590 人材確保と顔を会わせての報告




 シウの提案に、ヴィンセントが「想像もしていなかった名を聞いた」とばかりに眉根を寄せる。

「オリヴェルをか?」

「はい。彼はヴァルネリ先生の下で学んでいます。先生の考えをよく知っていますし、授業中にヴァルネリ先生が鑑定魔法についてペラペラと話していたのを聞いていました。何より、オリヴェル殿下は結界魔法のレベルが上がっているはずです。鑑定魔法が使えなくても、内部構造を守る結界部分に関しては手を入れられる。それに何より、ヴァルネリ先生の補助は何人いてもいい」

 あの天才に、ラステアやマリエルだけでは足りない。最終的な仕上げをするトリスタンも大事な存在だ。彼もきっと手伝ってくれるだろうが、残念ながら真面目な性格ゆえに徹夜で仕事をしていそうだ。ならば応援は多い方がいい。しかもオリヴェルならば、作業中に足りない人員が思い浮かぶだろうし呼び出すこともできる。それだけの立場にあった。

 シウは続けた。

「シーカーからも更に応援を頼みましょう。古代遺跡研究の担当教授、アルベリク先生は鑑定魔法のレベルが高いです」

「アルベリク、何と仰るのですか」

 ジュストが確認する。

「アルベリク=レクセル、レクセル伯爵の第一子だったと思います」

「ああ、レクセル伯の。確か『息子が一向に仕事を覚えない』と嘆いていらっしゃったような……」

 呟くようなジュストの声は、ヴィンセントにも届いたようだ。

「不肖の息子が役に立つのか?」

 シウは曖昧に笑った。

「ええと、でも、実力はあります。遺跡の調査に入ると、現場であらゆる鑑定を行います。彼の鑑定魔法は幅広く、ヴァルネリ先生の尖った内容を補えると思うんです。人物鑑定もできるので魔力に余裕があれば直に視てもらえます」

「ふむ。では、呼び出せ」

 と言ってジュストを見る。シウは早口で続けた。

「彼の教え子にも声を掛けてください。本人の了承を得てからになりますが、彼等なら宮廷魔術師の手伝いができるはずです。鑑定魔法持ちが多いので必ず助けになるでしょう」

 ヴィンセントは無言で頷き、ジュストが指示を飛ばした。



 アルベリクたちが王城に来たのは午後半ばだ。兵士もいたが、聖獣と近衛騎士のペアも一緒だったのは護衛のためらしい。一組だけだろうと、聖獣が馬車を護衛してくれたことで安心できたようだ。

 生徒で来たのはフロランとミルトだけだった。二人とも、出迎えに立つシウの横にシュヴィークザームがいても驚かなかった。以前も文化祭の時に一緒だったのを知っているからだろう。

 二人はシュヴィークザームに対して大仰にならない程度の挨拶を済ませ、すぐにシウと話を始めた。

 時間がないので歩きながらだ。アルベリクが先を行く。案内係の騎士はシュヴィークザームの姿もあって、ほんの少し歩みを緩めた。

「クラスの皆はどんな様子?」

「学校に聖獣が来てくれた途端に元気になった。単純なんだよな。そんなに長く滞在したわけじゃないのに拝む奴もいた」

「ちょうど僕らの護衛をするという話になってね。羨ましそうだったよ」

 ミルトは肩を竦め、フロランは面白そうに言う。

 学校の様子も教えてくれた。

「お前のパーティーメンバーもすごいよな。二人とも見目が良いし、強いってのが分かるからか、生徒も観客も安堵していた。貴族の護衛が何人も立候補して見回りグループに入るしさ」

「フェレスやクロも活躍しているよ。君が連れ歩いていたから誰もが顔を知っているだろう? 安心するのだろうね。観客も可愛いと喜んでいた。するとほら、君を妬んで陰口を叩いていた奴がこっそり謝ってね。あれは面白かったなぁ」

 などと言う。シウは苦笑いで相槌を打った。

「だから学校は問題ないよ。聖獣が来た時にはもうお祭り騒ぎだ。僕らは逆に抜けられて良かったぐらいさ」

「ククールスからも連絡をもらって聞いてはいたけど、皆、やる気が突き抜けてない?」

「気分が上がりすぎてるね。僕はああいうのは苦手だ」

「俺もちょっと無理。一丸となって戦う、ってのはまあ分かる。でも、全員にそれを求めるのはダメだろ。女子が心配だし、それもあってクラフトは残してきたんだ」

 今は魔獣魔物生態研究の生徒と固まって行動しているようだ。

「内向的な奴は、あのノリに気疲れしてるみたいだからさ。生徒会長はそこまで目を配れないだろ。各科をまとめてくれるはずの先生も大半がいない。残ってる先生も貴族の対応で忙しいしさ。クロが見回ってくれているから、まあなんとかなっている感じだ」

「クロが?」

「あいつ、気配りの塊じゃん。様子の変な生徒がいたら飛んでいって、服を摘んで引っ張ってくるんだ。で、小型希少獣が固まってるところに座らせる。生徒も自分が精神的にいっぱいいっぱいなのに気付いてなくて、そこで初めてホッとするみたいだ。泣き出す女子もいた」

 どうやらアニマルセラピーをやっているらしい。

「まあ、適材適所なんだろうな。フェレスは自由に飛び回ってて、クロは細かいところに目が届く。聖獣が現れて喜ぶ奴もいれば、畏れ多いってんで萎縮する奴もいる」

「ミルトは語るねぇ」

 フロランが歌うように言う。ニヤニヤと楽しそうだ。ミルトはムッとした顔で言い返した。

「こんな時でもビルゴット先生の論文を読んでいた奴に言われたくない。夜通し語ろうとしただろ。体力温存して寝なきゃならないって時にな!」

「もう、君たち、うるさい。ここは王城なんだよ。そろそろ静かにしてくれないかな」

 アルベリクが振り返る。

 案内役の騎士も気になるようだ。チラチラと振り向く。

 ちょっと話すだけのつもりがついつい長居してしまった。シウは騎士に小さく頭を下げ、ミルトとフロランを見た。

「もう行くよ。僕らも王城内の見回りがあるから」

「おう」

「あ、シウ。王城内に遺跡物があれば教えてくれないか。意外とあるんだ。以前、ハントハーベン石に埋もれた状態で見付かった古代の魔獣の――」

「フロラン、もういいだろ。行くぞ」

 ミルトはここでもフロランの暴走を止める係らしい。立ち止まって待っていたアルベリクに追いつくと、先を急がせる。頼もしいミルトがいて良かった。



 シウたちが次に向かったのは獣舎本棟だ。プリュムに会いに行く。

 ガチガチに固めた結界の中に、彼とスヴェルダはいた。

「シウー!」

「久しぶり、プリュム」

 スヴェルダとは何度か顔を会わせているが、聖獣のプリュムは学校に来ない。養育院でも擦れ違いがあり、顔を会わせたのは久しぶりだった。

「あ、ブランカもだ。こんにちは」

「ぎゃぅ!」

 二頭が話をしている間に、スヴェルダがやってきた。

「聖獣たちがシウの話をしていたよ。随分と活躍しているようだな」

「活躍はルダの方でしょ。プリュムと一緒に撃退したそうだね」

「いや、あれはプリュムと聖獣たちの力だ。ついでに取り押さえたかったが、プリュムが俺を心配してな」

 プリュムの邪魔が入って取り逃がしたようだ。悔しそうな様子なのに惚気話のようにも聞こえる。シウは苦笑した。

「皆に怪我はない? シュヴィもそれが心配で顔を出したんだ」

 そのシュヴィークザームは長椅子に座り、集まってきた聖獣に声を掛けている。自分から行かないのが彼らしい。

「幸い、怪我は誰も負ってない。むしろ、追いかけようとする皆を押さえるのが大変だった。ここに残る聖獣は王族専用だろう? 大事を取って残されたと分かってはいても、不満があったようだ。敵が侵入した時には怯えるどころか、ここぞとばかりに張り切ってしまってな」

「えぇ、それは……」

「最初に結界を破られそうになった時は驚いていたのに、変わり様が怖いよ」

 シウが同意の意味で頷くと、スヴェルダが笑った。

「分かってない顔だな。シウのせいだぞ。いや、おかげか。ブランカもそうだが、騎獣に一喝したんだって? シウの指示も頼もしいと聖獣たちが話していたようだ。プリュムが『わかる、そうだよね!』と肯定するものだから、なかなか高揚が収まらずに世話役らも困っていたんだ。シュヴィークザーム様が戻ってこられたから少しは落ち着くかな」

「いや、あの、僕は関係ないと思う」

「そうかな。聖獣たちは『ブランカとフェレスがすごいのはシウが主だからだ』と話していたようだ。そうそう、クロのことも褒めていた。小型希少獣とは思えない飛行能力だってね」

 それは嬉しい。

 シウが笑顔になると、スヴェルダも笑顔になった。

「自分の子が褒められると嬉しい気持ちは俺にも分かるよ」

 ポンと肩を叩くスヴェルダは、つい先刻に捕り物をしたばかりとは思えないほど落ち着いていた。





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どちらもよろしくお願い申し上げます🙇



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