485 迷宮の核取りへGO
英気を養ったからかどうかは分からないが、翌朝には全員が気力漲る様子でキリクの下に集まった。
「これより、三班に分かれて迷宮の攻略を進める。迷宮自体はさほど大きくない。アドリアナからの情報に最悪を掛けたとしても、アルウスほどじゃないだろう。ならば短期決戦でいける」
キリクが皆の顔を見回す。誰も彼もが強い眼差しだ。
「迷宮は時間をおけばおくほど危険だ。多少無理をしてでも、今、抑えてしまうのが一番いい」
オスカリウスの騎士が「おおーっ!」と大声で返す。釣られて対魔獣討伐団からも声が上がった。
(体育会系だ)
(ロトス?)
(分かってるって。余計なことは言わない。はい)
ロトスが澄まし顔で答える。シウは呆れ顔でチラリと見てから、今度は周囲に視線を向けた。全員のやる気がどんどん上がっていく。キリクのカリスマ性には驚くばかりだ。
「いいか野郎共! 核取りのフォローが一番の優先事項だ。核取りは俺に任せて、お前らは魔獣を排除しろ。次、対魔獣討伐団!」
「はいっ!!」
「道を空けろ! お前らの今できる最高の力を示せ! 海側は任せたぞ! いいか、尻から突っ込まれるような真似、絶対させるなよ!」
「はいっ!!!!」
「アドリアナ、お前らは野営地を守り切れ! 案内は要らん。足手まといだ。だが、ここを守るぐらいならできるだろう! 自分たちの土地だ、誇りを守り切れ!」
「おおぉぉっ!!」
「オスカリウスの者共!」
「おおおおおおっ!!!!!」
「いつも通りにやっちまえ!!」
あとは声にならない声が沸き起こった。
隣のアントレーネも興奮して叫んでいる。
ククールスは合わせようとして、乗り遅れた感だ。ロトスは楽しそうに拳を振り回している。
(ノリが悪いぞ、シウ)
(う、うん)
(こういうのは、やった方がいいって。見ろよ、フェレスたち)
言われて見回す。いや、見回すまでもなく聞こえていた。
「にゃにゃーっ!!」
「ぎゃぅっ!!」
「きゅぃっ!」
フェレスとブランカは乗りに乗って張り切っている。どころか、すでに体が浮いている状態だ。クロも珍しく興奮しているが、フェレスたちと違って楽しいというよりもキリッとした表情だった。
ちなみにスウェイはシウと同じく困惑組だ。顔を見合わせ、思わず苦笑いしたシウに「ぎゃ……」と情けない声が返ってきた。
この迷宮の核取りはシウのパーティーとキリク、更に後方から支援するという形でオスカーが担う。先頭を任されたのはシウだ。
てっきりサポート係だと思っていたシウは、自分が先行のリーダーだと知って驚いた。が、キリクいわく、
「いや、お前が一番だろ。時間短縮、安全面を考えても最善を選んだつもりだ」
ということらしかった。
隠れ蓑としてキリクも付いてきてくれる。もっとも、彼自身が最前線に立ちたいのだろう。シウのスキルを隠すつもりがあるならオスカーの同行は断ったはずだ。
そのオスカーはアレンカだけを連れてくる。他言無用の契約魔法を用いるなら同行してもいいと告げたキリクに、応えたのが二人だけだったからだ。他にも興味津々で参加したがるシャイターンの対魔獣討伐団員もいた。なにしろ、滅多にない迷宮の核取りだ。過去に迷宮を押さえ込んだ経験のある実力者のキリクもいる。これほど安全に経験を積める場はない。
しかし、彼等のために手取り足取り教えてあげる必要はない。時間も手間もかかる危険な「実地での訓練」を頼まれたわけではないからだ。
キリクが受けた依頼はあくまでも迷宮の押さえ込みである。とにかく早く潰してしまいたい。それがアドリアナの願いだ。
主導権はキリクにある。それに従えないなら、サポート役として付いてきた対魔獣討伐団は邪魔でしかない。
よって、彼等は粛々と従うしかなかった。
現場までのルートはククールスが調べ上げていたため、飛竜も騎獣も問題なく進んでいく。ルートを外れる者はいない。これは実力者がいるという理由はもちろんのこと、一番は統制が取れているからだ。飛行ルートをキリクが独断で決めた時、誰も異議を唱えなかったそうだ。
また、ククールスは野営地に残る面々にも周辺の注意点を伝えている。地形的に風の強弱があるため、その情報は有り難がられていた。アントレーネが狩ってきた魔獣の様子から、どんな魔獣がどこにいるのか把握し、そのデータも渡している。
野営地は大事な前線基地だ。ここを守るのも後方支援部隊の役目である。
皆がそれぞれの戦いに入った。
迷宮の入り口までは問題なく進んだ。なにしろオスカリウスの精鋭が道を空けてくれる。襲い来る魔獣をばったばったと倒すのだ。海の魔獣と違って、普段よく見る魔獣ばかりというのも良かったのだろう。ハーピーもガーゴイルもあっという間に切り落とした。海面では待ってましたとばかりに口を開けている魔獣がいる。それらは、シウたち先行部隊が入った後に制圧する予定だ。彼等は第二班で、海の魔獣を担当する。
第一班は上空の支配、および野営地までのルートを確保。
そして、迷宮に入るシウたちを追う形で、取りこぼした魔獣を討伐していくのが第三班である。
第三班にはオスカリウスの騎士が多い。迷宮に慣れた騎士をリーダーにして小グループを作り追いかけてくる。グループには対魔獣討伐団の騎獣隊や、オスカーが所属する魔法師団からそれぞれが参加しているようだ。実践教育ではあるが、全部隊を混ぜて行うわけではない。いきなり実戦に入って連携が取れなくなると全滅する。あくまでも実験的に小グループを作って投入するだけだ。当然、シャイターン人は第三班の中でも中央から後方のグループに配置する。
シウたち先行部隊のすぐ後を追うのは、オスカリウスの精鋭部隊だ。騎獣隊と魔法部隊がメインで組んでいる。その中にはカナルとルコのペアもいた。騎乗はしない。カナルは別の騎士と共にブーバルスに乗っていた。シビアな現場なので騎乗は諦めたのだろう。しかし、ルコにも仕事を与えていた。彼女は数人分の荷物を背に乗せている。魔道具やポーションをすぐに取り出せるよう、特殊なポケットがたくさんついた鞄だ。バランスの取りにくい積み込み方をされているが、ルコは平然としていた。
それが、ルコが同道を許された理由なのだろう。彼女はバランス感覚に優れた騎獣として成長していた。
「では、これより迷宮に入る!」
キリクの合図で、突入が始まった。
すでにシウが先行して入り口を確認していたため、突入は早かった。
入ってすぐに、待ち構えていたペルグランデポリプスはアントレーネとロトスが倒した。入り口を塞ぐ格好だった大タコの魔獣を倒せば、あとは罠がないか、次の魔獣がどこにいるのかをシウが探索していく。
ククールスはキリクの護衛兼、後方との繋ぎ役だ。ついでにシウたちの取りこぼしを倒す役目でもある。スウェイと共に二番手を行く。
その前を、シウたちが切り開いていくのだ。迷宮の先行など恐いはずなのに誰も怖れをなしていない。それはシウがいるからだとロトスは言う。
が、シウは恐い。
恐いので、確実に大丈夫だと言えるよう全力を尽くした。全力で魔法を使った。
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