335 対策グッズの伝授と門
木の日は朝から講習会だ。シウはグラキリスとプリスクス、それに青年団の中心人物らへ、魔道具の使い方について説明した。
「まず《鋲打機》は、アポストルスが使う『追術魔法』の対策として作ったものです。これで魔素を遮断します。地面に予め打っておいて、そこで魔法を行使する。使った後でも使えるけど、差し迫っている時には間に合わない可能性もあると覚えておいてほしい」
たとえば、ついそこまで追手がかかっている、というような状況ならば後から打っても意味はない。近ければ近いほど探し出すのは早いだろうからだ。望ましいのは、魔法を使う前だ。
「《鋲打機》は大掛かりな魔法対策だけど、たとえば最初から靴の裏に専用の鋲針を打っていてもいい。小型銃型の、これね」
と言って、皆に見えるように掲げる。全員、真剣な顔だ。
シウは次を手に取った。
「あとは靴裏ゴム。この土踏まず部分に魔術式を付与しているので足のサイズに切り取って靴の裏へ付けてください。アウレアにも施したけど、地面から立ち上る魔素を遮断してます。もちろん転んだりしたら体が地面へ触れるから意味はないかもしれない。でも、生活する上でもっとも地面に接触するのは足なので気休めでもいいんじゃないかなと思う。特にアポストルスは地面の中の魔素を通して血脈を探しているようだから」
このことはヒラルスたちとも意見が一致している。
ヒラルスの知るハイエルフの過去の情報からも、おそらくはそうだろうと結論付けた。
そして、これも彼等との話し合いで判明したのだが、血視魔法も血操魔法もどちらも共に「魔力食い」の大掛かりなものらしい。
シウが予想した通り、そうそう簡単に使えないはずだ。
とはいえ滅多に使わないであろうそれに引っかかってしまったら、お仕舞いである。よって、靴裏への対策と地面対策が必要なのだった。
ただし、地面から直接魔素を取り込めなくなると、魔力枠の大きなハイエルフ一族にとっては厳しい。
「以前、お渡しした竜苔、まだありますよね?」
「ええ」
プリスクスが、それが何か? という顔になった。
「健康な人でも一月に一度は薄めた量の一口を飲むようにしてみてください」
「あ、そういうことね。それは能力者レベルの高いものだけに?」
「うーん、そういうことなら……」
「シウ、そういうの面倒くさいからさ。毎日飲むようなものにしようぜ。分量計算して混ぜてみたらどうかな」
ロトスに助け舟を出してもらい、シウは頷いた。
「飴にしよう。ほぼ毎晩お風呂に入ってるらしいし」
「毎日入らない奴もいるかもよー。ふへへ」
「それぐらいなら誤差だって。二日や三日お風呂に入らない人でも問題ないぐらいの調整にしよう」
「なーんだ。でもまあ、臭い奴減ったしなー。問題ないか!」
ロトスが「臭い奴」と言った途端に青年団の数人が俯いたり目を背けたりしていた。
自覚が芽生えたのか、ロトスに言われて恥ずかしいと思ったのか。なんにせよ不潔でなくなかったのは良かった。
竜苔入りの飴はシウが後ほど作るとして、そのレシピも薬草担当の子に教えることとなった。
話が脱線したが、シウが作った魔道具の説明を続ける。
「《捕獲網強酸型》は便利の割に危険だから使い方は気をつけてね。あと《超強力結界ゲル》は半径数メートルしか守ってくれないけど、持ったまま移動もできるから。二十四時間稼働して自動で切れる。ゲルを置いて離れても解除。とにかくゲルを持っていること。袋から取り出した時点で稼働だからね。ゲルはポケットに入れてもいいし」
どこかにくっつけてもいい。そのための「ゲル」だ。
他には対魔獣用に作った《魔素吸収》《臭覚偽装》などなども実際に使って見せる。
惑い石と魔狂石には若者を中心にものすごく嫌そうな顔をされた。しかし、魔素の流れを視ることに長けた者が「自分が担当する」と手を挙げてくれた。
みんなそれぞれに役割分担をしようと張り切っていた。
午後は実際に魔道具を使ってみようという実践班と、生産班に分かれることになった。
シウも村へ入るための
「ものすごく心配なんだけど、本当に大丈夫だよね?」
「あのなー。過保護は止めるんじゃなかったっけ、シウ」
「そうなんだけどさ。……よし、分かった。でも本当に気をつけて」
「おー。村に迷惑かけたりもしねえよ。変なことしないってば。な、フェレス」
「にゃ!!」
「ほらー。フェレスもこう言ってることだし」
「フェレスは問題ないんだよ」
「……まあな。うん、そうよな。俺もそれは思った」
そう言うとロトスは半眼になってブランカを見る。ブランカの上にはクロが「すみません」という意味でか頭を下げていた。変なジェスチャーを覚えてしまって、可愛いやら面白いやらだ。
「ブランカ。お前ね、関係ないって顔してるけどさ、言っておくけどブランカが一番危ないんだからな?」
「ぎゃう?」
「……くそー、可愛い顔しやがって。こんにゃろ。まあ、クロがいるしな! フェレスもフォローしてくれるだろ。あと俺が乗っていけば大丈夫だって!」
「うん。任せた」
「おう。てことで行ってくるわー」
気楽な様子で手を振ったものの、ちょっぴり後悔しているような様子が背中に現れていた。シウは肩を竦めて、なるべく《感覚転移》は使わないようにと心に決めた。
ゲハイムニスドルフの村を取り囲む大きな外壁の、唯一穴の空いた部分が出入り可能な門となる。ここで出入りする者を水晶を使って通しているが、この門に鑑定魔法を駆使した警備システムを取り込むことにした。
門だけは結界が手動になっている。門専用の兵と、上層部しか解除はできないようだ。これに警備システムが干渉してしまうかもしれないので、その鍵となる腕輪を見せてもらう。
「……結構、大掛かりな感じですね」
「古代から受け継がれてきた鍵なのよ。王城への出入りに使ったとされているわ」
プリスクスが自身の腕輪を見せながら言う。
「数も限られていて、能力者レベルが高くても持てるとは限らないものなの。誓約魔法も受けているわよ」
操られる場合も想定しているのだ。
しかし、ちぐはぐだ。村を取り囲む結界の大仰さや腕輪の古代聖遺物並の高レベルと、出入りする人間を確認する水晶のレベルの差に驚く。
腕輪の力を真に理解していないのかもしれない。
シウは《展開魔法》を用いて中の魔術式を読み解く。
「良い、魔術式ですね」
「そうなの?」
「転移の術式までありますよ」
「え?」
「いざという時には安全地帯へ飛ばせるように、かな。場所が悪いけど」
「場所って――」
言いかけて、プリスクスは青褪めた。
「もしかして、帝国時代の――」
「はい。王城の出入りの際に問題が起こった場合を想定して、安全な王城内へ避難できるように座標指定されてました。今まで、この門で問題が起きなくて良かったですね。もし発動していたら、腕輪をしていた人間は『黒の森』へ飛ばされていたでしょうから」
ハイエルフの国があった場所は帝都の近くにあった。帝国に取り囲まれるように、というよりは帝国内の土地を独立国家として作られたのだろう。
ゲハイムニスドルフの人々はもはや正確な場所を覚えてはいないようだが、シウが独自に研究した結果、大体の場所は分かっていた。間違いなく黒の森の中心部分に近いだろうと。そしてそれは、腕輪の座標からも確定した。安全地帯への指定だから王城か、それに匹敵する場所だ。
しかし、今は黒の森に飲み込まれた。
そんな場所へいきなり転移したら、どうなるかは火を見るより明らかだ。
「転移の場所を書き換えましょう。不測の事態が起きるかもしれない」
「え、ええ……」
ただでさえハイエルフだから色白なのに、プリスクスの顔は真っ白になっていた。
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