361 栽培しよう、そうだ水晶竜と交渉だ





 ロトスとバルバルスは引き続き、体を鍛えながら魔法の勉強を続けていた。

 フェレスたちは小川で石探しだ。プルプァとイェーダーで採掘した原石も持っているし、シウがカットした宝石もちゃんと渡してあるのだが「それはそれ、これはこれ」らしい。

 楽しそうな三頭はそのままに、シウはジルヴァーを連れて《転移》した。


 実はクレアーレ大陸で採ってきた竜苔を育てられないか、ずっと考えていた。

 竜苔は魔素食いだ。大量に吸収しなければ育たないのだろう。だからこそ古代竜の住処のような場所にあった。しかも古代竜の住処ならば魔獣は避ける。魔素を好むとされる魔獣にとって竜苔は、ご馳走のはずだった。そんな彼等からの、乱獲に遭わずに済んだのは古代竜があまりに強大な存在だからだ。

 となれば、同じような場所なら栽培も可能のはずだった。

 ただし、イグの今の住処は無理だ。転変していないので魔素が足りない。

 イグの転変した姿を見たシウだからこそ言えるのだが、古代竜の姿の時とトカゲ姿では体から発せられる魔素は雲泥の差だ。よくもまあ抑え込んでいると思った。シウのように魔力庫があるのならともかく、そうではないのに。

 もちろん無理やり小さな体に抑え込んでいるから、周辺には濃厚な気配のようなものが漂っている。人によればそれが「圧倒的存在感」となり、あるいは圧力として感じられるのだろう。

 けれど、それでは竜苔を育てるには足りない。

 ではどこがいいか。濃厚な魔素に支配されつつも魔獣のいない場所となれば、シウは一つしか思い浮かばなかった。安心安全の場所だ。

「ぴゅ?」

 きょろきょろするジルヴァーに景色がよく見えるよう、山腹の庇の上で彼女を抱き直した。まだ赤ちゃんだがアトルムマグヌスだけあって握力がある。しっかりシウの腕を掴んで見回した。

「ぴゅ!」

「寒いねえ。ここはウィータゲローというんだよ。あの穴の奥に水晶竜が住んでいるんだ」

 ジルヴァーはこてんと首を傾げ、それからぶるりと震えてシウにしがみついた。

「《空間壁》を普通のにしておこうか。ジルにはまだ寒すぎるかな」

「ぴゅぅ」

「よしよし。大丈夫だよ」

 本獣もそれほど寒かったわけではない。網の目のようにして囲っていた結界の穴から、すうっと入ってきた冷たい風に驚いたのだろう。

 ずっとポカポカとした暖かい空気に触れており、寒いということを初めて知ったのだ。

 シウはしがみつくジルヴァーを撫でながら、地面へと降り立った。


 穴に入りながら、強化した《全方位探索》で水晶竜たちの様子を確認すると、小さく動くものがいた。

 生まれたのだ。

 通常、赤子を生んだばかりの親は危険だが、水晶竜たちはどうだろうか。シウはそろりと巣に入った。一番大きく強い雌の巣だ。

(こんにちは。突然ごめんなさい)

(まあ、あなたね。もしかして生まれたのが分かったの?)

(ううん。偶然。ちょっとお願いがあって来たんだけど……。それより、おめでとう)

 ほんの少し警戒した様子の雌のリーダーは、シウの言葉に安心したようだ。偶然来たというのも良かった。

(ありがとう。最初の子よ)

(群れでも最初の子になるのかな?)

 《全方位探索》でも他に子はいないようだったので確認すると、

(ええ、そうよ)

 誇らしげな様子で返事が届いた。

(次の子はまだ先になるんだね?)

(ええ。最初の子たちが数年内に次々と生まれて、しばらくしてから溜めていた子がまた生まれるわ。しばらくは大忙しね!)

(何かできることってある? 食事はどうしてるのかな)

 シウの言葉を聞いて雌のリーダーはゆったりしていた体を起こした。彼女は頭をぬっとシウの前まで移動させ、じいっと見つめながら答えた。

(人間よね、あなた。実は欲しいものがあるの。でも用意できるのかしら……)

(なんだろう。物によるよ)

 実はね――、と語り始めた内容を纏めると、こうだ。


 魔素の溶けた水が欲しい。しかも濃い方がいいという。

 普段、彼等は水晶を口にしているが、それさえあまり食べなくていい。ウィータゲローのような清浄の土地に根を下ろすことで、地から湧き上がる魔素を体に取り込み生きているようだ。

 彼等が言うには、ここは地脈がいいらしい。地中深くから湧き出る魔素は澄んで美しいそうだ。

(わたしたちは必要ないけれど赤子には水が必要なの。以前は地下へ通り抜けられたのだけど、昔、同じような繁殖期の時に雄が暴れて壊してしまったのよ。生んでから思い出したわ)

 思い出すのが遅いと思うのだが、シウは苦笑するに留めた。

 代わりに、こう答える。

(魔素水ならあるよ。普通のと濃いのと、高濃度のと)

 雌のリーダーは動きを止めた。鱗の水晶がパリパリと音を立てる。どうやら震えたか、逆立ったようだ。よく分からない動きながら、なんとなく「驚いた」のだろうと理解した。


 シウはコルディス湖の水を大量に保管している。以前、水竜の死骸が十数頭も沈んでいたことがあった。その時のものだ。

 湖には大量の魔素が溶け込んでいた。このままだと魔獣が増えすぎてスタンピードになるのでは? と思い、まるごと空間庫に取り込んだのだ。その後、一冬草を育てるのに使ったこともあるが、薄めて使っているから大した量ではない。

 更に、実験と称して地下から汲んだ水に自分自身の魔素を練り込んでみた。ポーションの基材を作るのに乾燥させたヘルバを水で煮込むのだが、普通はこの時に魔力を練り込む。この順番を変えてみたのだ。コルディス湖の魔素水と同じものになるのか気になったのもある。実際のところ、問題なく魔素水と鑑定に出た。

 更に、つい先日クレアーレ大陸で高純度の魔素水、シウが「高濃度聖魔素水」と呼んでいるものを手に入れた。

 この三つをシウは用意できる。

 細かい部分は端折ったが、三種類の魔素水について語ると雌のリーダーは(ふう)と溜息のようなものを漏らした。

 種族の違うシウから見ても彼女は呆れたように見えた。

 事実、彼女は呆れているのだった。

(あなた、おかしな人間だと思っていたけれど、やっぱりおかしいのね)

(え、僕はおかしいですか?)

(ええ。大体、人間がわたしたちと念話を交わすこと自体が変だったのよ。――そう言えば雄を殺してくれたのもあなただったわね)

 その通りだ。

 雌のリーダーは鱗を元に戻すと、頭を下げた。シウの顔よりも下に。

(どれほどのものか、確認したいわ。最後の『高純度』のものは、もしかしたら赤子には良くないかもしれない)

(聖水よりも上なのに?)

(良すぎるものは逆に毒となるものよ。人間はそうしたことを知らないの?)

(いえ、そうですね。分かりました。じゃ、一応三つ出すから確認してみてください)

 彼女の尻尾で守られた赤子は静かだ。水がないことで元気がないのだろうかと心配になるが、雌のリーダーは慌てていない。大人と同様に体に取り入れる頻度は高くなくていいのかもしれない。


 水晶竜の雌は桶に出した魔素水を三種類試した。選んだのはコルディス湖のものだった。一番、近いらしい。少々雑味が入っているのがいいとか。

 要らぬものは濾したはずだが、残ったものがあるのだろう。水晶しか食べないような竜なのに、案外舌が肥えている。シウは感心した。

 ちなみにシウが人工的に作った魔素水は、純度が高いそうだ。悪くはないが美味しくもないとか。当然その流れでいくと、高濃度聖魔素水は飲めないだろう。はたして。

(わたしでも一口飲むのが限界だわ。こんなもの、どこで手に入れたの)

(古代竜の住処で――)

(古代竜!?)

(あ、友達なんだ)

 念話から恐慌している気配を感じ取った。シウは慌てて「友達」なのだと伝えた。

(友達!! なんてこと。あなた一体……)

 いわゆるドン引きという状態になってしまった。

 事実、水晶竜は身を引いている。できるだけ離れて、というのが格好にも現れていた。更に、離れた場所から警戒気味にシウを見下ろす。

 シウは笑って返した。

(偶然、知り合って友達になったんだよ。それで住処に招待してもらって、そこで高濃度の魔素水を手に入れたんだ。あ、そうそう。それでね)

 ついでなので取引する。竜苔の栽培の件だ。








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コミカライズ版、27日に公開予定です

 ニコニコ静画→http://seiga.nicovideo.jp/comic/35332?track=list

 コミックウォーカー→https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02200433010000_68/


今回の、すごくいいのです。(いつもいいけど特に!)

なんかね、一枚目から「あああああ」ってなります。

他にもイケメンとか美人さんとかあれこれ言いたいですが、公開までグッと我慢の子なのであります。




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