459 待機の間の連絡
飛竜大会に出場していたチームのうち、協力したいと申し出るものもいた。が、基本的には帰路に就くよう促された。
レースと実際の討伐戦は違う。足手まといだとハッキリ告げたわけではないが、嘆願に来た若い騎士たちに「国や上からの許可を取ってからだ」とキリクは厳しい表情で告げていた。
ここでキリクに頼む自体がおかしいのだけれど、血気盛んな若者たちは分かっていないようだった。順序を間違えてはいけない。
また、受け入れを決めるのは、あくまでもシャイターン国である。スタンピードはシャイターンで起こっているからだ。
シウは会場の整地を行い、シャイターン側の大会委員たちと共にテントを張るなど野営の準備に走り回った。待っているだけでは暇だったのだ。
すぐに日が落ち、食事の準備も始める。シウが竈を作って調理を始めるものだから、慣れているオスカリウス家の人々は喜んだ。
シャイターン側の人々は目を丸くしていた。準備がいいとも思っただろうし、シウが平然として笑っているのが不思議なのだろう。ともかく、腹が減っては戦はできぬ。数少ない残った協力者やシャイターン関係者などにも料理を振る舞った。
通信はひっきりなしに飛び交っている。そろそろ混線しそうなほどだ。しかし、ロトスには《超高性能通信》を渡している。おかげで、ちゃんとシウに届いた。
「(無事、王都に避難が済んだー。んで、カスパル様はシャイターンにいても仕方ないし帰るってさ。アドリアンおーじが乗せてくれるって言ってる。で、俺はどうするー?)」
「(ロトスはこっちに戻ってきてほしい。あとレーネも)」
「(お?)」
「(カスパルや子供たちがシュタイバーンに戻るなら安心だし、アドリアン様なら問題ないからね。アレクサンドラ殿下と一緒なら無茶もしないでしょ)」
「(ははっ、そうだな)」
「(ロトスとレーネは希少獣組を連れてこっちに来て)」
「(クロとブランカは分かるけど、ジルもいいのか?)」
「(……レオンに任せてもいいか)」
「(てことはレオンは帰すんだな?)」
わざわざ確認したのは、ロトスの近くにレオンがいるからだろう。
「(うん。レオンだけなら連れて行ってもいいと思ったんだけどね)」
「(そうだなー。エアスト連れのレオンが一緒だと、やっぱまずいか)」
「(動き回る頃だしね。止めておこう。特に今回は海だから)」
「(だってよ、レオン。よし。シウ、レオンも納得してるわ。ジルも引き受けるってよ)」
「(ありがとう)」
ロトスは「いいってことよ!」と明るく返事をして通信を切った。
彼がいて良かった。明るい性格というのは場を和ませる。シウはホッとした。
「シウ、レーネたちをこっちに来させるのか?」
聞いていたククールスが少し心配そうだ。けれど、カスパルたちが安全になるのなら、彼等を遊ばせておくのは勿体無い。それに。
「海の魔獣討伐なんて滅多に経験できないからね」
「そりゃそうだ。レオンは残念だけど、まあ仕方ないわな」
そう言ってシウの頭を撫でると、スウェイのところへと戻っていった。彼等ももうテントを張っている。明日に備えて早々と休む段取りだ。
夜の見張り当番を外れたシウも、ロトスらが到着するのを待って寝るつもりである。
イェルドからは「明日早朝に全体会議を行い、昼頃に討伐戦が始まるだろう」と聞いていた。明日は忙しくなる。
町はまだざわめいており、避難が終わっていないようだ。
ロワルの魔法学校で学んだことを、ふと思い出す。人々のスタンピードが起こった場合にどうするか、問われたものだ。
当時は賢しげに答えたけれど、結局は机上の空論だったと知る。シウには今も答えが分からない。
その場その場で考えていくしかないのだろう。
「にゃ」
「あれ、まだ起きてたの?」
「にゃぅ」
「一緒に寝たいの? でももうちょっとかかるんだ。クロやブランカを待っているからね」
「にゃ」
「ロトスとレーネも戻ってくるよ」
「にゃ!」
「待ってるんだ? 明日ちゃんと起きられるのかなあ」
心配になったけれど、フェレスは仲間の名前を聞いて眠気が飛んだらしい。爛々と輝く瞳で空を見上げる。
「飛竜が飛んでるね。軍属じゃないのも交ざってるから、飛行ルートを取るのが大変そうだ」
明日はもっと混乱するだろう。統率できる人がいないと厳しい。
ほんの少し不安に思ったが、大丈夫。何故なら飛竜での戦いを知り尽くした男、キリクがいるからだ。
夜半に合流したロトスは眠い目を擦りながら早朝起き出してきた。
アントレーネは元気だった。呼び戻されて嬉しいらしい。ニコニコと朝から尻尾を振っている。一緒にブランカも跳ね回っている。朝から何も考えずに体力を使うのがブランカだ。クロが一生懸命に宥めている。
フェレスは案の定眠そうだった。不機嫌そうに顔を顰めている。ロトスも同じようなもので、ふたりとも無言だった。
「おうおう、すごい顔して。まだ会議終わってないらしいからいいけど、動くとなったら即行動が基本だぞ。気を付けろよ?」
「へーい、兄貴」
「ま、体力温存もせずに飛び回ってるブランカよりはマシか。スウェイを見ろよ。落ち着いて偉いぞ」
「あれは温存じゃなくて、爺くさいって言うんだ」
ロトスの言葉はスウェイにも届いたらしく、彼は薄目を開けてロトスを見た。が、すぐに目を瞑った。相手は聖獣だし、ロトスに言い返しても倍になって返ってくると知っているからだ。諦めの境地だろうか。なんとなく不憫に思ったシウである。
ともかく、シウはそんな皆を眺めながら朝の支度だ。
もちろん料理を作っている。
行儀良く並ぶオスカリウス家の騎士以外にも、チラホラとシャイターン関係者が交ざっていて面白い。
デジレはキリクとイェルドの分を受け取ると挨拶だけしてテントに戻っていった。
上司たちは仮眠だけで、ずっと打ち合わせを続けているらしい。後ほど差し入れとしてポーションを届けよう。シウは脳内で計画を立てながら忙しなく手を動かした。
朝、シウがレオンに通信すると、彼は落ち込んだ様子もなくサバサバと状況を報告してくれた。
「(エアストがまた興奮してるけど、そのおかげでジルも楽しそうにしてるよ。朝はちょっと寂しがってたけどな。でも動き回ってうるさい赤ん坊が三人もいるんだ。そのうち慣れるだろ)」
「(ありがとう。レーネをこっちに戻したけど、アドリアン殿下が一緒なら護衛は気にしなくていいからね)」
「(ああ、カスパル様からもそう言われてる。俺が気にするのはジルとエアストのことだけだって。任せておけ。ちゃんと守る)」
「(うん。ところで、レオンはロワルに着いたらどうするの?)」
「(カスパル様が呼んでくれてるから、そっちで待ってる。ジルを養護施設に連れていったら揉みくちゃにされてしまうからな)」
「(あはは。じゃあ、頼むね)」
「(おう)」
気負いなく返ってくる声に、シウは安心した。冒険者がパーティーで行動する場合、こんな場面がよくあるという。力が足りずに町で待機させられ、他の仲間だけで森へ入るといったパターンだ。若い者ほど、それが耐えられない。受け入れられなかった者の末路については爺様から散々聞かされたシウだ。
レオンが冷静で良かったと思う。また、彼が冒険者としてすでに一人前であると知って、シウは自然と微笑んでいた。
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