369 異種族の戦士たち




 少し待っていると、一人の戦士が代表して話し始めた。

〔それは古い言葉と思われるが、わたしでは分からない。念話を繋げたいが、あなたが人族ならば難しい。これで通じているだろうか〕

 彼等の言葉は訛りがあるものの古代語に近かった。やはりシウの推測は当たっていた。

 シウは笑って頷いた。

〔わかる、ですー。これ、どうか。念話、だいじょぶー。どうやるかー〕

 彼等はまた顔を見合わせている。驚いているような気がした。蛇のような肌が一瞬、逆立ったのだ。それに蛇のような細い尻尾がきゅっと真っ直ぐになった。

〔言葉が分かる……? 人ではない? アルタートゥムドラッヘの頭の上に乗るのだから普通ではないのか〕

 何やら話しているが、シウには当然聞こえている。《感覚転移》で彼等を間近に見ているも同然だからだ。

 しかし、イグがやり取りに飽きてきたのか「まだか?」と念話で伝えてくるため、シウは話を進めることにした。

〔念話、やってー。こっち、ことば、魔法つかうよー〕

〔……分かった。だが、そちらへ我らはこれ以上近付けない〕

〔近付くね? じゃ、こっち、そっち行くー〕

 そう言うと、シウはイグに了解をとってから後ろへ助走を取り、走った。

 たたたっとイグの頭の上を走り、彼のおでこのところで蹴り出す。少し離れて見ていた魔人族四人の顔が面白いことになった。

 でもそれを見てシウは思った。

 ああ、やっぱり同じ人間なんだ、と。

 彼等も同じ人間なのだ。

〔そこ、乗るからー〕

 叫びながら、風属性魔法を操って勢いをつけたまま放物線を描いて飛竜の上へと着地した。かなりの距離を飛んだが、魔法の補助があったため問題ない。

 乗り込まれた魔人族は唖然とした様子であったが。


 彼等は念信魔法というものを用いて、他者とチャンネルを繋げて話をすることができるらしい。念話のようなものだ。

 シウも言語魔法を最大限にしていたためか、すんなりと繋がることが出来た。念のため、シウの常時発動型の無害化魔法は解除していた。特に危険なこともなく、本当に道ができた、という感覚だ。

 おかげで彼等の話を聞くたびに言語魔法が活躍してくれて、言葉を急速に覚えることが出来た。

〔では、本当に襲撃などではないということか〕

〔違うよ。ちょっと彼と、住処の周りを見て回ろうってことになっただけなんだ〕

〔……やはりあの山はアルタートゥムドラッヘの住処であったのか〕

〔うん。あ、そうだ、イグが人間の供物は要らないって。お昼寝の邪魔もされたくないから、来るなって言ってる〕

〔……お昼寝……〕

 自分の目で実際に見てみると、彼等の表情というものがよく分かった。確かに人族とは違う形をしている。けれども、人間としての基本的な感情や行動は同じだ。

 シウは唖然とするリーダーの戦士に話を続けた。

〔昔、宝物を盗まれたことをものすごく怒ってるけど――〕

〔我らではないぞ!?〕

〔それは分かってるよ。そうじゃなくて、そういうことはしないでねって話。当時それでイライラしてあちこち破壊したんだって〕

〔本当にあったことだったのか。言い伝えは正しかった……〕

〔ということでね、邪魔されなければ彼は何もしないよ。今回も僕が魔人族を見たことがないって言ったから、じゃあちょっと見てみようかって〕

 シウの話を聞いて、戦士たちは安堵したらしかった。がっくりきた様子で、力なくフラフラと飛竜の上に座る。

 飛竜からは(早く帰ろう、ここ怖い)という泣き言が聞こえてくるが、それも聞こえていないほど放心状態だった。


 シウは改めて蛇肌の戦士たちに謝った。

〔ごめんね。驚いたよね。すっかり忘れてたんだ。古代竜って威圧感あるもんねえ〕

〔いや。襲撃でなければいいんだ。こんなことがあるとは誰も想像していなかったものだから。あの山のことも伝説だとばかり……〕

〔そっかあ。じゃあ、今度遊びに行っていいか頼もうと思ってたけど、止めた方がいいね〕

 戦士のリーダーは、そろりと首を回してシウを見下ろした。じいっとギョロ目で見つめ、小さく首を傾げる。

〔……いろいろ聞きたいことはあるが、もう、頭がいっぱいだ。敵対するというのでなければ、また話をしたい。ただ、一人で来てもらえると助かるが〕

 チラリとシウの後ろへ視線を向ける。怖いのか直視できないようだ。よく見れば、飛竜の手綱を持つ手が震えていた。違う飛竜に乗る戦士などは鉤爪がガチガチ当たっている。

 気持ちがいっぱいになって受け入れられない状態なのだろう。

 シウは次が取り付けられただけで満足だ。こんなにも上手くいくとは思っていなかった。友好的、かどうかは分からないが、少なくとも即敵対にはならなかったのだ。十分である。

〔今度は、町の外から念話を繋げて連絡するね。来るとしたら、あの山の方から飛んでくるよ。連れがいるかもしれないけど彼じゃないから安心して〕

〔ああ。そうしてくれ。……本当に頼む〕

 飛竜がもじもじし始めて、リーダーは現状に気付いた。

〔では、そろそろ限界のようだ。我らは町へ戻る。その、あなたたちはこれから?〕

〔集落へは飛ばないようにするよ。もう少しあちこち見てみたいから近くの上空を飛ぶかもしれないけど、決して攻撃なんてしないから〕

 リーダーは拳を握って胸に手を当てた。どうやら感謝の意味があるらしい。他の戦士も相次いで行う。

 それから帰ろうとしたのだが、シウが乗っていることに気付いて――。

 シウは笑って手を振った。背中の魔法袋から飛行板を取り出し、スッと放り投げるとすぐさま飛び乗った。

 リーダーたちが「あっ」と叫んだ時にはもう飛んでいた。

([あ、僕はシウ。彼はイグって名前だよ。また今度ね!])

 手を振ると、呆然としたまま彼等も手を振り返してくれた。ぎこちない動きながら振り方は同じだ。きっと彼等にも手を振る所作はあるのだ。

 それが何やら嬉しい。

 シウは笑顔のままイグの頭の上に戻った。


 イグは大欠伸だ。シウが所定の位置に戻ると、つまらんと文句を言ってきた。

 その間に魔人族たちはあっという間に集落へと向かっていった。一目散、という言葉が合うほどだ。

 シウはイグに、

「魔人族は見たし、他のところを見てみたいな」

 そう頼んだ。

([そうだの。毎回この調子では疲れる。あれらがいないところを選んで飛ぶとしよう])

「そうだね」

 というわけで「魔人族を見る旅」は終わった。



 ところで、イグがシウに魔法の訓練をしろと言ったことは正しかった。

 彼等を《鑑定》して、ようよう理解した。戦士たち自体はシウよりもスキル的には下だ。けれど、辺境の地の小さな集落にある戦士のレベルとしては途轍もない強さだった。

 魔力など百を超えていた。

 イグが言うには、もっと魔法に長けた種族もいるらしい。中には古代竜に匹敵するほどの魔力を持った者も過去にはいたらしいのだ。

 そんな相手が敵対したなら、シウでは太刀打ちできない。

 やはり訓練が必要だ。とりあえず鑑定のレベルをあげようと、シウはイグの許可を得ていることをいいことに常に掛け続けていた。本竜はもう気にならなくなったらしく、平然と飛び続けている。







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コミカライズ版、27日に公開予定です

 ニコニコ静画→http://seiga.nicovideo.jp/comic/35332?track=list

 コミックウォーカー→https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02200433010000_68/



書き忘れてましたが、次回から五日ごとの更新になります

結構やばい感じで読み直しができてないのであります

せめて一回だけはと思って(それでこの調子ですから

がんばります~✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。





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