463 フラグ折り、束の間の休憩
大物狩りにワクワクし始めたシウを、皆が呆れた顔で見ているが気にしない。
他の人の戦果を奪わないよう注意して狩るつもりだ。もちろん安全確実に。やりすぎてシウの魔法に疑問を覚えられても困る。だから見えないように、こっそりだ。
シウが内心で計画を立てているうちに、ソールは飛竜大会の会場へと向かった。陸に近い海上付近では哨戒中の飛竜が何頭も飛んでいる。
浜辺には騎獣隊もいた。よくよく見れば海獣隊もいるようだ。
「デルピーヌスが多いね」
「めっちゃデカいよな。あっちはオルキヌスかな?」
「そうだね。一頭だけ大きいのが、バーラエナみたい」
「ほほう。……バーラエナってなんだったっけ」
「鯨系海獣。すごく珍しいよ」
元々海獣自体が希少獣の中では少ない。海の中にある卵石を見付けるのが難しいからだ。特に大型種は沖合に生息するため、大海原に出ない今の人間が見付ける機会はなかった。
「そうだそうだ、鯨だった! てかさ、海の獣に乗るのって難しそう。あ、ほら、見てみろよ。やっぱり直に乗らないんだぜ。でもなんか、縄を掛けてるっぽい?」
「人の乗った船を曳かせるんじゃないかな。だけど、ああいう形だと転覆しそう」
「……シウ、今どうやったら乗れるか考えてない?」
ロトスに薄目で見られたシウは、笑顔で知らんぷりだ。
「お前さー、状況を考えろよ?」
「今やろうとは思ってないよ。それに海獣がいないんだから作りようがないもの」
「……フラグっぽいからそれ以上言うなよ?」
「あ、そうだね! これ以上は増やせないもんね~」
ロトスを除けると、パーティーメンバー全員に騎獣がいる上、更にクロとジルヴァーの二頭だ。これ以上は目が届きづらい。
「きゅぃ?」
クロの純粋な瞳に見つめられ、シウは笑って彼の頭を撫でた。
「大丈夫。海の子は面倒が見られないし、増やしませんとも」
「だから、そういう言い方止めろって。ヤバいー!」
「うんうん、分かった。そうだ、大型魔獣を狩ろう! これならいいんじゃないかな?」
「あー、な。うん。まあいいや。よし、大型魔獣を狩ろう、これをスローガンにしようぜ!」
「そうだね!」
「レーネと兄貴もご一緒に! 大型魔獣を狩ろう!!」
「は? 俺も?」
「あたしは狩るよ! いっぱい狩って、階級を上げるんだ! おーっ!!」
「よっ、姉御!」
いつものロトスだ。アントレーネも囃されてやる気満々である。ブランカも一緒にふんふん鼻息が荒い。
ククールスとスウェイは呆れ顔で、それでも一応小声で「おー」と合わせる。スウェイはやる気のない「ぐぎゃー」だ。
クロは「きゅぅ……」とやっぱり合わせてくるし、フェレスは何も考えずに「にゃっ!」と返事だけはいい。
そして、操縦していたサナエルはといえば――。
「お前ら、マジでほどほどにな? 頼むから無茶するなよ」
と、オスカリウス家の竜騎士とは思えない弱々しい言葉を口にしたのだった。
会場に降り立つとキリクたちがやってきた。一番遠くまで行ったサナエルの報告が聞きたいのだ。
サナエルは風属性魔法でさっと飛び降りると、ソールの世話を他の人間に任せてキリクのところへ行ってしまった。
シウたちは少しだけ休憩させてもらう。そんな余裕があるのは、思ったより切羽詰まっていないからだ。浜辺には騎獣隊や海獣隊が力を合わせて防波ブロックを仕掛けているし、魔法使いも動員して津波対策の壁を作っている。近くまで来ている魔獣は小型なので、シャイターンの対魔獣討伐団だけで処理できている状況だった。
問題は大型魔獣だ。これを一網打尽にするためにも、キリクを中心とした上の人間が話し合って作戦を立てる必要があった。
「早めのお昼にする? すぐに招集かかるかもしれないし」
「そうだな。乗ったまま食べるのも、スウェイに悪いもんな」
「ブランカなら一緒に食べるって言い出しそうだよ」
「そういう意味ではフェレスが一番、我慢できるね」
「そこが不思議なんだよなー。お前食いしん坊なのにな?」
ロトスがフェレスをからかうが、つーんと知らんぷりされている。ロトスがまたからかいに行くのを横目に、シウはさっさと昼の用意を始めた。
「あと、今回は海上戦になるでしょ。ちょっと対策を考えよう」
「対策?」
「シウ様、それはあたしらだけの対策ってことでいいのかい?」
「うん。僕らは自由に動いていい遊軍扱いだからね。大物狙いで沖合へ出ても問題はない。だけど、その分、デメリットもある」
「あー、足場か」
「そう。サナエルとルーナ組がどう動くかにもよるけど、結局バラバラになると思う。その場合、僕らは足場がないまま活動し続けなければならない。もちろん、いざとなれば僕の魔法が使えるけど――」
「そりゃ、本当にヤバい時だけ用だ。使うのは今じゃないぞ」
「そうだね」
シウは手を動かしながら話を続けた。
「着水しても問題ないとはいえ、水面からの再浮上には魔力がかなり必要になる。それに海は波があって湖や川とは違う。体力や魔力の消費を考えたら、やっぱり足場は必要だ。だから、浮島を作ろうと思ってるんだ」
騎獣二頭とロトスがわーわー遊び回っているのを、クロが注意しに飛んでいく。スウェイは体力温存のためか、もしくは「子供には付き合ってられん」と思っているのか、ククールスの近くで寝転んでいる。ひょっとすると、ククールスの傍にいたいのかもしれないが。
シウはチラッとスウェイや他の子たちを眺めてから、顔に「意味が分からない」と書いてあるアントレーネとククールスに話を続けた。
「《落下用安全球材》で使ってる素材を使うよ。水が入らない仕組みだからね。中に空気を入れて、ついでに強化でもしておけば簡単に破れることもない。大きな形のものを、平たく開けるように改良はしなきゃいけないけど、それは簡単にできる。射出についても《落下用安全球材》の術式を少し変えたらいいだけだ」
「おー、なんかもう、それでいいや」
「あたしは難しいことは分からないからね。シウ様がやるってんなら、従うまでさ」
「レーネ、僕、今は難しいこと言ってないからね?」
「……あっ、シウ様、そろそろ火が通ったんじゃないかい?」
わざとらしい話のすり替えに笑う。
シウは各自の皿に焼きそばとお好み焼きのセットを乗せた。二人とも笑顔になる。
そこに、匂いに釣られたロトスがやってきた。
「炭水化物+炭水化物だー!」
と叫ぶから、シウは睨みながら答えた。
「ちゃんと野菜もたっぷり入ってます!」
「へーい! あ、お前ら、もう走り回るの止めろよ。シウに怒られるぞ。ご飯だご飯!」
「にゃっ」
「ぎゃぅー」
「きゅぃ」
二頭はピタッと止まり、方向転換するや急発進だ。クロも慌てて追いかけてきた。フェレスとブランカは「ご飯に遅れたくない」一心で飛んできている。クロは二頭を追いかけて止めるつもりだったに違いない。ともあれ、三頭とも短い距離を超スピードでやってくる。
スウェイはのそりと起き上がり、ゆっくりだ。他の子たちとは大違いだった。
皆に評判の良かった昼食は、匂いのせいでオスカリウス家の人間が来たけれど、焼きそばだと知って「これなら作れる!」と帰っていった。早速自分たちの料理担当に作ってもらうらしい。せっかくなので、お好み焼きのレシピを渡したら大喜びだった。次々と戻ってきている騎士たちに披露されるだろう。
シウたちは食べ終えると少しだけ食休みを兼ねて休憩し、またソールのところへと向かった。ここで待っていれば置いて行かれる心配はない。
ほどなくしてサナエルが戻ってきた。表情がキリリと締まっていることから、作戦決行だと分かる。シウたちものんびりしていた気持ちを引き締めた。
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