475 一網打尽にするための打ち合わせ

(自分のための覚え書き)再考


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 ロトスは一度休憩に戻ってきたが、すぐにまた現場へと向かった。やる気が漲っている。体力が温存されていたため元気だ。ロトスとアントレーネは好きにさせておいた方がいい。代わりというわけではないが、シウはククールスとスウェイには適度に休憩するよう言ってあった。フェレスとブランカはロトスに付いていってしまった。楽しくて仕方ないらしい。

 オスカーたちはさすがに疲れたと、長い休憩に入った。彼等の年齢は三十歳前後で体力もありそうだが、夜の海上での戦いは思った以上に精神が消耗するようだ。


 従者が客人の世話をしていると、キリクがオスカーに話し掛けた。先ほどシウと話していた内容についてだ。

「一気に片を付けたいが、水中から誘き出す方法はないものか」

「そうですねぇ」

「あの、キリク様。お食事中ですので」

 従者がおそるおそる口を出す。本当は言いたくないんだ、という表情だ。それでも口にするのはイェルドに何か言い含められてきたのかもしれない。主の無礼を諫めるのも部下の仕事だ、とかなんとか。

 注意されたキリクはすぐに謝った。

「おっと、すまない」

「いえいえ、事態が事態ですからね。急ぎますゆえ少々お待ちください。君たちも手早くね」

 オスカーが急くようにと告げる。可哀想な部下たちは慌てて食事を口に詰め込み始めた。


 ところで、ルーナの上にはシウが考案した簡易トイレを設置してある。というのもオスカーの部下に女性が一人いるからだ。彼女は最初「オムツをしてるんですけど限度があるので後ろで隠れて着替えたい」と話していた。軍属で慣れているのかもしれないが、赤裸々な発言にシウの方が困ってしまった。

 元々、男性は専用ポットを使う。女性の飛竜騎士は更にスカートタイプのカーテンを利用するそうだ。アントレーネもソールの上ではこれを使った。

 しかし、親しくない男女が同乗していての使用はいくら慣れていても嫌だろう。アントレーネが平気だったのは、彼女が山中行軍に慣れた元軍人だからだ。

 かくして飛竜の尻尾側に簡易トイレをくくりつけた。部下の女性は喜んでくれた。

 その時シウは、大人用のオムツに代わる排泄物を処理できる魔道具を開発しようと思い立った。非日常時の緊急避難措置的に使うのなら体の機能を奪うこともないのではないか。更に、老希少獣や人間の介護にも使える――。

 などと、シウが術式を考え始めたところで全員の休憩が終わった。



 ルーナの操縦をしながら、キリクは時々振り返って皆と話をした。シウたちもルーナの肩近くに座る。オスカーの部下の中には怯える者もいたが、安全帯を追加して付け直し《落下用安全球材》も渡した。

「先ほどの話ですが、実は我々も思案していたのです。このままでは埒が明かない」

「長引けば我々の目を潜り抜けて海岸へ到達する魔獣も出てくるからな」

「ええ。さりとて、大型魔法を幾ら撃ち込もうと、湧いて出てくるのは明らかです」

 オスカーは一度口を噤み、部下を見回した。そして一人のところで視線を止める。唯一の女性アレンカだ。

「彼女はまだレベルは3ですが空間魔法と重力魔法を持っている。アレンカ、手伝ってくれるかい?」

「は、はい!」

「待て待て。二人だけで盛り上がるんじゃない」

 キリクが慌てて止め、シウに目配せする。話を進めるのはシウの役目だとばかりにだ。

 シウはオスカーにどういう意味かと確認した。

「お二人で何をするつもりですか?」

「わたしにも空間魔法のスキルがあるのだ」

「はい。それで?」

 オスカーは「おや?」といった表情になった。シウはその意味に気付かず、首を傾げた。

「何をされるつもりですか」

「……空間魔法を使って海に潜るつもりだ。重力魔法を使えば進めるのではないかと考えた」

「その後はどうされるんです?」

 オスカーとアレンカの二人が顔を見合わせた。口を開いたのはオスカーだ。

「これは機密事項なのだが、まぁ、今更か」

「オスカー隊長!」

 叫んだのは別の部下、海に落ちた男だった。オスカーは部下に対して首を横に振り、シウに視線を向けた。

「わたしにはユニーク魔法の『消去魔法』がある」

「なるほど。かなり珍しい魔法ですよね。確か、条件があるはずです。対象者に近付かないとダメだとか、もしくは触れていないと発動しないなど。どちらにしても危険ですね」

「あ、いや」

 オスカーはそのまま黙ってしまった。アレンカや他の部下たちも無言だ。シウはまた首を傾げた。

「そこまで条件は厳しくないと?」

「いや、違う。そうではなく」

「オスカー殿、うちのはこういう奴だ。慣れてくれ」

「あ、はい」

 返事のあと、オスカーは不意に笑い出した。

「ははは。そう、噂で聞いていたのにね」

「おや、どういう噂かな?」

 キリクが問う。オスカーは頭を掻きながら答えた。

「実は、オスカリウス辺境伯様の秘蔵っ子は規格外だと聞いておりまして、興味津々だったのです。なんでもドワーフではないか、妖精ノームかもしれないなどなど。……そうでなければ、あのロワル異変を第一線で過ごせたはずがないと」

「アルウェウスか。しかし、その噂はどこまで広がっているのかな」

 シウの代わりにキリクが聞いてくれた。シウもそこが心配だ。すると、オスカーは慌てて手を振った。

「いやいや、我々魔法使いや騎獣隊の者ぐらいです。ほら、なにしろ大会で優勝したでしょう」

「ああ、なるほど。そこから調べられたというわけか。だとよ、シウ。お前も有名人になったな」

 と話を振られ、シウは複雑な表情になってしまった。

「なんだ、変な顔をして」

「変な顔じゃないです」

「はは」

「僕は目立たない顔だからキリクよりマシだと思う」

「だな!」

 キリクは何が面白かったのか大笑いだ。オスカーたちは相変わらずぽかんとしている。

 シウは肩を竦め、話を進めようと促した。


 オスカーに再度確認し、彼の考えた案が判明した。

「空間魔法を使って二人で深く潜り、消去魔法で魔獣を排除していく、と。うーん」

「何か問題でも?」

 問題はあるとばかりに、他の二人の部下が何か言いたそうだった。そわそわとオスカーを見ては、彼に睨まれて黙るというのを繰り返している。代わりにシウが口を開いた。

「問題は、何故アレンカさんまで一緒に行くのか、です。ひょっとして彼女に補佐を?」

「ええ。まだレベルは低いですが、彼女に空間魔法を維持させます。わたしほど大きい空間を作れませんが維持ならできるでしょう。レベル上げで教えるために何度も訓練しましたから」

「へぇ、そんな訓練をするんですね」

 思わず脱線しかかったが、シウは慌てて話を戻した。

「で、維持させた状態であなたが現場で魔獣を倒すと。でも、空間の維持と、かかる圧力を相殺させるのは厳しくないですか? アレンカさんは魔法の複数同時発動が可能なんでしょうか」

「なるほど、シーカー魔法学院で優秀な成績を収めているだけのことはある」

「そこまでお調べに?」

 シウの問いに、オスカーはただ微笑んだだけで答えなかった。彼は違う話を始めた。

「アレンカには重力魔法で維持だけをさせるつもりです。わたしが同時展開を行います」

 シウは首を横に振った。

 何故、彼の部下たちが止めようとしたのかが分かった。

「そんな、命を賭けた方法で魔獣を倒しても意味はありません」

「は?」

「そ、そんな言い方は」

 オスカーとアレンカが同時に発した。聞いていた部下の一人もムッとしたようだ。身を乗り出してきたが、偶然なのかルーナが大きく動いた。バランスを崩して転げそうになるのを、シウが風属性魔法で受け止める。

「あ、あっ」

「落ち着いてください。あなただけじゃない、オスカーさんやアレンカさんもです」

 オスカーの方法は危険だ。アレンカが維持できなくなったらぺしゃんと潰れて深海で死んでしまう。オスカーの魔法が途切れても同じ。転移ができるのかと思ったが、そうした案も出ない。できたとしても複数の魔法展開になるから難しいのだろう。

 そもそも、レベルの高い魔法を多重展開するのは本来なら難しいのだ。








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