575 ブランカの思いと脱走騎獣の捕獲&教育9
その後のフォローも忘れない。シウは笑顔を作った。
「人間の指示を受けた方がいいと思うよ。君たちの能力が劣っているわけじゃない。これを適材適所って言うんだ。人間の考え方は人間の方がまだ理解できる。任せてほしい」
「……その通りですね」
カリンが代表して答え、確認の意味を込めて聖獣たちを見回す。
「皆もそれで良いな?」
「は、はい」
「そうですね、仰る通りです」
「分かりました。シウ殿に従います」
「シュヴィークザーム様の親友であるシウ殿でしたら全面的に信頼できます」
シウに従えと言ったつもりはないのだが、落ち着いたので蒸し返すのは止めた。
それよりも今後の流れだ。
「騎獣を集める方法はある? 声を流すのなら、魔法を使うけど」
「できれば上空を飛び回りながら呼びかけたいですね」
「シウ殿に乗ってもらえば良いのでは?」
「それはいい」
「数頭で固まっていれば安全でしょう? 王城の上空です。それぐらいなら構いませんよね?」
「うーん。分かった。その代わり、他の皆はこの結界の中で待っていてくれるかな。騎獣を一旦ここに集めようか。落ち着かせる担当や騎獣に理解を促す担当という風に、グループ分けしよう」
「それならできます!」
「やりましょう」
「では、グループに振り分けましょう」
カリンがそれぞれに役目を与える。皆、やる気だ。
シュヴィークザームは、皆に何もなかったことや仕事をしなくていいと分かって安心したらしい。お世話係たちが用意したソファに座った。
シウはレーヴェに転変したカリンに乗った。彼はシウの指示通りに防御結界を抜けた。疑うことを知らない聖獣ではあるが、カリンは成長している。不思議そうにシウを振り返った。何故、通れるのだろうと考えた。
しかし、カリンはシウに理由を問わなかった。シウも何も言わない。通り抜け専用の魔道具を持っている、とでも思い込んでくれたら助かる。
それよりも、不機嫌そうに後を付いてくるブランカがシウには気になった。
もしかしてと思い、ブランカを呼ぶ。彼女にはアントレーネが乗っていた。
「ブランカ、ごめんね。後で乗るって約束したのに」
「ぎゃぅん」
「ああ、そういうことかい。あんた、嫉妬してるんだね?」
すると、近くを飛行していたククールスが口を挟んだ。
「レーネ、お前ね、ハッキリ言いすぎなんだよ。ロトスも言ってただろ? 『ストレート剛速球のレーネは危険だ』つって」
アントレーネは肩を竦めた。彼女の手が、ブランカの背に触れる。優しい手付きだ。
撫でられたブランカが「ぎゃぅぎゃぅ」と鳴いた。
「そうだねぇ、シウはあんたのものだ。だから今だけだよ。あの聖獣に少し貸してやってるだけのことさ。その間ぐらい我慢しな。フェレスには譲ってるじゃないか。あんたは偉いよ」
「ぎゃぅ!」
ブランカは元気に返事した。
それからも「ぎゃぅぎゃぅ」と喋っているので、こっそり聞いてみる。
どうやら「フェレスは親分」で、かつ「シウの最初の相棒」だから「いつも一緒なのは当然だ」と思っているようだ。シウの接し方にも不満はなく、専用か専用でないかなど彼女は気にしていなかった。
ただ、ブランカはフェレスのようになりたいと思い始めた。更にフェレスを超えたいと考えるようになった。そこで「シウ以外を乗せていると無理なのではないか」という焦りを覚えたようだ。
これは以前聞いた話だが、ブランカはアントレーネが嫌いではない。むしろ彼女の性格を気に入っており、豪快に指示する姿も好んでいる。相性も良いと感じてるようだ。
それとは別に「フェレスが速いのは乗っているシウの影響があるのかも」という考えに至った。
より正確に言えば「シウがぶーたんに乗って、ぶっちぎってほしい」だろうか。
シウはフェレスに乗っている時に無茶をした覚えはない。
ない、はずだ。
確かに最初の魔獣スタンピード発生時は大変だった。
「……あっ、火竜と追いかけっこもしたっけ」
思い出すと、段々と冷や汗が出てくる。他にも数頭の聖獣を相手に勝負をさせたり、格上の魔獣がいる中を飛ばした記憶が蘇った。
「そっか、フェレスに聞いたのかな」
ブランカはフェレスに憧れている。自分もシウを乗せて「ぶっちぎって飛ばしたい」し、やがては「よくやったね、速かったよ」と褒められたいのだ。
考えてみれば、クロもスピードマニアの気がある。
フェレスが原因だと思っていたが、むしろ発端はシウかもしれない。
「えーと、ブランカ?」
「ぎゃぅ」
「今は、王城の騎獣たちを集めるためにカリンに乗っているんだけど」
「ぎゃぅ」
「一通り集め終わったら、またブランカに乗せてくれる?」
「ぎゃぅ!」
「それで、騎獣たちに教育的指導をやろうか」
「ぎゃぅ?」
「だって、本当はダメなのに、遊んでおいでって言われて勝手に出ちゃったまま帰ってこないんだよ?」
「ぎゃぅ~」
怒られるぅ、とブランカは楽しそうに笑った。
言うことを聞かずに飛行板から何度も落ちかけた幼獣時代、ブランカを強く叱ったことがある。他にも注意力散漫な行動を注意もした。滅多に怒らないシウの、真剣な様子は怖かったろう。
今となっては良い思い出なのか、あるいは他の騎獣のことだからか、楽しそうだ。
「飛行速度も遅いらしいよ。教えてあげたらブランカの訓練にもなるんじゃないかな」
「ぎゃぅっ? ぎゃぅぎゃぅ!」
ブランカは「遅いの? やるやる!」と乗り気になった。
聞いていたカリンは小さく笑い、アントレーネやククールスは大きな声で笑った。
獣舎本棟にはフェレスが残っている。クロと共にシュヴィークザームの護衛役だ。本当ならシウが残るべきだったが、もし狙われたとしてもすぐに戻れる距離だからと外に出た。
シウがカリンと向かったのは厄介な騎獣だけを先に集めるためだ。
厄介と言っても乱暴だとか攻撃的だという意味ではない。教育が行き届いていない騎獣隊の子は指示をきちんと受け取れない。カリンならばガツンと叱り、半ば強引に「教育的指導」ができる。
アントレーネやククールスたちは遠くに逃げた騎獣を追いかけに行った。聖獣も数頭一緒だ。彼等も説得役である。
「さすがに王城は出ていないね。あっち、それから西側の畑で遊んでいるみたい」
シウの《全方位探索》でおよその位置を掴み、残りの騎獣を集めるのは彼等に任せた。
問題児の騎獣たちはカリンが強制的に命じることで連れ帰った。
アランは戻ったシウの姿にホッとしたようだ。
「すみません、護衛を頼まれていたのに抜けてしまって」
「いいえ。シュヴィークザーム様が命じられたようなものですし」
そのシュヴィークザームはソファで横になったままだ。サイドテーブルの上に用意された果物を摘んで優雅に過ごしている。
集められた騎獣たちとは正反対だ。騎獣らはおどおどと建物内の端に集まっている。
彼等を囲うように立っているのは聖獣数頭とブランカだった。ものすごくやる気だ。
「あの、申し訳ないのですが、もう少しだけシュヴィの傍を離れてもいいですか?」
「どこかに行かれるのですか」
「いえ。ブランカと一緒に騎獣たちの教育を少し。シュヴィ、やってもいい?」
「それは構わぬが。聖獣がやるのではなかったか?」
「一緒にやろうと思って」
「ふむ。好きにすれば良い。我はここで休んでいる。そうだ、交代で食事を摂るのだぞ? フェレスとクロには先ほど与えておいた。(エルにもな)」
最後の台詞は小声だった。シウは微笑んだ。
「ありがとう」
「わたしも少し休ませてもらいます」
カリンが騎獣たちから目を逸らして宣言する。
「珍しいな。お主は聖獣らの教育に励んでおったろう? 騎獣にも嬉々として教えるものと思っていたが」
「……シウ殿にお任せいたします。わたしは聖獣の扱いしか知りませんし」
「ふむ、そうか。ならばシウよ、自由にやるが良い」
言質を取ったシウはにこりと笑顔になった。
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