が少ない。
シウたちのような余裕のある冒険者が時折見回って間引くのが現状だ。
飛行板を使った移動も、魔核や魔石といった動力を考えると無駄に使えない。魔獣を見付けた時にだけ使用するのがほとんどだ。
「馬車を使った移動ができるのは、冒険者としては恵まれている方だね」
「騎獣をお持ちの方々もですね」
「その代わり、騎獣持ちには相応の仕事が回ってくるよ。特にこの国ではね」
カルロッテがハッとした顔になる。
移動の間、シウは彼女に冒険者の仕事について教えていた。もちろんアルゲオも一緒に聞いている。
「騎獣を持てる人間はそれなりの立場にある。僕の場合だと中級冒険者という立場だね」
「シウの場合はもう上級と言っていいだろ」
ククールスが口を挟む。シウは苦笑いで首を振った。
「まだ四級だよ」
「もうすぐ三級じゃねぇか」
「ククールスこそ二級が近いよね」
「シウ様、それだと自慢に聞こえるよ」
「レーネはまだだもんな」
「ククールスは性格の悪さで昇級試験に引っかかるんじゃないのかい?」
「へいへい」
自由に話しているが、もちろん周辺の警戒は怠りない。しかし、アルゲオの騎士らは不満そうだ。離れていても楽しげな会話だというのは伝わるのだろう。舌打ちする者もいた。
聞こえているのは《感覚転移》で視ているシウと、気配察知に長けたククールスぐらいだ。
フェレスはルプスの群れを倒すと言って離れてしまったし、クロは上空の警戒飛行を続けている。エルはシウの頭の上だ。上空が寒いからか、三つ目の森に入ってから移動してきた。
「ブランカ、見回りしてきて。後方の人たちに遅れが出ているみたいだ」
「ぎゃぅ!」
「ついでに、馬車の方も確認ね。魔獣がいたら追い払って。倒さなくていいよ」
「ぎゃぅぎゃぅ」
ブランカは仕事を言い渡されて喜んだ。早速走っていく。
「すごいですわ。命令を理解できているのですね」
「騎獣にも仕事が与えられます。自分で考えて動く場面も多いです。僕らは指示を出すけれど、彼等が理解できるように誘導もしなくてはならない。信頼関係がないと難しい場面もあります」
「そうなのですね」
「ブランカは先日の魔獣スタンピード事件の際にも活躍しました。多くの魔獣を追い立てたんです。勇気があります。でもそれは積み重ねた経験があるからです」
経験の話から、シウたちの役割についても話す。
「僕らは騎獣を持つ上級冒険者のパーティーです。ミセリコルディアまで行くのなら、周辺の見回りも請け負います。魔獣に追われて街道から外れる人がいるかもしれない。中級になった頃の冒険者も危険です。もう少し行けると思って、つい進んでしまう。そこで遭難したり魔獣に襲われたり。助けられたらいいけれど、間に合わない場合もあります」
「……その時は、どうされますの」
「僕の場合は全部まとめて持って帰ります。他の上級冒険者の場合はギルド証のカードだけですね」
「まあ」
どうしてと、カルロッテの目が語る。アルゲオは分かったようだ。小さく頷いた。
「僕は魔法袋を複数所持していますし、パーティーメンバーも各自で持っている。余裕があるんです。最近でこそ広まった魔法袋ですけど、それでも普通はパーティーに一つが基本でしょうね。そこに遺品を入れる余裕はない。できることは彼等がアンデッドにならないよう、焼いた上で穴を掘って埋めてあげることだけ。それすら難しい時もある。なにしろ魔獣の多い山の中です」
カルロッテは目を見開き、恥じるように俯いた。
「貴族にも身分に相応しい振る舞いを、といった言葉がありますよね。だからといって全員ができるとは限らない。やらない人もいれば、たまたま余裕がなくてできなかった人もいる。冒険者は臨機応変に動くことが求められるため、割り切れる人は多いようです」
「そう、なのですね」
「馬車での移動は恵まれている。だからといって無理に『何かしなければならない』というわけじゃない。それに冒険者は経費について考えなければなりません。生きていくにはお金の算段も大切です。だからたとえば、カルロッテ様が依頼を出そうと考えた時には、そのあたりを加味してください」
馬車で行けるだろうからと、日帰りの計算で依頼を出されては困る。費用についてはよくよく考えなければならない。多すぎてもいけない。
「依頼料が高くても良くないのですか?」
「裏があると思われます。まともな冒険者は避けるかもしれませんね」
「まあ」
「とはいえ、依頼を出す際にギルドの職員が適正価格を教えてくれると思いますけどね」
四方山話をしていると採取場に着いた。一つ目の森よりは歩きづらく、カルロッテは疲れた様子だ。アルゲオが休憩を申し入れた。しかし。
「いえ、大丈夫ですわ」
条件反射的に答えたようだった。カルロッテの強い言葉に、アルゲオが怯む。彼が困惑しているのが分かり、シウは口を出した。
「カルロッテ殿下、お休みください」
「……はい、分かりました」
シウの厳しい口調に、カルロッテも怯んだ。アビスがシウをチラリと見る。言葉遣いに気を付けろと言っているかのようだ。
シウは肩を竦め、アントレーネに声を掛けた。
「休憩の準備をしてくれる?」
それからアルゲオに向く。
「護衛騎士にも休憩を」
「分かった。お前たち、そちらの木の根から向こうで休憩だ。薬草に気を付けるように」
「はっ!」
すぐさま準備を始めた。アルゲオ付きの騎士も素早い。シウに不満を覚えていても言葉に出さないだけの分別もある。
シウは護衛たちをククールスに任せ、ブランカの戻りを待った。
休憩を終えると採取を再開した。シウは傍に付かず、後方で待機だ。感覚転移の魔法が使えるし、視ていなくとも分かる。全員が目に見える範囲に散らばっており、かつ三つ目の森に脅威がないことは事前の調査で判明していた。
「ここまでで気になったところはある?」
レオンに聞くと、彼は低い声で返した。
「フェレスが自由すぎる」
シウは笑いながら先を促した。
「他には?」
「ロトスも自由すぎる」
「あははは」
「笑い事じゃねぇ。あいつ、聖獣に対してふざけすぎだろ。悪い言葉を教えまくってるぞ」
「教えてるの?」
「本人にそのつもりはないかもしれないけどな。あとは、聖獣の方が素直すぎて困る」
「あー」
プリュムは聖獣の中でも特に純粋で素直だ。天然系でもある。シウ以上にロトスの冗談を真に受けるタイプだ。
「ロトスに言い含めた方が早いね」
「そうしてくれ」
シウは肩を竦めた。
「僕が聞きたいのは、うちの子たちのことじゃないんだけど」
「分かってる。でも気になるのはあいつらだから仕方ないだろ。客観的に見たら、結構ヤバいと気付いたんだ。よく今まで平気でいれたよな、俺」
「平気じゃなかったと思うよ。レオン、割と怒ってる」
「……そうか?」
「うん」
「そうか。でもまあ、これでも遠慮してる方だぞ」
遠慮してアレなのかと、シウは苦笑した。
「それはそうとして、だ。アルゲオは足元は危ういが、なんだかんだでしっかりしている。ちゃんと情報も仕入れてきてるな。頭に叩き込んでる。さすが戦略クラスだと思うよ」
「おおー」
「自分の連れてきた騎士や従者にも言い聞かせているし、さっきも念押ししていた。上手い言い方をしてたよ。頼りにしている、だってさ」
「それは僕も思った」
「プライドの高い上級騎士もいるからな。休憩を言い出したタイミングも良かった。そこらへんの下級冒険者よりずっとまともだ」
「褒めるね」
「ロワルにいた時の俺より上達ぶりが早くて腹立つけど、偏った目で見たくないからな」
「さすが。うちのパーティーの『良心』だよね」
「なんだ、それ」
「ロトスが言ってたから。あと『最後の砦』とか『オカン属性』とか」
「あの野郎」
レオンは喜んでいいのか怒っていいのか分からなくなったのだろう。照れたような顔で暴言を吐く。シウは笑った。
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