409 飛竜のスクランブル発進と騎獣あれこれ




 アグリコラとの会話中、ロトスは静かだった。ジルヴァーと一緒に遊んでくれるため助かったが、つまらなかったのではないかと少し反省したシウである。

 店を出て、そうしたことを伝えたが、

「いやー、生産オタク同士の会話だなって思って」

 などと言われて終わった。


 その後、領都内の店を見て回り買い物を済ませた。

 地下迷宮二つを抱え、定期的に起こる黒の森からの魔獣スタンピードで、領都は潤っている。たくさんの素材が集まり、物流もスムーズだ。

「飛竜の数が桁違いだよなー」

「多いよね。飛行コースも決められているらしいよ」

「マジか。でも飛行機だと思えば、そりゃそうだよなー」

「竜騎士のルートと商業ルートも違うらしいし、スタンピード発生時には緊急ルートもあるんだって」

「へぇぇ」

 緊急事態のレベルが最高値でなければ、商業用の飛竜の飛行は許されている。商業、つまり物流が止まってしまうことが領にとって良くない。そのため普段からルートを決めて飛ぶ、ということに慣れさせているそうだ。

「だから、他領からの飛竜乗り入れには気を遣うらしいよ」

「どうやるんだ?」

「単純に領の境界線を見張るっていう方法だね。竜騎士の新人が最初に就く仕事なんだってさ。前に教えてもらったんだけど、スクランブル発進が多いから最初は辛いとか言ってた」

 何故そんなことをさせるのか。急に発生する魔獣スタンピードに慣れさせるためだ。

 新人をいきなりスタンピードの直中には放り込めない。それだけストレスが重大だからだ。

「飛竜に関することは一歩も二歩もオスカリウス領が進んでいるって聞くけど、それだけ苦労してきたからなんだろうね」

「俺だったら無理だなー。あの人さ、十代の頃にアルウスを制覇したんだろ? すげえよな」

「いろいろあったらしいね。ロトスの好きそうな英雄物語じゃない? ほら、チートだっけ」

「……くそー」

「え、なんで、そこで『くそ』なの」

「おやじのくせに、って思って」

「でもハーレムはやってないよ。アマリアさんと仲が良いしね」

「それな! いや、マジであれはないわ。あんな美女が奥さんとか」

 ロトスが壊れ始めたので、シウは話題を変えることにした。


 夏休みのことだ。今は初夏の休みだが、真夏は一月まるごと休みとなる。

「今年はシャイターン国で飛竜大会があるんだけど、行くよね?」

「行く行くー」

「闘技大会はどうしよう。最近は少し政情も落ち着いてきているし、行く?」

 その代わり、スケジュールがタイトになる。でもシウの場合いつものことだ。毎回、なにがしかあって動いている。

「んー、俺は行ってみたいかなー。一度ぐらいは見たい」

「じゃあ、そういう予定でね」

 その流れで思い出したため、更に秋の予定を口にした。

「秋に魔法競技大会がルシエラ王都であって、その後にアルウェウス地下迷宮のお披露目があるんだけど――」

「行く、絶対。お祭り騒ぎだろ。楽しいに違いない」

「分かった」

 話しながら街を歩いて回り、有名なガラス板も手に入れて屋敷まで戻った。




 キリクにも飛竜大会と闘技大会へ行くことを告げ、シウたちはスヴェンの手を借りて転移門を抜けた。

 が、そのままだとカスパルの屋敷の地下へ出てしまう。途中で干渉して、シウはイグの住処へと《転移》した。

 ちょうどいい時間で、フェレスたちも戻ってくるところだった。楽しかったらしく、ボロボロの姿だ。フェレスは綺麗だったから浄化の魔法が作用したところなのだろう。

 イグには子守兼バルバルスの魔法を見てくれていたお礼を言って、ルシエラ王都の外壁近くの森まで《転移》で帰る。


 門を通る時に、これまた上手くアントレーネとククールスの二人と合流できた。

 二人にも今後の話をすると、それぞれ一緒に行くとのことだった。

「あたしはそれまでにランク上げを頑張るよ。今日あたり五級に上がるんだ」

「それはすごいね。僕がこの間四級になったところだから、そろそろ追いつかれそう」

「嘘だろ、シウ。お前もう四級なのか? 俺の三級が霞むじゃねえか」

 ククールスが慌てた声で言う。三級より上へ行くのは大変だ。いや、そもそも五級から上がるというのがとても厳しい。

 シウがサクッと上がったのは、冒険者ギルド会員の義務の一つ「お金にならない見回り仕事」をよく引き受けたからに他ならない。特に隊商を助けた功績などが大きかった。しかも死者を出さなかったというのはポイントが高い。それだけでなく、街道の魔獣討伐も多く行っている。こうしたことが評価に繋がった。

 しかし、この話をしているとロトスが落ち込んできた。

「俺まだ八級だ……」

「ロトスは最近バルバルス付きだったし、パーティーでの依頼を受けてないから」

 仕方ないよと慰めたが、アントレーネに大きく離されたのは悔しいようだ。

「俺も平日、レーネたちと一緒に仕事受ける!」

「それはいいね」

「おう。ついでにブランカもこっち参加しろよ。スウェイがまだ二人乗せるのに慣れてないんだ」

「今日もあたしを落っことしそうになったからね!」

 アントレーネは落ちそうになったことを豪快に笑い飛ばしているが、話題になったスウェイは尻尾が弱々しく落ちた。ショックらしい。

 そんなスウェイを見て、ブランカが鼻をひくひくさせた。

「ぎゃう! ぎゃうぎゃう!!」

「ぐぎゃ、ぎゃ」

 何やら、子分に教えてあげてもいい、というような上から目線のことを告げている。彼女のその謎の強気はどこからくるのか分からないが、仲良くなろうとしているのならいいかと口を挟むのは止めた。

 フェレスも何か言いかけたが、シウは慌てて引っ張った。

「あっちはあっち。フェレスはこっち」

「にゃ」

 フェレスはすぐシウの方に興味を移した。

 クロはブランカのところへ飛んでいき、途中で何度か口を挟んでいる。ブランカが妙なことをしでかさないよう見張ってくれるらしい。時折シウを振り返っては確認しているのが面白い。

 希少獣はどの子もみんな可愛くておかしくて面白い存在だ。シウはスウェイを含めて、彼等の楽しい会話を聞きながら門を通った。


 希少獣といえば、レオンのエアストももう乳飲み子ではない。そろそろ生まれて四月になるため、かなりしっかりしてきた。顔付きも赤ちゃんではなくなった。生まれてすぐは小さな柴犬のようだったエアストだったが、ほんの少し凜々しくなっている。

 このまま育てばフェンリルらしい、狼のような精悍さが出てくるのだろう。今はまだ柴犬のような見た目だ。シウとロトスの間では「豆柴」ということで意見が一致していた。

 エアストはとにかく尻尾が可愛い。赤ちゃんの頃はふんわりと上がっていた尻尾が、徐々に丸まっていったのだ。今ではクルンと丸まっている。

 尻尾は変化があるらしいから、そのままなのか、それとも垂れ尻尾になるのか。今から楽しみだ。

 レオンは尻尾のことは気にしていない。彼はそれより、耳が折れているのが心配だと騒いだことがある。

 幼獣のうちはあることだと(大量の騎獣に関する専門書を読んだ上で)告げたのだが、評判の良い調教師を探して聞きに行くなどしていた。もちろん学校の先生にもだ。

 結果は同じ。全く問題ありませんと言われて、すごすご帰ってきた。


 とにかく、エアストも十分に大きくなった。

 翌日はパーティーで一度森へ行ってみようと話しているため、エアストもデビューだ。

 幼獣のためしばらくはフェレスやブランカに乗せておくが、森歩きもやらせるつもりだった。

 ロトスがまた、

「シウのスパルタ教育が始まるー」

 などと言うため、改めて騎獣子育て教本を読み直したシウである。

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