464 作戦と配置について




 作戦は、大きく広がっている魔獣の群れを一つにまとめて追い込み、大規模魔法を打ち込むというシンプルなものだった。

 シャイターンの対魔獣討伐団にいる騎獣隊は浜辺を守る手筈だ。ここで小さな魔獣を塞き止める。万が一、津波が来ても騎獣がいれば空に逃げられる。

 海獣隊は外から追い込む役目の他に、海へ落ちた者の救助を担う。救助は騎獣隊も臨機応変に対処する。

 飛竜隊はオスカリウス家の竜騎士団の下に就き、共に囲い込み作戦を行う。

 大型魔法を行使するのはシャイターンやオスカリウス家の魔法使いだ。幸い、飛竜大会観光でオスカリウスから特務隊と魔法部隊の一部も来ている。両方の隊の隊長でもあるカナルが現場の指揮を執るそうだ。

 カナルはルコの相棒だから、シウはちょっと心配になった。

「ルコも一緒に行くのかな」

「そりゃ、行くだろう? 騎獣なんだからな」

「そうなんだけど……。着水や、水の中からの再浮上は訓練していないと難しいよ」

「大丈夫だろ。カナルって奴は魔法使いだろうし」

「シウは心配性だよな。ルコは強くなってるってば。俺の目を信じろよなー」

 ククールスとロトスに言われ、シウは納得した。

 それにシウだってフェーレースという下位の騎獣を連れていく。しかもグラークルスという小型希少獣まで一緒だ。

 戦場に小型希少獣がいないわけではない。頭の良さを利用して配置するのだ。彼等は、高度に訓練された兵と同じ扱いを受ける場合もあった。伝達や情報集め、空を飛ぶ魔獣の攪乱も彼等が行う。

 シウはクロを戦闘兵器扱いしたことはないが、フェレスたちと同じように魔獣狩りはさせている。

 シウは再度、皆の首輪や足輪を確認した。

「うん、ちゃんと稼働してる。人間組も大丈夫だね」

「おう。こっちもお前にもらった状態異常無効化に何かいろいろ付いた腕輪があるんだ。問題ない」

「あたしも防御に関して心配はないよ! この剣もあるしね!」

 剣は防御じゃないと、ロトスがすかさず突っ込んでいる。二人が笑っているので、シウも笑った。

「じゃ、先に乗っちゃおうか」

 そう言ってソールに飛び乗った。


 サナエルが作戦について掻い摘まんで説明した後、彼は従者が持ってきた焼きそばを掻き込み始めた。従者は食事を渡してしまうと、その他の必要な物資を次々と積み込んでいった。彼一人ではない。他にもシャイターンの下っ端兵が運んでいる。

 本来ならサナエルが横に立って確認するのだろうが、彼は食事中だ。従者が全てテキパキとこなしていた。

「サナエル様ー、トイレ用のポット、ちゃんと使ってくださいねー。マオルさんからの指示を守ってくださいよ。ソールが怒りますから!」

「わーってるって! ていうか、食べてる時にそんな話するなよ!」

「今言わないとバタバタするでしょうが! あと、ソールに使うポーション、舐めやすいように鼻の横に付けておいてください。僕がやると怒るんで!」

「分かった分かった」

「位置に気を付けてくださいよ!」

 国軍では許されないような態度だが、これもオスカリウス家らしい光景だ。

 荷物を運んでいたシャイターンの兵らが目を剥いて驚いていた。



 立ったままの昼食を終えると、サナエルはシウたちを乗せて上空へ戻った。

 後方からも次々と飛竜が飛び立つ。彼等は放射状に広がって飛んでいった。

「俺は皆の動きを確認する必要があるから、時々高高度に上がる。シウたちは本当に騎獣に乗ったまま魔獣討伐をするんだな?」

「はい」

「……キリク様にも自由にやらせろって言われてるから許可するが、本当に気を付けてくれよ」

「もちろん。命大事を一番に考えてます。それと、せっかくの囲い込み陣形を崩さないように討伐していきますから!」

 任せてくれと、シウにしては珍しく胸を叩くという態度にも表したのだが――。

「……ダメだ、全然大丈夫だって感じが伝わってこない」

「ええー?」

「しかも、お前のところ、ストッパーがいないじゃないか」

「俺がいるじゃん!」

 ロトスが手を挙げた。しかし、だ。

「ロトスはストッパーじゃないだろ。お前、後ろで火付け石と薪を用意するタイプじゃねえか!」

「ひでぇよ! シウが勝手に火を付けて薪を投げ入れるんじゃん! 俺、巻き込み事故だろー」

 叫ぶロトスを見て、シウは彼をソールに残そうと決めた。フェレスに二人で乗り、途中交代で飛行板移動をしようと思っていたのだが。

 シウは低い声で告げた。

「ロトスはストッパーにならないみたいだから操者要員として残ってくれるかな?」

「は?」

「上からの指示担当としてね。冷静に判断してくれるだろうし」

「ちょ、おま!」

「僕らは各自、騎獣に乗って討伐ね。クロは連絡係やってくれる?」

「きゅぃ!」

「そんなー! 俺もやりたいー!」

「ストッパーやってくれたらね」

 シウがてこでも意見を変えないと知ると、ロトスはサナエルを睨んだ。

「完全にもらい事故じゃん。くそぉ。ソールの操者の立ち位置奪ってやる」

「はっはー! やってみろ。おかげで俺は楽ができる。討伐と現地指揮の両方やれって言われて、正直荷が勝ちすぎてると思ってたんだよなー」

「ま、まさかそれを狙って!?」

「狙ってないけど、いいじゃん。ちょうど練習したばっかりだしさ。俺の護衛も兼ねて乗っててくれよ」

「……そういう言い方されたら断れないじゃん! くそー!」

 サナエルは大笑いし、それからシウを振り返った。

「それでいいよな? ソールもずっと上に待機させるわけじゃない。こいつだって魔獣は倒したいから、適度に降りる」

 言いながら今度はロトスを見た。

「その時に魔獣を倒せばいいだろ。な?」

「分かった、分かりましたー!」

 というわけで、ロトスは飛竜に残ると決まった。

 少し可哀想な気もするし、討伐経験は積んだ方がいい。時間が経てば交代するのもアリだと、シウはこっそりククールスやアントレーネと話して決めた。


 そうこうするうちに大型魔獣の集まる海域へと到着した。

 それほど時間が空いたわけではないのに、移動スピードが上がっている。

「何故ここまで迷いなく移動できるんだろう……」

「シウ、考えるのは後だろ。討伐が先だ」

 ククールスに注意され、シウはそれもそうだと頷いた。頷いたが、やはり理由は気になる。これを無視して討伐だけに集中してもいいのだろうか。

 もちろん魔獣を全部討伐してしまえば問題はない。しかし、魔獣とはすぐに生まれてくる生き物だ。

 ましてや海の中のこと。人間が簡単に手を出せる領域ではない。

 ともあれ、討伐もしなければならない。シウはサナエルの合図を待って、飛竜から飛び降りた。

 クロはソールに残ったまま、しばらく様子を見てもらう。その後はシウたち三組の間を交互に飛び回る予定だ。

 大きな魔法が行き交い、通信も膨大な量になるため混線は免れない。そんな時には飛行タイプの小型希少獣が出番だ。しかも移動距離は長くない。

 特にクロは冷静で賢いから、自分で考えて行動できる。

「クロ、任せたからね」

「きゅぃ!」

 自信満々というわけではない。けれど、その瞳には意志の強さが宿っていた。彼は人間の声音を真似ることもできるから、伝えた言葉を文字通りそのまま相手に教えられる。

 更にクロ自身が気になった事実を、今度は彼の鳴き声でも告げられるのだ。

 自分の役目というものを、クロは常に考えている。

 これまでも「仕事」を与えてきたつもりだが、今回もまたクロの自信に繋がるような仕事ができたらいいと、シウは思った。

 いつも謙虚な彼に自信をもってほしい。でももちろん無理は禁物だ。

「安全を確保した上で頑張るんだよ?」

「きゅぃ!」

 今度は自信満々に答えたクロだった。





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見直し一切してないので、大きく修正する可能性あります……;(´◦ω◦`):

まあ、見直ししてたら大丈夫かっていったらそうでもないんですけど




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