388 スーパーフード畑計画とレモン戦争
イグはシウのお願いを快く受けてくれた。
崖の下、彼の住処となる場所で畑をしてもいいと言ってくれたが、そこは遠慮する。彼の家の中に自分たちの家を作ったも同然で、それ以上は申し訳がない。
([さようか。ま、わしはどちらでも構わん])
言いながら、フェレスのお腹の上でうとうとしている。フェレスはすでに寝ており、お腹が上下していた。
クロは家から地面に降りてくる際の棒に足を引っ掛けて、器用に上り下りしていた。楽しいらしい。
もしかしたら、このアスレチックのような家を一番楽しんでいるのは彼かもしれない。
そんな彼等と、眠そうなジルヴァーをフェレスのお腹の上に置いて、シウは崖の上へと向かった。
早速畑つくりだ。
ある程度の場所が欲しいため、木々を切り倒す。ただし、全部はいけない。ルフスアダンソニアの群生地をある程度模して作る。
そこは光がよく入る場所で、水はけが良かった。あまり水を必要としない種だろう。
群生地は、それまでの森の様子とは違っていた。
このあたり一帯は、山を二つ三つ越えるだけで、平気で環境が変わっている。
亜熱帯のような森があれば、草木の生えない崖ばかりの場所もある。さすがに山々の中に砂漠はなかったが、乾燥気味の森もあった。
住んでいる魔獣のせいなのか、イグの住処の周辺だけがおかしいのか。
もちろん、イグがいることで魔素が集まり、変わったことになっている可能性が一番高いのだが。
クレアーレ大陸はとにかく、今までの常識が通用しない場所だ。シウはしみじみ面白いと感じていた。
畑が出来上がり植え替えが終わると、周辺に魔獣避けの魔道具を設置した。結界を張り、入れないようにする。
畑にはルアゴコたちの集落でもらった種も植えてみた。
プルススアダンソニアの実からも種を取り出して植える。
ほんの少し促進魔法と魔素水を掛けた。
上手くいけばスーパーフードの栽培が可能だ。
シウはワクワクしてしばらく畑を眺めた。
途中、ロトスとブランカに通信を入れると、
「(場所が分かんなくなってー)」
と呑気なことを言われてしまった。
確かに、ルフスアダンソニアを探す際に転移するなどして離れた場所まで進んでしまった。そこから別れての行動だから仕方ない。
「(迎えに行くよ)」
「(頼むー)」
困ってなさそうな返事なのが幸いだ。シウは《転移》で彼等のところへ飛んだ。
ふたりはリムスラーナを大量に狩っていた。
他に、トロールもいる。
「すごいね、こんな大物を倒したんだ」
「おー、すごいだろ。褒めて褒めて」
「偉い偉い」
「……バカにしてねぇ?」
「してないって」
トロールは巨人ほど大きくないが、人間よりも二回りは大きい人型の魔獣だ。皮と魔核のみしか使えないため積極的に狩りに行く魔獣ではない。彼等は山奥の洞窟などに住んでいることが多く、人と出会う確率が低いのも理由のひとつだ。
「トロールがいるってことは洞窟があるのかな」
「俺たちが見て回った場所にはなかったけどなー」
「ぎゃぅ」
「洞窟は魔獣の住処になりやすいからね。また今度、このあたりに来る時は積極的に探してみてくれる?」
「オッケー」
「ぎゃぅー」
トロールはその場で解体し、リムスラーナはシウが魔法を使って一気に解体し終えた。
「自動化、便利だよなー」
「覚えてみる?」
「はっ!? 無理っしょ。無理に決まってんじゃん。そんなおかしな魔法、どうやって覚えんだよ」
確かに、おかしな魔法だ。神様の大盤振る舞いのおかげで固有魔法を覚えやすくなっているとはいえ。
でも同じ「神の愛し子」であるロトスも、やろうと思えばできるはずだ。
シウはそう言うのだが、ロトスは無理無理と端から覚える気がないようだった。
それに本当に欲しいと思っていないのが一番の問題だ。現状、なくても問題ないからだ。問題があるとすれば――。
「それを覚えるなら、俺の固有魔法のレベルを上げるわー」
「分身魔法、まだ上がらないの?」
ロトスは見るからに、しょんぼりしてしまった。
話を聞いていたブランカが謎の応援をする。
「ぎゃぅぎゃぅぎゃぅ!!」
「あ? もっと高速にやれって? 何をだよ」
「ぎゃぅぎゃぅぎゃぎゃぎゃぎゃー!!」
「待て。尻尾を振ったらいいって、元々九尾あるんだよ。一本が九本に見えてんじゃねぇ」
「ぎゃぅ?」
ロトスががっくり項垂れる。シウは笑って慰めた。
「まあまあ。ブランカなりの上達方法だったのかも。一度やってみたら?」
「やっぱバカにしてるだろ」
「してないって」
ほら帰るよ、と肩を叩いた。ブランカも寄り添っていたため、そのまま《転移》する。
ロトスは気付かないまま、ブランカの背に乗り上げて倒れていた。
天気も良いので昼ご飯は外でバーベキューだ。
鑑定の結果リムスラーナの肉は美味であると出た。食べない手はない。
ロトスもイグもドン引きだったけれど、シウは有無を言わさずに作ったものを出した。
一応、違うものも出していたが、ふたりは逡巡した後に目を瞑って口に含んでいた。
ちなみに作ったのは唐揚げと親子丼のようなものだ。鶏肉と同じような肉質だったので、似たようなメニューにした。
「あれ、美味いぞ」
([うむ。美味であるな])
ふたりは大丈夫だと分かると、バクバク食べ始めた。
「そうだよな。元が何かなんて気にしてたら、鳥も牛も豚も食えやしないわ」
([そうだ。わしも、かつては大蛇や大亀を食ったものよ])
「えー、イグ様、ゲテモノ食いっすか」
([ゲテモノとはなんだ。わしをなんだと思っている])
「イグ様っす」
([……さようか])
「あ、イグ様、これイケますぜ」
([うん? それはレモンか……])
「レモンを掛けると美味いんすよ」
([待て、勝手に掛けるでない。わしは酸っぱいのが好きではない!])
「えっ」
(まさかの「唐揚げにレモンは是か非か」戦争に突入!?)
念話がシウにだけ飛んできた。その後すぐに消えたが。
ロトスは本能的にイグを恐れているらしいのに、何故か口調はいつも通りだ。しかもツッコミは忘れない。彼のこういうところは素直に尊敬している。
時々びっくりすることも多いシウだが、カルチャーショックというものである。
さて、その後の唐揚げレモン問題は、レモンの美味しい食べ方へと移行したため平和のうちに終了した。
はちみつレモンの美味しさを熱く語ったロトスの粘り勝ちだった。
ところで、ロトスは元々は唐揚げにレモンは不要派だったらしい。
([それなのに、何故だ])
「魔獣を食べる世界だもん。レモン汁掛ける掛けないは些細な問題だなーって」
([なるほど])
「俺、シウに『虫も食べられるよ~』って言われて以来、食べ物については大らかでいようって決めたんだー」
([ふむ。それもそうだ。わしも、元は臭くて気持ち悪いカエルということは忘れよう])
「や、そこは言わないでほしいかなって」
イグが首を傾げ、よく分からんと屈伸している。
見ていたシウは苦笑した。なにはともあれ戦争が回避されたのなら良かった。
とりあえず、食後のデザートにレモンピールチョコとレモン入りのパウンドケーキ、レモン入り紅茶などを出すことにしたシウである。
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以前Twitterで呟いていたレモンの話、ようやく辿り着いた感あり
コミカライズ版、27日に公開予定です
ニコニコ静画→http://seiga.nicovideo.jp/comic/35332?track=list
コミックウォーカー→https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02200433010000_68/
アグリコラ回です~すごくいい感じにまとめてくださって、YUI先生しゅごいのです
憧れの人に会うのだからオシャレする、という女の子らしいエミナの様子も好き
楽しみにどうぞです!!
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