460 対魔獣討伐団と哨戒班に任命
早朝、シャイターンの王都シャワネから対魔獣討伐団が到着した。
飛竜大会の会場中央に急遽作った発着場に、飛竜が次々と降り立つ。騎獣も多い。その中から一番偉そうな態度の男がキリクの前に立った。しかし、すぐに別の男が来て彼を退ける。
遠目に見ていたシウとククールスは顔を見合わせた。
「おいおい、頼むから内輪もめしてくれるなよ~」
「誰が主導権を握るかで争ってるのかな?」
「どう見てもそれだよなー。キリク様がキレないといいんだけど」
「まさか、キレないよ。だっていい大人だから――」
と言ってるそばから、キリクが大声で「うるせぇ!」と怒鳴っていた。
イェルドも止めないあたり、相手がひどかったのか、あるいは手っ取り早く主導権を握るためなのか。
シウとククールスはまた顔を見合わせ、溜息を漏らした。
大型テントの中では喧々囂々だったに違いない緊急会議が終わると、皆が集められた。シウたちはオスカリウス家の一部として取り込まれている。他に手伝いとして残っている大会出場者などは町に残った人々を守るための防衛兼、哨戒担当となった。討伐戦自体には参加しない。
命令系統の違う者が多くいても逆に足を引っ張るだけだと、特に揉めた上の人間を見てキリク側が思ったらしい。揉め事になるぐらいなら分けておこうと、割とストレートに伝えている。このあたりはイェルドが説明していた。
「すげぇな、キリク様。シャイターン側の偉そうな奴が顔真っ赤だぞ」
「よっぽどキリクを怒らせたんだよ。僕らは知らぬ存ぜぬで動けばいいって」
「だよなー。俺も面倒なのはパス-」
シウとククールスが話しているとロトスが入り込んできた。更にアントレーネも、
「あたしは自由に動けたらそれでいいよ」
と言い出す。
「レーナやる気あんなー」
「海の魔獣は初めてだからね。ワクワクするよ」
「えぇぇぇ。俺はやだな。だってタコとかイカって小さいから見てられるんだぜ。小さいくせに吸盤の力すごくてさ。あれの大きいのなんてキモいだけだよ」
「そりゃそうかもしれないけど。ああ、だけど、食いごたえがあるんじゃないかい?」
「レーネってば食い気ばっかりだよな!」
「ここは平和だなぁ……」
とはククールスだ。確かに、今後の行動について語られているのに誰も聞いてないし、食べ物の話になってる。シウだけはパーティーのリーダーとしてしっかりしようと、対魔獣討伐団の指揮を担う隊長の話を真面目に聞いた。彼が一応、全体指揮を執るらしい。
対魔獣討伐団には指揮管理隊、飛竜隊、騎獣隊と海獣隊などがあるそうだ。上空からの大型攻撃は主に飛竜隊と魔法使いが行い、騎獣隊と海獣隊が殲滅戦および怪我をした者の救助などに携わる。
だからか、飛竜隊の隊長が偉ぶっているそうだ。事情を知らないシャイターンの大会委員がこっそり聞き出しているのがシウの耳にも入った。
それはそうと、シウたちだ。
「(シウ、こっちへ来てくれ)」
呼ばれて向かうと、鎧姿のキリクが座って待っていた。
「お前、斥候やれるよな?」
「はい」
「目が良かったからな。索敵範囲も広い。悪いが、うちのと一緒に飛んでくれ」
「はい。ククールスたちも?」
「その方がいいな。お目付役が必要だ」
「……うん?」
「お前のお目付役だ。なに、ソールならお前ら全員乗せても最速で飛べる。ただし、落とす可能性はあるが、そこは大丈夫だろう?」
何やら言われた気はするが、シウは質問にちゃんと答えた。
「うちは全員、高所からの落下耐性はあります。湖での訓練も行っているので落水に関しては多少免疫もありますが、ただ――」
「ただ、なんだ?」
「海は別物ですから。そちらも気を付けてください」
「波があるからな。海水を飲むのもよくない。《落下用安全球材》も持たせちゃいるが、そのうち浸水もするだろうしな。すぐに解除して待機か。念のため居場所を知らせるための笛を常備させておこう」
魔獣スタンピードに慣れているオスカリウス家では防衛救助に関する対策を十全に講じている。
シウの心配は無用のようだった。
「では、ソールに乗って哨戒と、できれば魔獣の種類や数の詳細も欲しい。倒すのは構わないが散けないようにしてくれると助かる」
「スタンピードに流れが付いているなら下手に手出しはしない。それでいいかな?」
「十分だ」
ついでに操者の交代要員としても頼むと言われ、頷いた。ソールに乗るのはサナエルだ。彼が一番乗り慣れているらしい。決まった相手のいないソールだったが、そろそろメイン操者はサナエルで決定になりそうだ。
もっとも、オスカリウス家では交代要員が必要な長期飛行が多いため、サブやサブサブまで操者がいる。ほぼ、誰が乗っても問題ないように調整しているそうだ。
たとえばアドリアンの場合、ケラソスは彼以外の操者を許さないという。
それも飛竜の能力を上げる上では大切な要素になる。どちらがいいかは、目指すものの違いだろう。
ちなみに、ルーナは飛竜の中でもダントツにヤキモチ焼きだ。一応、他の操者を受け入れるが、キリクが他の飛竜に乗るとものすごく怒るらしい。機嫌を取るのが大変だと、キリクがよくぼやいている。
シウたちは早速、サナエルのところに行った。
専用の階段や梯子などはない。屋敷にある飛竜用の発着場ならいざしらず、一々用意されるのを待つのもまどろっこしい。他の騎士らも、身体強化で飛び乗る者もいれば、風属性魔法を使って飛び上がる者もいる。
サナエルも風属性魔法のレベルが高く、ソールの前脚や胴体に足を着きながらポンポンと飛び乗っていた。
シウにはフェレスたちといった騎獣がいる。だから乗り降りも問題ない。
「飛竜一頭につき、騎獣一頭いるといいかもなー」
とはサナエルだ。羨ましそうな顔でフェレスとブランカ、スウェイを見る。
「騎獣隊と合同で乗ったらどうです?」
「そういう作戦の時もあったけどな。奴等、自由に動き回るから結局、乗り降りに使えないんだ」
笑いながらソールの肩に立ち、手綱を申し訳程度に握って振り返る。
「全員乗ったな? 出発するぞー」
気楽な合図で、サナエルはソールを発進させた。キリクもそうだが、オスカリウス家の飛竜隊はいつもこうだ。専用の騎乗席に座ることなく、のんびりした様子で操る。
飛び上がっていくソールからは地上にいる飛竜の様子が見えた。
「あそこ、尻尾から駆け上がって乗るんだな」
ククールスが思わずといった風に呟くと、サナエルが振り返って笑った。
「あー、あいつ、風属性ないんだよ。だから最初どうやって乗るか試行錯誤してな。最終的にすごい技を開発したんだけどさ。体を咥えさせて飛ばすって方法だ。でも一度、目測を誤って背中を通り過ぎて地面に落ちたからな~」
「は?」
「それ以来、禁止になったんだ」
ククールスだけでなく、聞いていたシウたち全員が唖然とした。
「いや、そういう問題か?」
呟いたククールスの声は聞こえなかったようで、サナエルは更に笑って続けた。
「尻尾から乗るのは、昔いた竜騎士が編み出した技だ。他にもあるぞ。手綱を垂らしておいて、それを持ったら飛竜に頭を振り回してもらって持ち上げてもらう方法だ。みんな工夫してるのさ」
年に一、二度の魔獣スタンピードが発生するオスカリウス領は、スクランブル発進が必須だ。とはいえ、随分と乱暴である。
何か良い方法はないのかと考えたシウだったが、すぐに諦めた。次々と飛竜に乗っている飛竜隊を見ると、誰も苦労とは思っていない。むしろやる気満々で乗り込み、我先にと発進させている。
結局、そういう苦労自体も飛竜乗りは楽しんでいるのだろう。
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3月23日に「魔法使いで引きこもり?」コミカライズ版5巻が発売されます
表紙がとても素敵で、シウの前世である愁太郎の赤ちゃんが…(泣けてくるぐらい可愛いのです
本当に素敵な終わり方になってますのでご覧になってみてください~
魔法使いで引きこもり? 05 ~モフモフと学ぶ魔法学校生活~
著:YUI先生
ISBN-13 : 978-4046803030
よろしくお願いします!!
更に3月30日には、
魔法使いで引きこもり?9 ~モフモフと謳歌する友との休暇~
イラスト:戸部淑先生
ISBN-13 : 978-4047365384
こちらが発売予定です
今巻も書き下ろし番外編があります
ククールス視点です(ちょっと暗いんですけども、どうしてもここで出しておきたくて)
相変わらず分厚くてみっちりしてますが、よろしければこちらもお願いいたします♥
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