605 今後の予定について




 朝食後、アントレーネも合流した。休みだと言ってあったので子供三人を連れてきている。

「ああ、助かるよ。ブランカが良い仕事をしてくれるねぇ」

 そう言って、我が子の面倒をブランカに丸投げする。フェレスは安全に関しては気を付けてくれるが、基本的には放任主義らしい。アントレーネにとって走り回る子供三人の相手は同じレベルのブランカが良いそうだ。

 スウェイはもちろん逃げているし、クロもちょっと及び腰である。

 スウェイの場合は赤ん坊が苦手というのもあるだろう。そもそも人間に慣れていない。人間で言えば中年を過ぎている頃だからどう扱っていいのか分からない、というのもあるだろうか。クロの場合は、遠慮なく掴んでくる子供たちを振りほどけないのが困るようだ。

 エアストはまだ幼獣で、互いに遠慮がないから噛むかもしれないと思って離している。

 となれば、ブランカしかいない。

 幸い、ブランカは面倒見が良かった。同じレベルで遊ぶところも向いている。彼女はジルヴァーを巻き込んで子供たちの体力を削いだ。

 そんな様子を横目に、シウたちは昨日の続きである情報の摺り合わせを始めた。

 更に、話の流れから今後についても確認し合う。というのも、ヴィンセントにいろいろバレた件を説明したからだ。もっとも、バレたところで予定を変えるつもりはない。

「シウ様が拠点をここに置いてくれるのなら助かるよ」

「俺もまだ学校に通っているから有り難い」

「遠出はレオンの休みに合わせようぜ。俺もルシエラのギルドに『上級冒険者』として頼りにされているからなぁ」

「ドヤ顔すぎんだろ、兄貴」

「ロトスも頑張れよ」

「うがー、上から目線が腹立つ!」

「あんたら、いい加減にしな」

 アントレーネが呆れたように二人を叱る。

 それを無視する形でロトスがシウに向いた。

「まあ、それもこれもシウがチートだからだよな。拠点をどこに置いても自在に行き来できるもん。便利~」

「ロトスも行き来はできるでしょ」

「おう。《小型魔力庫》もあるしな。安心だ」

「そう言えば、あたしもシウ様にもらったけどねぇ。使う時がなかったよ」

「俺も。ていうか、シウにもらった秘密の魔道具やアイテム系、ほとんど使わないよな」

「そうだよねぇ。訓練の時は逆に邪魔だから外しているし、今回みたいなヤバい時でも自力でなんとかなるし。ギリギリまで頼らずにおこうと思っていたら、そのまま忘れていたぐらいさ」

「だけどさぁ? シウの話じゃ、魔人族が彷徨いてんだろ。ウルティムス国の奴等もヤバい。やっぱ、訓練以外では身に着けていた方がいいって。いざって時に間違いなく使える練習もな」

 ロトスの言葉で皆が真面目な顔になる。

 レオンもだ。

「俺、そんなことになっているとは知らなかったからな。今も結構驚いてるんだぜ」

「クレアーレの奴等は良い奴ばっかだろ。まさかって思うよな。あ、ウルティムスはダメだぞ」

「分かってるって。ロトスを酷い目に遭わせた国だ。俺も嫌だよ」

「おう」

 二人が仲良く話しているのを温かい目で見ながら、シウは思い出した秋の予定を口にした。

「そうだ、近々の予定を言っておくね。まず、角牛狩りがどこかで入ると思う。カルロッテさんとアルゲオたちが冒険者の仕事を経験したいようだから、付き添いになるね」

「あの面子を連れて行くのか」

 レオンが眉を顰める。ククールスは苦笑いだ。

「角牛狩りねぇ。貴族の引率は慣れてるとはいえ、面倒なんだよなー」

「お姫様まで一緒なのかい? まあ、女のあたしがいれば安心はしてもらえるかね」

「ヤバくねぇの? 角牛って結構大きいじゃん」

「ロトスも最初は怯えていたよね?」

「怯えてねぇよ!」

「そう?」

 シウが笑うと、ロトスは顔を赤くして否定した。レオンが横で呆れ顔になる。そして、話を変えようとしてか、咳払いだ。

「それよりさ、シウ。秋頃に一度シュタイバーンへ行くって言ってただろ?」

「うん。アルウェウス迷宮がいよいよ稼働するからね。同時に街開きも行われるんだ。その記念式典に僕も呼ばれているから、行くよ」

「シウは地下迷宮の発見者だもんなぁ」

「友人も呼んでいいらしいんだ。皆も一緒に行かない? というか、来てほしい」

 一人では時間を持て余す。国が主催する式典なのでキリクも呼ばれているが、そもそも彼もアルウェウス迷宮を押さえ込んだ当事者として出席するため忙しいはずだ。多くの貴族らが誼を結ぼうと集まるのではないだろうか。

 そこに権利者でもあるシウがいればどうなるか、火を見るより明らかだ。

 目立たず隠れているには友人や仲間の姿が多ければ多い方がいい。

 それに。

「正式稼働前に一部の関係者だけ入れるんだ。綺麗な街を見て回れるのも最初に迷宮の見学ができるのも、この期間だけだそうだよ。前夜祭もあるし、式典から三日間はお祭りが続くんだって」

「へぇ」

「式典には一般人も参加できるのかい?」

「当日は無作為に選ばれた人だけみたい。さすがに王族や貴族が参加する場に大勢が押し寄せるとまずいんじゃない? と言っても、当日の夜からは誰でも街に入れるそうだけどね。迷宮の方は三日後から入れるらしいよ。式典後に冒険者ギルドで申し込みできるんだって」

「うわ、めっちゃ混みそうじゃん」

 嫌そうな顔のロトスに、レオンが首を傾げる。

「迷宮に入るつもりなのか?」

「そりゃ、入りたいよ。え、レオンは入らないのか?」

「……まあ、俺も腕試しはしたいけど」

「だろー?」

「おっ、だったら俺が引率してやろうかぁ~」

「兄貴がいれば安心だけどさ。あ、そうだ、兄貴がいれば上級冒険者ってことで優遇されないかな?」

「期待はしない方がいいんじゃないのかい? 同じパーティーメンバーでも級数に差があれば依頼が受けられないんだ」

 皆が楽しそうなので口を挟めなかったシウだが、慌てて手を挙げた。

「迷宮には優先的に入れるから」

「えっ」

「そうなのかい?」

「えー、マジか」

「なんで優先で入れるんだ、シウ」

 それぞれに問われ、シウは頭を掻きながら答えた。

「発見者の特権? キリクもそうなんだけど、迷宮から湧き出てくる魔獣を押さえた人たちには『中に入れる実力がある』として、自由に入れるカードがもらえるらしいんだ。そのカードを持っていれば同行者も入っていいそうだよ。ただし、冒険者だけね。さすがに一般人を連れて行くのは危険だからダメだってさ」

 この場合の一般人とは、戦えない人のことを指す。今回であれば貴族たちに内部を公開するそうで、特別な許可が必要となる。彼等を守るための兵士や護衛らにも一回限りの入場カードが渡されるそうだ。

 カードは迷宮入り口に設置された門が判別する。この門は新型で、開発したのはベルヘルト率いる空間魔法持ちの宮廷魔術師らだ。ベルヘルトは年老いてもなお、開発リーダーとして頑張っているらしい。

 内部に設置する魔道具類も宮廷魔術師をメインに研究開発し、最新型を導入したようだ。

 力の入れようが半端ない。

 街も基礎から作り上げ「新たな街を作るモデル」として各部署が協力し合い、研究を重ねたとか。王立ロワル高等学院や王立ロワル魔法学院の生徒らも学業の傍ら手伝ったそうだ。

 何もない場所に新たな街を作るという試みは、良い学びになるだろう。

 もちろん、これほど恵まれた街造りはない。しかし、理想を詰め込められたのではないか。

 シウの説明を聞いて、ロトスが笑う。

「生徒は体よく使われたんじゃないの。それより、街造りを一からやるってゲームみたいじゃん。絶対【クソゲー】っぽい仕様を入れてる馬鹿がいるぞ。理想を詰め込んだらヤバいっての」

「そうかなあ?」

「だってほら、うちの若様だって屋敷の排水設備一式、理想で作ったじゃん」

「ああ、うん」

「その弊害、あるだろ?」

「え、なんだっけ。魔核は節約できてると思うけどな」

「ぶぶー!」

 ロトスが楽しそうに不正解のベル音を自分の口で表現する。

 レオンは呆れ顔だ。アントレーネは分からなかったのか腕を組んでいる。ククールスは苦笑いだろうか。

「え、なんだろう。答えは何?」

「保守でーす」

「保守?」

「故障した時に、カスパル様とシウがいないと直せないじゃん。前に中央制御装置を見せてもらったけど全然分かんなかったもん」

「あー」

「マニュアル見ても分からないの、おかしいだろー」

「俺も直せる気がしない」

 ククールスがニヤニヤ笑って手を挙げる。アントレーネは「そりゃそうだ」と納得した。

「そういうところも込みで見たら面白いんじゃないか?」

 とはレオンだ。ロトスも「お、粗探しか。楽しそう」と乗り気で、二人はどこから見て回るかを話し始めた。

 ともあれ、雑談しながらの摺り合わせはこうして終わった。



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