381 ポールとカエル狩り
遊具の披露は続く。
「それから、出入りするのに棒も立ててみました」
「あ?」
「ほら、【消防署】のポール」
「ああ! うっわ、あれ、やってみたかったんだよな」
「だよね!」
二人で盛り上がっているとフェレスたちが戻ってきた。小屋を見て、何かある! と騒いでいる。
シウが楽しい遊び道具だと説明すると瞳をキラキラさせている。
ブランカもそわそわ待ての状態だ。
シウは急いで作り上げた。
クロとジルヴァーのために、ロープも張った。小屋の周りぐるりと、地面までの間にネットを張る。ジルヴァーが伝って下りる用だ。ロープを張ったのはクロが止まれるように。ジルヴァーもそのうち使うだろう。
「うん、なかなかいいんじゃないかな?」
「……いいけどさ。なんか、これ【アスレチック】じゃね? いや、いいんだけどな」
一時間でできた小屋は、確かに家とは言い難いものとなっていた。
だが、誰が見るわけでもない。何よりも皆が楽しそうだ。
遊具付きの家は、シウたちの隠れ家として最高のものになった。
一通り遊具で遊ぶと、時間も時間ということで就寝した。小屋にはトカゲ姿の時のイグ部屋も作ったが、この日は久しぶりの草ベッドで寝るということで彼は外だ。
シウたちは二階部分でふかふかの布団の包まって寝た。
翌日は早めに起きて朝ご飯を済ませ、早速出掛ける。
まずはカエル狩りだ。
イグは行きたくないと言うから、ジルヴァーを預けた。
「ちょっとだけ行ってくるね。ジル、いい子にね。イグおじさんが遊んでくれるよ」
「ぷぎゅ!」
「ジルはイグおじさん好きだねえ」
「ぴゅ!」
イグも満更でもなさそうで、うむ、と偉そうな返事だ。一緒に遊んでくれるらしい。
シウたちは崖の上へ、せっかくだから作った階段を使って上った。
ロトスは、イグが頑なに行きたくないと言ったことで警戒していた。
「なあ、イグ様が嫌がるってよっぽどじゃねえの」
「面倒なんだって」
「えー」
「焼き払ったり、いろいろしたそうなんだけど、すぐ増えるって言ってた」
「げー」
崖の上へ辿り着くと、そこからはフェレスとブランカに乗っていく。クロはブランカの頭の上だ。クレアーレ大陸という場所なので先行させるのは止めた。
警戒するに越したことはないので、シウの《全方位探索》も強化している。《感覚転移》もあちこちに飛ばした。
「あ、見付けた。十キロメートルほど先だね。イグの住処を中心にして、およそ十キロメートルが限界らしい」
「俺も慣れたけど、イグ様の存在感半端ねえもの」
「ここに来れば本来の姿に戻って寝てるらしいしね」
「……そういや、後で転変するのか」
「そうだね」
ロトスはブルッと震えて、フェレスの上で自分の肩を撫でていた。
カエルの魔獣がいる場所まで近付くと、早速攻撃を受けた。
「うぎゃ! 臭ぇ! フェレス、絶対当たるなよ!」
「にゃっ、にゃにゃにゃー!」
分かってるもん、当たらないもんねー、とフェレスは余裕だ。乗っているロトスの方が焦っている。
シウは改めて数メートルもあるカエルたちを《鑑定》した。名前はリムスラーナ。ロワイエ大陸では見かけないが、古代帝国時代の書物に想像図として載っていたことがある。
元々クレアーレ大陸産だったものを、ロワイエ大陸に持ち込まれたことがあるのかもしれない。召喚すれば、連れてこれないこともない。転移よりは遥かに可能性が高い。
リムスラーナを鑑定し終わると、早速倒してしまう。《引寄》で魔核を取り出し、倒れた大きなカエルを解体する。
その間はロトスが頑張って討伐だ。ギャーギャー言いながらも、生臭い粘る泥の攻撃を避けながら倒している。雷撃の精度も上がっており、一発だ。
「こっちの魔獣は黒っぽくないんだなあ」
「ぎゃぅ?」
「あ、ブランカもあっち行っておいで。口から泥を吐き出すから気を付けて」
「ぎゃぅ!」
ブランカとクロはウキウキと行ってしまった。シウは解体しながら、詳細に《鑑定》を掛けていく。
「魔核があるし、希少獣たちが嫌がるのなら魔獣であることは間違いないんだよね」
魔獣のほとんどが黒か、黒みがかった色合いをしている。が、必ずそうとは言い切れない。黒色が多いというだけだ。
ただ、そのせいで、黒い生き物を魔獣と間違える人もいる。忌避感を持つ人もだ。
そのせいでロトスも聖獣だとは思われなかった。聖獣は白い姿をしているからだ。
ただ、希少獣のジルヴァーも黒いし、クロも変異種で嘴まで黒い。
つまり、色だけで決めつけることはできないということだ。また、魔核があるかどうかでも魔獣の区別は付けられない。たとえばパーウォーは魔獣だが、魔核がない場合もあった。
他にも、魔獣とは違って理性的な竜種だが、彼等には魔核がある。
一番良い区別の仕方は、満腹の状態でも人間や他の生物を襲うかどうかだ。
野生の獣の場合、満腹なら襲わない。
魔獣は物理的に有り得ない量を超えてでも食べようとする。また、殺さずにはいられない生き物だった。
知能の高いオーガやトイフェルアッフェなどは、殺さずに「飼う」こともできる。シウは何度もそうしたところを見てきた。彼等に同族食いの忌避はなく、同じ知能のある人間との会話や和解は存在しない。
「結局、話が通じるか通じないかの差かなあ」
言葉を尽くして話し合いに応じるかどうか。
調教魔法を使っても魔獣を従えるのは難しいという。召還魔法だとある程度力量差があっても従えられるが、相手が魔獣の場合は時間制限があった。どちらも気を抜くと、牙を剥くことがある。
魔人族は、よくもそんな魔獣を従えさせたものだと思う。
「どこで線引きするのか、か……」
魔獣との境目。生き物とは何か。人間の境目はどこにあるのか。
シウは、話し合えることだと思っているが、人によっては線引きの場所は違う。
「駆除することが本当にいいことかどうかも分からないんだよね……」
それでも倒すのは、もう本能としか言いようがない。前世でも、何万年も昔から命を繋いできた、とある生き物が忌避されていた。ほとんどの人に嫌がられ、見付けたら即殺すことが当然のようになっていた。そこに戸惑いはなかった。
あれと同じだと、シウは溜息を吐いた。妙に感傷的なのは、リムスラーナの体を鑑定したからだ。
背中にある、ぼこぼことへこんだ穴が、ろ過の役目を果たしていた。口から吐き出す粘性の泥は、ろ過して出てきたゴミのようなものだ。
とても高性能のろ過装置だった。毒さえも綺麗にしてしまう。
水や泥を吸い込んで、汚いものだけを吐き出す。ろ過して綺麗になった水を体に蓄えているのだ。表皮と肉の間に水袋がある。
肉は《鑑定》すると食べられるものだった。
「コカトリスもそうだけど、リムスラーナも飼おうと思えば飼えるかも」
スライムも飼うことが可能だ。
魔獣は魔獣でも付き合い方で変わってくる。
シウが考え込んでいると、遠くで声がした。
「おーい、シウ! ボケっとしてないで、解体終わったら集めてくれよー。臭くて我慢できねー!」
「分かったー」
一度解体したため、後は自動化でできる。シウは見える範囲のもの全てを一気に片付けたのだった。
二時間ほどで付近一帯のリムスラーナを片付けた。ついでに沼に生息していたパルスラーナという魔獣も討伐しておく。こちらは毒性があり、使える部位もなかったため魔核のみ取って残りは焼いて処分した。
ところで、シウとクロ以外は全員が泥の攻撃に遭っていた。可哀想に、
「にー」
「ぎぃ」
「うげー」
と、情けない顔と声で訴えてくる。一定の時間で浄化される首輪を付けていても、当たり一面に泥が広がっているため耐えられないのだろう。
シウはロトスを含めた周辺に《浄化》を掛けた。
「よし、綺麗になった」
「にゃ!」
「ぎゃぅん」
「俺、まだなんか鼻がおかしい。ひん曲がってないか?」
一名が文句を言うものの、片付け終わったので崖下へと戻った。
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