410 街道沿いで依頼仕事と不届き者




 朝からエアストは興奮しっぱなしだった。お出掛けが分かるらしい。まだ厳しい躾をする必要はないが、そろそろ教えていく段階ではある。レオンが一生懸命、宥めていた。

 冒険者ギルドに幼獣を連れていくと大人気だ。レオンとエアストは大勢の冒険者に囲まれ、羨ましがられていた。

 なんとか抜け出して、レオンとロトスで依頼を吟味し取ってくる。

 アントレーネもククールスも待っているだけだ。ククールスは一流冒険者だし、アントレーネももう五級だから依頼を選別するのは分かっている。彼女は字も覚え、書く方も上手になってきた。自分の子供に簡単な文字ぐらいは教えてあげたいと、夜の間に勉強もしている。


 パーティーで下っ端となる二人が選んだのは常時依頼の薬草採取と、シアーナ街道沿いにある村からの依頼だった。村の位置によってはシウたちのパーティーが受けない方がいいものもあるが、見るとミセリコルディアの森に近い。これなら移動に時間がかかるため、騎獣を持つシウたちのパーティー案件だ。

「それと、クラルさんからの伝言が……っと、エアスト静かにな」

「あー、ミセリコルディア付近の街道周辺を見回ってほしいんだってさ」

 レオンの後を引き継いでロトスが話す。エアストがまとわりついてレオンが困っていたからだ。そうしたことに目ざとく気付けるのもロトスの良いところだった。

 シウは頷き、それから首を傾げた。

「この時期は冒険者が多いから、いつもの見回りは必要ないと思ってたんだけど。理由は聞いてる?」

「聞いた。その冒険者が問題なんだってさー。なんか、流れの冒険者が増えたんだけど、マナーが悪いらしい」

 ロトスが肩を竦める。シウが「マナー?」と復唱すると、レオンが続けた。

「狩りの仕方が荒いと言ってた。それって、埋めたり燃やしたりしないってことか?」

 詳細は聞かなかったらしく、自分で言いながら首を傾げている。

 シウも不思議に思うが、とりあえず向かおうと皆に声を掛けた。

「現地へ行けば分かるよ。とにかく出発しよう」


 王都門を出ると早速フェレスたちに分乗して飛んだ。

 近場の森には顔見知りの低級ランクの冒険者が集まっている。温度が上がってきて魔獣も活発になってきたようだ。獣も多く増えるため、害獣討伐も行っている。

 街道を見下ろしながらミセリコルディアの森近くまで飛ばし、村を見付けて下りた。

 村の依頼は、近隣で増えてきたカニスアウレス対策についてだった。ジャッカルに似た魔獣カニスアウレスは草原に多い。街道沿いの小さな森を背に集落は作られているが、ここに巣を作られては困るということで柵を建てていた。ところが、最近、柵の下を潜ろうとしてか穴が掘られていたようだ。

「この森は村人で管理しているから魔獣は発生しとらん。大事な恵みでもあるので、なんとか守りたいんじゃ」

「分かりました。匂いを追ってみましょう。ついでに、この辺りを見回って魔獣を見付けたら討伐します。柵の補強はいいですか?」

 シウが聞いてみると、村長は困った顔で見返す。

 するとククールスが横から助け船を出してくれた。

「依頼料を多く取られるんじゃないかって不安なんだろう」

「あ、そうか」

 聞こえていた村長が恥ずかしそうに頭を下げる。

「こうした依頼料の半分は国が出してくれるもんじゃが、それでも残り半分がわしらには辛いのでな」

「余分にいただくことはないですよ。柵は、うちの若手の練習のためです。他の冒険者が申し出た場合はちゃんと話し合ってください。折り合わないこともあるでしょうし、なんでも唯々諾々になることはありません」

「あ、ああ」

「シウ、シウ。もっと平易に話せ」

「あ、えっと、うん」

「俺が代わりに説明しておくわ。お前はフェレスたちとカニスアウレスを追ってくれ」

「分かった」

 後はククールスに任せ、シウとアントレーネで周辺を見回ることにした。


 柵の補強についてはまだ分からないが、念のため先に見回りをする。レオンとロトスも一緒に付いてきて、シウとアントレーネのやることを見ていた。

「シウ様、ここ。確かに掘り起こした跡があるね。村人が埋め戻したんだろうが、甘い」

「そうだね。柵の作りも弱いなあ」

「補強が必要だよ、これは」

「うん。とりあえず、匂いを追おうか。フェレス、ブランカ、お願い」

「にゃっ!」

「ぎゃぅ!」

 二頭とも張り切って匂いを嗅ぎ始めた。そこにエアストも交ざる。彼も一生懸命匂いを嗅いでいる。

「……可愛いなあ」

「シウ様は本当に希少獣が好きなんだねぇ」

「だって。ほら、あの尻尾とか」

「あたしには尻尾の良さは分からないから、なんとも」

 などと無駄話をしている間に、フェレスとブランカが顔を上げた。同じ方向を見ている。

「あっちに去った?」

「にゃ」

「じゃ、追いかけて」

「にゃっ!」

 フェレスを先頭に、ブランカも走り出した。走ると言っても人間が追える程度にだ。彼等にとっては並足程度だろう。エアストは追いつかずに遅れていくが、途中でレオンが抱き上げた。

 クロはブランカの上から飛び立って、上空で大きく回転している。

 少しして、クロが連絡してきた。

「(きゅぃきゅぃ!)」

 見付けたようだ。シウはフェレスとブランカにも伝えた。二頭はスピードを上げて、カニスアウレスの群れへと向かった。


 群れといっても、まだ十頭未満の小さなものだった。穴を掘って巣にしている。大きな群れになるには、もう少し安全な巣が必要だったのだろう。だから小さな森のある村を狙った。

 草原で狩りをする彼等だが、巣は岩場や森などの隠れられる場所が好きなようだ。

 この数だから、あっという間にフェレスたちで片付いた。

「ふたりとも、お疲れ様。ありがとう。クロはこのまま周辺を警戒飛行して、他の群れがいないか探してみて」

「きゅぃ」

「フェレスとブランカも引き続き、探索をお願い」

「にゃ!」

「ぎゃぅ」

「アントレーネは――」

「飛行板で探すよ。草原なら、その方がいいだろうからね」

「うん」

 残りは、倒したカニスアウレスの処分だ。

 ロトスもレオンもナイフを取り出していた。

「じゃ、討伐部位と魔核を取ってね。残りは燃やそう。エアスト、こっちへおいで」

 解体の邪魔になってはいけないので、エアストを呼ぶ。魔獣が気になってしようがないエアストには、シウに背負われていたジルヴァーが相手だ。

「きゃん」

「ぷぎゅ」

 二頭は生まれた時から一緒にいるため、仲良しだ。すぐにコロコロと転がって遊び始めた。


 シウはその間《感覚転移》で周辺を細かく探索した。

 すると、街道からさほど離れていない場所で魔獣の死骸を発見した。

「ああ、これのことか……」

 カニスアウレスの死骸だ。燃やすでも埋めるでもなく、捨て置かれている。

 隊商のような大きな馬車の御者なら、見える場所にあった。これは外聞が悪い。ルシエラ王都の冒険者ギルド会員は始末もきちんとしないのかと思われてしまうからだ。

 シアーナ街道はラトリシア国とシアン国を繋ぐ大きな道である。物資輸送の要でもあり、商人だけでなく王侯貴族も使う主要道だ。その道沿いで、これはない。

 シウはロトスとレオンを置いて、飛行板で移動した。

 現場に到着すると、腐敗のひどい死骸を《空間壁》で囲って高温で燃やす。煙も出ないので誰かに見られることもない。

 ついでだからと、街道沿いを《感覚転移》で見ていく。

 すぐ近くには見当たらなかったが、街道から一キロメートルほど離れたところにも魔獣の死骸を見付けた。それも処分だ。

 どちらの現場でも、シウが作った魔道具の《念写機》で写真を撮っておいた。証拠として残し、報告書に添付すると分かりやすいだろうと思ってのことだ。




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