465 海の大型魔獣討伐戦




 各自が相棒の騎獣に乗って高度を下げる。

 海は混沌としていた。海面では大きなタコの足や蛇の鱗が見えるが、シウの《感覚転移》では海中の方がもっと錯雑だ。まるで一つの壺に生き物を入れて争わせた呪術の一種「蠱毒」のようだと思う。

 と、そこまで考え、シウは「あー」と溜息のような独り言を漏らした。

 以前もあったではないか。魔獣呼子や呪術具といった古代の魔道具が。

 その多くが古代帝国時代に作られた、強力な魔核や魔石を用いた戦道具だ。それは魔獣を争いのために用いた。

 最初は魔獣そのものを倒すために研究されたのだろう。なにしろ当時、彼等は巨大で強い魔獣に悩まされていたのだから。

 騎士や兵、戦士に魔法使いたちが挙って討伐に命を賭けた時代だ。同時に研究も進んだはずである。

 当時は魔人との争いが盛んだったため、魔人の扱う魔法によって魔獣がコントロールされていた。帝国側の研究者は太刀打ちしようと魔獣を操る術を探った。

 古い本にも書かれている。魔獣を追い返すための魔道具があったと。けれど、書かれていない裏側もあったろうと思うのだ。

 実際、数百年前にも魔獣を用いた戦争の研究が行われていた。つい最近だって、その術式を利用したと思しき形跡が、ルシエラ王都の近くで起きた。首謀者が誰かは分かっていないが、実行した冒険者たちには相応の刑罰が科された。

「魔獣呼子か発生装置かは分からないけど、それがあったから迷宮ができたのかもしれないなあ」

 だから急激に育ったのかもしれない。集まった魔獣は正しく蠱毒状態となり、生き残ったものだけが進化して大型化した。今、シウの真下にいる大型の魔獣らは、新たな餌を求めて蠱毒から逃げ出してきたのだ。もっと美味しい餌のある場所に。

 そしてファルケの街に気付いた。今のファルケには多くの聖獣や飛竜がいる。魔力の高い人間も多い。

「ごちそうが集まってるんだもんなー。しかも海の近くだ」

 普通の海の魔獣なら陸には上がれないだろう。だが、相手は魔法を使う大型魔獣だ。進化した彼等に「絶対ない」とは言えない。それにタコ型や蛇型なら、陸地でも動き回れそうだ。

「さすがにマグロみたいな魚タイプは陸に上がれないよね……」

「にゃ?」

「なんでもない。とりあえずは、目の前の敵を倒そう」

「にゃ!」

 フェレスはやる気になっているが、さすがに彼では大型の魔獣は倒せない。しかし、シウを背に乗せて飛び回るのには大いに役立つ。

「頑張ってね。ずっと飛び続けることになるけど」

「にゃっ!」

 任せて、と頼もしい返事で、フェレスは大きなタコの足が飛んでくるのをひょいっと避けた。



 シウはまず、邪魔なグランデテュンノスやモラモラアトルムといった比較的小さな魔獣を狩っていった。小さいといっても十メートルの大きさはある。しかし、それぐらいなら魔核を一瞬で奪えるのだ。一応、バレないよう《感覚転移》でサナエルを視ながら、見られていない時を狙って《引寄》で魔核を奪い空間庫に入れてしまう。

 たまにグランデカンマルスもいる。海老型だ。《鑑定》すると食べられると分かる。シウの愛読書『魔獣魔物をおいしく食べる』本でも美味だと書いてあった。

「マグロとマンボウと海老かー。美味しいのがいっぱい食べられるね」

「にゃぅ!」

 ついニヤけてしまうが、気を抜いてはいけない。シウは自分の頬を叩いて、また間引きを繰り返した。

 念のため、大型魔獣も何匹かは間引きした方がいいだろうと、魔法を使う。

「《真空切断》っと、この魔法ならタコの足は切れるんだ。鮫は皮も使いたいから別の方法がいいかな。蛇は無理か。水晶竜と同じで鱗系は魔法を弾く力が強いんだなあ」

 傷を付けると勿体無い。

 シウは海中にいるグランデマルセルペンス、大海蛇の魔獣を《空間壁》で囲んでみた。

 ぴったりと体に沿うように囲み、魔素を吸収してみようと試みる。が、動きは止められたものの魔素を取り込もうとしても体内からは搾り取れなかった。

 これではすぐに倒せない。弱るまで待とうと思ったら時間がかかってしまう。大型だけあって体力も魔力も十分あるのだ。

「物理で倒すか……。大型の魔獣を海の中で?」

 空間魔法を使えばあっさり倒せるのは分かっている。最悪はそれで倒して「攻撃したら海に沈んだ」と言えばいい。

 今だって海面すれすれを飛んで、十メートル級の「小さい」魔獣を倒しては魔法袋に取り込む体で空間庫に放り込んでいる。

 やってやれないことはないが、後々対魔獣討伐団が現地調査にやってきたときに何か言われやしないだろうか。

 分かりやすく倒して、魔法袋に入れるのがシウの望むもっともベストな方法だ。

 考えているとクロが飛んできた。

「(『かなり遠いが大きな黒い影が見えるそうだ。大きさは三十メートル。それから三人とは別の東方向にも黒い影がある。浮上しているのかどんどん大きくなっているので気を付けろ』)きゅぃ!」

 長い伝言を告げると、クロはそのままアントレーネのところに飛んでいった。三人に同じ内容を伝えるのだろう。シウは見送りながら《全方位探索》を強化した。

 確かに深い場所から浮上している魔獣がいる。遠い位置の魔獣も確認が取れた。それが魔獣だと分かるが、実際に見ていないため種族は分からない。まずは《感覚転移》で近くの魔獣を確認した。

「あ、まずい。これ、クロッソプテルギイだ」

 電気系の魔法を使う、シーラカンスに似た魔獣である。元の獣の属性に近いのなら、深海に生息しているはずだ。それが浮上する。となれば、敵の排除か、餌の取り込みだ。

「(レーネ、ククールス、よく聞いて。今、僕らの足下から電撃魔法を得意とする大型魔獣が浮上してきている。絶対に海に落ちないこと。それと、さっき渡していた足場をあちこちにばらまいておいて。あれは電気を通さないから)」

 しばらくして、通信状態の悪い返事が届いた。念のためシウはクロを呼び戻し、上の二人に伝えた後、周辺の竜騎士らにも伝えるよう頼んだ。

「距離があるけど、大丈夫?」

「きゅぃ!」

 やる気満々のクロに託すと、シウは先に大海蛇と巨大タコ、大鮫を少しでも減らすことにした。


 魔法を弾く鱗を持つ水晶竜にだって弱点はあった。古代竜だって死ぬのだから、魔獣にだって弱点はあるだろう。

 物理や魔法耐性があったとしても、だ。

 シウは《完全鑑定》を掛けて流し読みしていた中から、ある部分を抜き出して読んだ。

「目の斜め上に水中に溶け込んだ魔素を取り込む器官、か。そこが唯一強化できない部分になるのかな。つまり弱点だよね」

 魚を神経締めする時に刺す場所でもあった。人によっては違う場所から入れるらしいが、シウは大抵そこを狙っている。

「じゃ、前に作った大剣でも使おうか」

 細い錐など要らない。相手は大型魔獣だ。彼等からすれば大剣でも十分に細い。

 シウはフェレスに魔獣の動きに合わせてもらい、目の前に飛び出た。かち合った大鮫が口を開けて飲み込もうとするが、フェレスは弾丸スピードで離脱だ。シウは飛び降りながら、小さくて見えないほどの穴を目掛けて大剣を打ち込んだ。

 ブツッという音と共に剣が中に入り込んでいく。

「よし!」

 グランデピストリークスが痙攣を起こす。これで魔法が通るはずだ。シウは剣を通して電気を送る。図らずもクロッソプテルギイと同じ魔法を使うことになった。

「動きが止まった。後は《引寄》で、空間庫行きと」

 沈み始めたグランデピストリークスの上に立っているとフェレスが戻ってきた。飛び乗ると同時に獲物は空間庫に入る。

 この調子で、他の大型魔獣も間引きしよう。そうすればクロッソプテルギイに獲物をみすみす奪われることもない。







********************


(修正二回目←このように修正はちょこちょことあるのです)

>まとめて削除

についてですが、段落とまではいかずとも数行削除は普通にやってたので、その延長線上で気楽に書いてしまいました!

そもそも新しいのをどんどん書いて見直しをないがしろにする自分が悪い

コピペする前にちょっとぐらいは見直ししようと思います…

ここの文言もしばらくしたら削除します←




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る