380 拒否と小屋と遊具あれこれ




 金の日の夕方、シウたちはルシエラを出た。

 朝のうちにロトスがイグのところへ行ってバルバルスを見ていたことから、まずはそちらへ《転移》する。

 アントレーネはソロで階級上げをするというため、置いていくことにした。ルシエラに戻ってきた冒険者たちも多く、一緒に依頼を受ける経験もしている。女性だけのパーティーからは大人気で、飛び入りとしてあちこち入っているそうだ。


 シウが到着すると、すでに晩ご飯が出来上がっていた。

「先に食べようぜ。バルも勉強の進み具合を話したいらしいしさ」

「うん、じゃあそうしようか」

 まだ明るい中、全員外で食べる。イグも一緒だ。

「そう言えば、イグとバルでロワイエ語の勉強は進んだの?」

([ま、それなりにな])

「その、俺も共通語が得意というほどではないから……」

 ロトスがいない間、少しは仲良くなったかと思ったがそうでもなさそうだ。

 よそよそしい雰囲気である。

「ところで結界魔法のレベルは上がった?」

「あ、ああ」

「じゃあ、数日の間一人でも大丈夫だね」

「……ああ」

 一瞬以上の間があった。ロトスが先に話しておいてくれたのだが、納得していないのか不安らしい。

「イグがいなくても彼の結界は残ってるから大丈夫だよ? それにバル自身の結界魔法も強くなってるよね?」

「うっ……」

「時々、ここの様子を視るようにするから」

「……よろしく、お願い、します」

「うん」

 返事をしてから、あっ、と気付いた。

「一緒に行く? そうだよね、一緒に行けばいいんだ」

 何故その考えに至らなかったのかと、ポンと手を叩いたのだが。

「えっ、いや、俺はいい」

「え?」

「シウー、俺もそれは反対ー」

「えっ」

([わしもこやつにはまだ早いと思うがな。ま、それを言うならジル嬢ちゃんを連れて行くのも早かろうが])

「ええー」

 ジルヴァーはともかく、クロやブランカだって一緒なのに。そんな抗議の籠もったシウに対して、バルバルスはさっきまで不安や緊張といった様子だったのにスッと真面目な表情になった。

「俺、留守番してる。自主練習を頑張るよ」

 それだけ、クレアーレ大陸へ行くのは嫌なことらしい。

 とにかく、本人の決意が固まったのならそれでいい。シウは首を傾げながら頷いた。



 食後、シウがイグを肩に乗せ、周囲を皆で囲んで転移してもらった。

 今度は通路にではなく、直接イグの寝床がある草地の上だ。大きな岩が刳り貫かれたイグの楽園は、皆を高揚させた。

「にゃー!」

「ぎゃぅ」

「きゅぃきゅぃ」

 遊んできていいかと聞くので、崖の上にはまだ行かないように、とだけ告げる。崖の上を越えてしばらくするとイグの嫌いなカエルの魔獣がいるからだ。

 フェレスたちは早速、飛んでいってしまった。初めてのところでも平気なのは彼等らしい。ロトスはきょろきょろと見回している。

「綺麗なところだなー」

「だよね。植生が、ロワイエ大陸と違ってて面白いし」

「おーう、そっちか」

 まだ明るい日差しを感じながら、歩きだす。今回、イグには前もって頼んでいたのだが、この場所の端っこに小屋を建てさせてもらうつもりだ。

 本当はイグの大事な場所だから、通路でもある洞穴を抜けた先に作らせてもらおうと考えていた。もしくは崖の上だ。

 ところがイグは、ここでいいと言う。

 トカゲとの思い出は心の中にあるから構わないそうだ。シウの配慮に気付いていたらしい。

「このあたりがいいかな」

「どうせなら、出入り口の真上に作ろうぜ。で、通路に門を付けるんだ」

「あー、人間対策?」

「そっ。出入り口の真上なら死角になるしさー。あと侵入者にもすぐ気付くだろ」

「侵入者には山向こうの入り口に来た段階で気付くけどさ。でもここに建てるのは面白いかもね。崖に張り付くように作られた家っていうのも楽しそう」

 イグは勝手にやってくれ、とのことで、のしのしと草のベッドへ戻っていった。ベッドの下の宝物を確認するらしい。

 シウとロトスは崖を見上げて家作り開始だ。


 岩石魔法で出入り口付近を整えるのはロトスにやってもらい、シウは柱を立ててから魔法で小屋を建てた。

 壁となる崖に穴を開けて横柱を通し、念のため通路を挟む格好で土台となる柱を二本立てる。

 通路の真上にあたる場所へ一階部分を、もう一つ上にも二階部分を作った。崖の上まではまだまだ遠く離れている。崖まで上がれるように、こちらも岩石魔法で階段を作ってみた。

「なー、こんな感じでいいかー?」

「もう少し滑らかに削って。家の部分と比べたら出っ張ってるから、もっと削っていいよ」

「おー。って、そっち、もう階段作ったのかよ。早ぇーな!」

 ちくしょう、と悪態をつきながらロトスが作業を続けている。が、かなり早い。魔法学校の生徒と比べても遜色ない。いや、それどころかレベルはもっと上だ。宮廷魔術師レベルになっている。

 ロトスは褒めると勉強の手を止めてしまうため、シウは黙っておくことにした。


 小屋は何度も作っているのと、テント代わりに作って空間庫へ入れているものも多いため、その組み合わせであっという間に出来上がった。

 一階部分は台所などの水回りと居間。二階部分に寝室だ。屋上は景色を眺められる最高の場所なので、テーブルや椅子などを用意する。

 内装というほどのものはないが、必要な家具類を設置すれば完成だ。

 やることがなくなったため、一階から階下へ下りる時に使う階段を作ろうとして、ふと思いついた。

 滑り台があれば楽しい気がする。

 この時、シウの頭には「全員が飛べる」もしくは「飛び降りても大丈夫である」ということが抜け落ちていた。

 ただ、子供が楽しかろうと思ったのだ。

「ジルでも滑られるような緩いのにしようか」

「ぴゅ?」

「楽しい遊具を作るね。そう言えば遊具って作ったことなかったな」

 フェレスもクロもブランカも、シウのせいで野生児になってしまった。勝手に遊びを見付けてくれる天才だったが、遊具があってもいいはずだ。

「よし、ブランコも作ろう」

「ぴゅ!」

 ジルヴァーは分からないなりに応援の声を上げてくれた。


 夢中になって作っていると、背後にロトスが立った。

「あ、そっち、もう終わった?」

「終わった。つうか、何やってんの」

「遊具作り」

「……あ、そう」

 呆れた様子で見下ろしているが、どこかわくわくした感情も伝わってくる。彼も遊具で遊びたいのだろうか。

 聖獣だし、おとなになったといってもまだ一歳だ。シウは「ツッコミ」は入れなかった。

「階段で上がれるようにしたんだけど、下りるときは滑り台の方が楽しいかと思ってさ。で、折角一階部分がないんだから、この宙に浮いた部分を利用してブランコを取り付けた。大きい子用に、広めのブランコは左側、小さいサイズ二つは右側に取り付けるんだ」

「おおう」

「あと、崖の上からも滑り台を作ってみた。くるくる回るのと、スピードが出るように直線のものと」

「……魔獣が来ないか?」

「結界を張ったから問題ないんじゃないかな。イグがいない間も魔獣は入ってきていないようだし」

 実際には誤って落ちた魔獣もいるのだろうが、そもそもイグの気配が色濃く残るここへは進んで来ないようだ。






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