613 力量を見るための薬草採取依頼と護衛
事前に情報を集めて問題ないと分かったため、シウは「力量を見たいので軽い依頼を受けよう」とアルゲオに連絡した。
風の日、シウたちは冒険者ギルドに集まった。
「皆は十級ランクなんだよね。じゃあ、近場の森の薬草採取にしようか」
全員が神妙な顔で頷く。アルゲオが話を通しているため、念のための確認だ。
護衛騎士の多くはギルドの外で待っている。ギルド内にいるのはアルゲオとお付きが一人、カルロッテと護衛のアビス、スヴェルダとプリュムだけだ。
オリヴェルも参加したがっていたが今回は来ていない。大所帯になるからと、他のメンバーも不参加となった。オリヴェルは、もはや季節の行事となった近衛騎士らの角牛狩りに交ぜてもらうつもりのようだ。
戦術戦士クラスのエドガールやシルトも週末に訓練を続けているそうだから、冒険者ギルドに護衛を頼んで行くつもりでいるとか。
土の日も授業のあるレオンが学校での話し合いを教えてくれた。
「こちらは僕のパーティーメンバーで、今回は皆さんの護衛と指導係を兼ねています。知っている人も多いと思うけれど――」
と、歩きながらククールスやアントレーネを紹介する。もちろんロトスもだ。プリュムがそわそわしているので、ロトスとフェレスに彼の対応を任せる。レオンがフォロー係に就く。シウはレオンの細やかな配慮に感謝した。
プリュムは「ルダと念話ができるようになったんだよ」と話している。フェレスは「ふーん」と頷いているようで聞いてない。ロトスが苦笑で「偉いじゃん」と代わりに褒めた。レオンはロトスやフェレスがやらかさないか、ハラハラしながら見守っている。
ジルヴァーとエアエストは留守番だ。ジルヴァーはしょんぼりしていたものの、数日シウと仲良く過ごした時間のおかげか納得した。エアストの方はダメだった。きゃんきゃん鳴いてイヤイヤをする。
エアストを諫めたのはブランカだった。
「ぎゃぅぎゃぅ」
エアストの額を太い前脚で押し、騒いじゃダメだと諭す。
シウはお姉さんになったブランカを微笑ましく眺め、ロトスは笑った。
「なんで脚で止めるんだよ。豪快すぎんだろ。さすがブランカ、やっぱりブランカだよな」
「でもほら、精神的に成長してるし」
「これだ。シウの親バカぶりはなおんないね」
他の皆は楽しげにブランカとエアストのやり取りを眺めていた。いや、ククールスは若干呆れていた気がするし、スウェイに至ってはハッキリと呆れていたようだが。
フェレスも「あれはフェレの子分じゃないから」と教育的指導は役割外だと言わんばかりだ。彼はマイペースなので仕方ない。いざという時は守る。そういう子だ。
ともあれ、ブランカが懇々と諭し――彼女らしい豪快な言葉でだが――エアストは落ち着いた。
「きゃんきゃん」
賢く留守番していれば戻った時にいっぱい褒めてもらえる。その言葉を信じて待つそうだ。
健気と言えばいいのか、ブランカの言葉を素直に信じる姿が不安だと言えばいいのか。
少なくともレオンは感動したらしいので、シウは何も言わなかった。
護衛を兼ねた依頼でもあるので幼獣は置いてきたが、それ以外は揃っている。久しぶりのフルメンバーだ。レオンやロトスにとっては珍しい護衛の依頼になる。ひそかに張り切っているのがシウにも分かった。
シウたちはまず一つ目の森に向かっていた。道中、馬に騎乗した騎士に声を掛ける。
「護衛の方々は現地に着いたら馬車や馬の見張りをお願いします。街道近くですし、王都にも近いので盗賊や魔獣が出るとは思えませんが、念のためです」
「承知いたしました。何人かは殿下方に付けたいのですが構いませんか」
「後方から追いかけてくるのであれば。できれば距離を開けてください。魔獣の気配を読む訓練もしたいです。小さな魔獣であれば討伐もやってしまいましょう」
「……承知いたしました」
分かっていても、離れた場所からの護衛を命じられると不安になるらしい。
カルロッテに付いてきた騎士はラトリシア国からの派遣になる。彼等はヴィンセントとの親しい関係はおろか、先日の騒ぎでシウが活躍した件を知っていた。だからだろう、シウの指示に従ってくれるようだ。
スヴェルダを守る護衛も右に同じくで、ラトリシアの騎士だから問題なかった。
アルゲオの騎士たちには思うところがあるようだ。言葉や態度に出さないよう気を付けているが、どうしても視線が強い。
シウは護衛を依頼された立場だ。今回は「アルゲオがリーダーとなる初心者パーティー」を護衛しながら、薬草採取について教える。護衛騎士らはアルゲオから「口出し不要、シウの指示に従うこと」と命じられていた。
騎士の彼等にとって冒険者の指示を仰ぐことにモヤモヤする気持ちは分からないでもない。
諸々の気持ちを飲み込んで、アルゲオの命令に従っているようだった。
現場に着くと、早速森へ分け入る。
シウは監督係として見守る位置に付いた。アントレーネはカルロッテのために「女性の護衛」として傍にいるが手は貸さない。アビスも基本的には護衛の配置だ。冒険者として来たわけではなかった。
スヴェルダも冒険者の仕事に興味を持っているが、どちらかと言えば「カルロッテのために」来ている。女性王族の立場を守る意味でだ。後々誰かが突いてきたとしても、同じ王族の彼がいれば「上位の方々の視察」で済む。これはアルゲオが頼んだらしい。オリヴェルにしなかったのはラトリシア国の事情を考えたからだ。アルゲオ自身のためでもある。
オリヴェルもカルロッテと同じで後ろ盾が強いとは言えない。不安定な立場の彼を引っ張り出すと迷惑を掛けることになる。更に「カルロッテと婚約するのではないか」と噂が広まっては互いに良くない。
スヴェルダであれば、デルフ国の王子だ。よほどの事がない限り婚約話にならない。そもそもスヴェルダは留学という形を取っているが、人質に近い立場だ。
あれこれ考えているであろうアルゲオは、カルロッテとは別の場所で薬草を採り始めた。
スヴェルダはプリュムやロトスたちと一緒だ。レオンも彼等を見張りながら採取する。護衛をしながらでも採取ができるのは、彼が薬草採取のベテランだからだ。しかも、引率の先生のごとく注意を始めた。
「違う、それは毒草だ。腹を下すぞ」
「えー、そうなんだ。レオンはすごいねぇ」
プリュムがぽやぽやと笑う。ロトスは呆れ顔だ。
「ていうか、プリュム。お前、ちゃんと選んでる?」
「選んでるよ~。ロトスは少ないね」
「選んでるからだよ。ていうかなんだそれ。セナル爺さんに薬草のことを教わったって言ってなかったっけ」
ロトスのツッコミに対して、プリュムがニコニコ笑って頷く。
「三老たちはね、とりあえず採ってきたらいいって教えてくれたよ。あとで仕分けするの」
セナルや三老とは養育院にいる騎獣のことだ。プリュムは老騎獣から様々なことを学んでいるらしい。シウはついつい聞き耳を立てた。
「マジかよ」
「その方が僕には合うんだって。集中したら他が見えなくなるから『まとめて採ってくるんだよ』って言われたんだ~」
「あー、それな」
レオンが頭が痛いといったポーズになり、その横でスヴェルダが苦笑する。
「魔獣を倒す時も集中力がすごいもんな」
「えへへ」
「おま、それ、褒められてないぞ」
「え、そうなの?」
「ちゃんと周りを見ろって。王子様の護衛もやるんだろ? フェレスに憧れてるって言ってたじゃん。あいつ、すごいぞ。シウや子分を守りながら魔獣も狩れるんだからな」
ロトスに言われ、プリュムはキリッと表情を改めた。
ただ、そのフェレスはと言えば――。
「にゃにゃーん!」
森の奥に入っていったフェレスが嬉しげに戻ってきた。ドサッとシウの前に置いたのはルプスだ。
「にゃにゃにゃ」
「群れがいたのかー。追い立ててきた?」
「にゃ」
「一応聞くけど、どこまで行ったの」
「にゃにゃにゃ」
あっち、と鼻先で示したのは三つ目の森方面だった。この辺りには中位の魔獣はいなかった。小物ばかりで面白くないと遠征したようだ。
ロトスが目を逸らす。ついさっき、プリュムに「皆を守りながら魔獣を狩る」と話したばかりだ。まさか護衛をほっぽり出して遠くまで足を運んでいるとは思わない。
幸い、プリュムはロトスのように「ツッコミ」をする性格ではなかった。
「わぁ、すごいね!」
と、純粋にフェレスを褒めた。
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