482 現地到着と周辺の探索




 夕方、アドリアナ側からの指示で周辺よりも低い山の頂上付近に下りた。頂上といっても、尖っているわけではない。なだらかな場所だ。ただやはり地面はでこぼこしているし岩も多い。また、そこまで広くもないため、小グループごとに場所を割り振られて下りていった。

 飛竜の操者が「まだ日のあるうちで良かった」と言うぐらいには不安定な場所だ。それもそのはずで、下りた山を取り囲むように険しい崖が迫っている。山と山の間に挟まれた小さな山だ。

 迷宮のある場所からは少し奥まった場所になるそうだ。ここにしか前線を置けなかったのだろう。

「すぐに陣を張れ。急げよ!」

「飛竜の世話は騎士だけでやれ。従者はテントや食事の用意だ」

 怒号のような声があちこちから聞こえて、オスカリウス家の人間がテキパキと動き始めた。

「おー、さすがだなー」

「僕らも手伝おうか」

 ククールスが感心しながらシウに寄ってきたので返すと、キリクが指示出しの途中でこちらに向いた。

「いや、お前らはいい。それより着いて早々で悪いが周辺の偵察を任せたい。体力に余裕はあるか?」

「それは大丈夫だけど、僕らだけで勝手に動いてもいいの?」

「構わん。時間が惜しいからな。俺たちはアドリアナ側から話を聞く。が、奴等の情報だけを信じて動きたくない。こっちの斥候を動かしてもいいが、奴等の気を悪くしてもな」

 シウたちなら冒険者として参加しているのは丸分かりだし、シャイターンとも関係ない。つまり、アドリアナ側が万が一気を悪くしたとしても「血気盛んな冒険者が先んじて情報収集に走った」と言い張れる。

「分かった。じゃ、ちょっと周辺の山々を確認するついでに、ちょっぴり遠出してくるよ」

 とは、こっそり現地を見てくるという意味だ。キリクは正しく受け取り、行ってこいと手を振った。


 こうなると喜ぶのがアントレーネだ。ロトスもウキウキとフェレスに乗る。

「やっぱり自由に飛びたいよな!」

「あたしもさ。ずっと飛竜の上でジッとしてたんだ、肩が凝って仕方ないよ」

「まぁ、俺も行儀良く座ってるのには飽きたけどさ~」

 ククールスまで楽しげだから、同乗していた騎士や魔法使いたちに遠慮もあって寛げなかったのだろう。

「じゃあ、運動がてら見回りしようか」

 シウの合図で全員が飛び立つ。クロが一足早く進むのは斥候としてだ。その後ろをフェレスとロトス、追いかけるようにブランカとアントレーネ組が続く。ククールスとスウェイは最後で、シウ一人が飛行板に乗っている。

 シウは自由に飛び回る予定だ。そのつもりでいたら、追い越そうとした時にククールスから声がかかった。

「あ、なあ、シウ!」

 減速して並んだシウに、ククールスがスウェイの背を撫でながら言う。

「こいつからの提案なんだけどさ。今って騎獣に乗る時の組み合わせが固定されてるだろ? それを変えちゃどうだろうかって話なんだが」

 その提案がスウェイから出たことに、シウはひそかに驚いた。

「うん、いいと思う。でもどうして?」

「訓練の時、たまに入れ替えて乗ってただろ。それで乗る奴の癖ってのを知ったらしい。で、俺たちの仕事は人を助ける場合もある。その時に『人に慣れてないから嫌だ』ってのは通じないと思ったらしいんだ」

「……すごいね、スウェイ」

 そこに自ら気付いて、更にどうすればいいのかを考えた。ずっと野良騎獣として生きてきたスウェイが、だ。シウが視線を向けると恥ずかしいのか、こちらを見ようとしない。

「あとな、もう一つ気になったんだってよ」

「何を?」

「ブランカだ」

 シウが首を傾げると、ククールスは苦笑した。

「ブランカはあんなだから分かってないかもしれない。だけどな。やっぱりあいつの主はお前なんだよ」

「……ああ、うん、そうだね。そうだった」

 ここ最近のブランカの相棒はアントレーネになっている。重量級でもある彼女は、その背に二人以上を難なく乗せられる。そのため同じくがっちり体型のアントレーネばかりと組んでいた。

 寂しがったり拗ねたりという姿は見せないが、心の内では違うかもしれない。

 シウのパーティーは自由度が高く、誰も彼もがごちゃ混ぜで楽しんでいる。けれども、契約した相手、本当の主が誰かは騎獣である彼等自身が一番分かっていることだ。

 夜、甘えられてブラッシングし一緒に遊んで寝る。それは彼等への愛情から派生するものであって「主と相棒」の仕事ではない。

 シウはブランカが何も言わないのをいいことに、彼女の大らかさの上に胡座を掻いていたのだ。ちゃんと仕事をさせてあげられなかった。序列の関係でフェレスが一番であるのは変わらない。けれど、それと契約相手として相棒役をするのとは別だ。ククールスはそれを指摘している。

「ありがとう、ククールス」

「よせやい、改まって。第一、言い出したのはスウェイだ」

「そっか。ありがとう、スウェイ」

「ぐぎゃ」

 スウェイも「やめてくれ」と返してきて、主従ともに同じ言い方をするのかとシウは笑った。


 改めて、シウは仲間がいて良かったと思う。

 彼等は仲間であり友人だ。そして家族でもある。こういう家族があってもいい。

 シウが一人にこにこと笑っていたら、途中で交差したロトスに「キモいぞ、大丈夫か」と聞かれてしまった。

 ちょっぴりムッとしたシウである。



 なだらかな山頂付近は前線基地となるため、アドリアナ側がすでに魔獣を一掃していた。しかし全てとは行かず、周辺の高い山々には魔獣の気配が濃厚だ。ほんの少し近寄っただけでもハーピーが現れる。

 アントレーネとロトスが競うように倒してくれるため、その間にシウとククールスで土地の形状を調査した。

「風の通りが激しすぎる。このルートを通る時は低空飛行がいいな」

「あまり低いと、あそこの沼地からウォラーレラーナに狙われるんじゃないかな」

 蛙型の毒を持つ魔獣だ。羽があって大きく飛び跳ねる。

「あー、いるなー」

「沼地が点在してるから倒してもキリがないよねえ。それにあんまり派手にやると、騒ぎに気付いて他からも魔獣が来るだろうし」

「前線基地に来られちゃ困るからな。うーん。よし、もう一度飛んでみるわ。一番いいルートを探す」

「うん。飛竜は特に風を受けやすいし、今回は人を多く乗せて運ぶからね。それに岩場が多い場所への墜落は避けたい」

「分かった。じゃ、俺はここを重点的に潰す。野営地周辺の魔獣討伐は騎士連中がやるだろ。じゃ、レーネとロトスは引き続き勝手にさせておくか?」

「レーネ一人で大丈夫だと思う。僕はロトスを連れて現地を見てくる」

「了解。クロはどうする?」

「クロも置いていく。岩場が多いからハーピー以外にもガーゴイルがいる可能性もある。クロの索敵能力は高いから、警戒してもらおう」

「レーネ、夢中になったら周りが見えないからなー」

 強いので大丈夫だろうと分かっていても、警戒するにこしたことはない。

 シウはクロを呼んで警戒係を頼んだ。

 ロトスは現地偵察に呼ばれたのが嬉しかったらしい。「マジで!?」と喜んでいる。

 フェレスも釣られて喜んでいるが、意味は分かっていない。ただ嬉しいだけだ。

「にゃにゃ!」

「うん、偵察だねー。というわけで、僕とロトスの二人を乗せてくれる?」

「にゃっ!」

 ピクニックにでも行く感じで「いいよ!」と元気が良い。シウは笑って、騎乗帯を二人乗りのものに交換して乗り込んだ。


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