389 魔法訓練、古代の魔術式
午後はアクセサリー作りに没頭した。
以前作っていたものは実用的でなかったため、新たに常に付けておけるもの+魔力の流用目的として作る。
当然、高魔力を溜めておける高濃度水晶を使う。
光る素材だが目立つことは避けたい。そのため、水晶竜の内側の皮を使って囲むことにした。他の素材では、囲んでしまうと阻害されそうだったからだ。むき出しにしていれば違っただろうが光り輝くので仕方ない。
パッと見ただけでは革製品のようなチャームにした。
「フェレスは猫の形で、ブランカが鳥の形――」
各自の好みを聞いてみると返ってきたのがこれだ。クロはエールーカがいいらしい。ジルヴァーは使えないが、お揃いとしてハート型のものを作った。
ロトスは最初、ドラゴンがいいと言っていたが、シウの力量的に無理だと分かるとデフォルメ絵というのを描いてくれた。そのまま形になるよう切り抜く。それでも問題なく高濃度水晶は包める。
この日は他にもリムスラーナの素材であれこれ作り、生産を楽しんだ。
シウ以外は滑り台で遊んだり、森へ行って飛行訓練をしたりと自由に過ごした。
翌日は魔法の訓練のため、イグの別の住処だったところへと《転移》した。
シウが植物を育てようとしたところだが、見てみるとハッキリ分かるほど育っている。
「良かった。大きくなってる」
「植えたやつか?」
ロトスも一緒になって、見る。辺り一面、緑色の絨毯となった場所を。
「草原とまではいかないけど、結構いい感じに緑だね」
「おー、だな」
イグも感心した風で、ひょいひょいと草の間を駆け回っている。
「ここで魔法の訓練はできないなあ」
([ならば、岩場の方へ行くか。魔獣も多く住んでおる])
ということで、そちらに移動する。
ロトスもやる気になったらしく、訓練は一緒だ。
フェレスたちはイグを監督にして遊びに行く。いや、訓練だ。
「遊びって言っておくと大体楽しそうにやるから」
([まだまだ子供か。やれ、わしもそれとなく誘導してやるか])
「よろしくね」
([承ろう])
偉そうに答えて、イグはフェレスの上に飛び乗った。ブランカの上にはジルヴァーだ。今回は騎乗帯を取り付けている。アントレーネの子供たちに使ったのと同じ、赤ちゃん用の入れ物付きだ。そこにジルヴァーを座らせていた。
これからシウの本気の訓練を行う。まだ赤ちゃんのジルヴァーは傍にいない方がいい。彼女も分かっているのか、素直にブランカに乗せられていた。楽しそうなのは、クロが上手にあやしているのもある。
皆のことはイグに任せた。
シウとロトスはそれぞれ離れて、訓練だ。
ロトスは「修行だー!」と騒いでいたものの、離れてからは真面目に何やら取り組んでいる。
チラッと見たら、尻尾が高速で動いていた。ちょっと笑ってしまったシウだ。
今回は実際に魔法を使わずに、魔力を通す道を意識しながら太くしたり細くしたりに集中した。いわゆる、不発に終わらせる形だ。
そうはいっても魔力の移動だから、何が起こるか分からない。
慎重に魔力を扱う。
シウは目を瞑り、魔力庫から取り出した魔素が体を巡るのを感じた。
明確に感じ取りながら徐々に魔法へと変えていく。
ここが大規模魔法を使っても問題ない場所とはいえ、念のため「一人訓練方法」を編み出そうと思案した。
「……多重展開だと魔力を食うかな」
空間魔法を使って、一センチメートル刻みで《空間壁》を作り出す。王城ほどの大きさから少しずつ小さくなっていく空間壁が一気に出来上った。一番内側にはシウがいる。
空間壁に色を付けてみたところ、幾何学的な様子が美しくて面白い。
でも、じっくり見ていると、なんとなく気持ち悪いかもしれないと思い始めた。四角にしたことで内側に迫ってくるような感じなのだ。圧迫感がすごい。
シウは気を取り直して、再度魔法を多重展開させた。
今度は丸い空間壁をあちこちに展開させる。小さなものから大きなものまで色付きにしてみた。
「うーん、これはこれで変だ」
もっと細かくしてみようか、などと考えてからハッと我に返った。
「そうだ。いざという時の技を編み出すんだった」
アポストルスだけが脅威ではない。
いつ、魔人族が襲ってくるか分からないのだ。今の魔人族に他の大陸へ侵略する力がないとしても、一部の強力な能力を持った者が一人でもいれば魔力渦の嵐の荒海は超えられる。
古代竜に「魔法の勉強をしておけ」と言わしめる力があるのだ。
シウは魔力を大量に使う技はないかと、脳内の記録庫を頼りに考え始めた。
古代帝国時代の人々は潤沢にある魔力を気軽に使っていた。
魔獣は大型で、当然ながら魔核も大きい。それらを贅沢に使った魔道具が一般庶民にも広く使われていた。ほとんどの人の魔力は豊富で、彼等は自身の魔力を使って魔道具を起動させていた。本人認証とセキュリティを兼ねたものだった。今で言う「使用者権限」の役割だ。認証セキュリティの方が、もう少し高度な仕組みになっている。シウの使用者権限の魔法も、それを模していた。
過去のそうした魔道具を解析するたびに思うことだが、魔術式は複雑で高等なものだった。その分、余計なものも多い。
シウは過去の魔術式が無駄だと考えているわけではない。時代というベースがあるからこそ出来上がったものだ。
今は、そのベースである魔力がない。人々の平均魔力量は二十だ。古代帝国時代と比べて極端に低い。魔核も小さく、それを使った魔道具は頼りない。
魔石も過去ほどに多いとは言えなかった。資源は確実に減っているのだ。
それを踏まえた作り直しが必要だった。
古代帝国時代ならば、複雑に考えた魔術式でもそのまま使えた。
そうか、と気付く。
シウは「そのままの魔法」を使ってみることにした。
「《[滅びの鉄槌]》」
目の前の岩に向かって、魔術式を展開した。
古代帝国時代の魔術式は大きくて美しい。式の確認も兼ねて「魔術式を顕現」させてみたが、幾何学模様にも見える古代語が光って見える。
それは一瞬のことで、岩は押し潰されて消えた。
「範囲の指定を込めたけど誤差があるなあ。やっぱり古代の魔術式は豪快だ」
辺り一面の岩々が消えている。
シウから離れて魔法の訓練をしていたロトスが、遠くで「ぎゃっ」というような変な声を上げた。
振り向くと転変して聖獣姿で駆け寄ってくる。シウの前に来るやいなや人型に転変し直す。
「今の何!? やべえ、また地形を変える気かよ!」
「えっ、違うよ」
「その前もおかしなことしてたじゃん! 怖いから離れてたのに!!」
目の前でシウを指差すものだから、慌てて説明した。あれは多重展開だっただけで、おかしな魔法ではないと。
今の魔法については古代帝国時代の大物魔法を使ったと教えた。
ロトスは「ほぇー」と呆けた後で、ニヤニヤと笑いだした。
「なんだ、シウも案外【中二病】やってるのな」
「また、それ?」
「だって、滅びの鉄槌とか! ぶふふ」
「過去の人が作った魔法だから。無詠唱でもいいけど、魔力の通り道を大きくするために『敢えて』自分が理解しやすく口頭したの。僕が考えたんじゃないから」
ロトスは「ぐふっ」と妙な笑い方で「分かった分かった」と、全く分かっていないような顔で頷いた。
それから、真面目な顔になった。
「……で、他にもあるんだろ? 吐いちまえよ」
真面目な顔をして、シウをとことんからかう気のようだった。
これがロトスなのだ。
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