336 虹色の飾りと疑似村作りへ

02 336 虹色の飾りと疑似村作りへ 20180617



 結界を張れるギリギリの立場のグラキリスもやって来たので、干渉しないかどうかの確認を行いながらセキュリティを強めていく。

「この門の部分だけ最初から結界を張らないようにするのが一番なんですが」

「それだと、わたしでは難しい」

「いつもは二重掛けに?」

「はい」

「解除の時に不安定になったりしなかったですか?」

 結界を張るための礎石となる場所も見せてもらったが、強固な結界のために門の開け閉めが邪魔になっていた。

「最初に小さな門用の結界を張っておくんです。その上にクッションを入れましょう。そうしたら、重ね掛けしても問題ないのでは? そこだけ弾いて結界を張ってくれるはずです。たとえば精霊や人がいた場合、この結界は保護していますから」

「え、ええ。それはもちろん。……精霊や人と思わせるようなクッションを入れるのですか?」

 シウは少し考えて、頷いた。

「高濃度水晶を使いましょう。幸いラーワもある。砕いて混ぜて、笹糊と一緒にして門の内側に塗ります」

「……えっ?」

「水晶竜の鱗を貼ろうかとも思ったんですが、そこまでしなくても良さそうです。それに加工なら水晶の方が楽だし」

 よし、そうしよう、と思い立って作業を始めようとしたシウだったが。

 グラキリスに止められてしまった。

「ま、待ってください。高濃度水晶? ラーワというのは分かりませんが、高濃度水晶のことなら分かります!」

 興奮して、そして怒っているような顔をするのでシウはぽかんとした。

「そのような高価なものを門に使うのですか!?」

「……価値は高いですね。でも、命より高いものはないです」

 高濃度水晶は水晶竜の糞でできている。シウは大量に保管していて、使い道がなかった。一部を加工してキリクとアマリアへの結婚祝いにプレゼントしたが、それぐらいだ。

 水晶竜の鱗も幾つかは加工したが、気が済んでしまって今は手を付けていない。本当なら水晶竜の鱗は「魔法を跳ね返す」効能が一番高くて、今回のような場合には向いている。けれど、結界の強度との兼ね合いもあってワンランク下げた。

 高濃度水晶でも十分にその役目を果たしてくれるだろう。それさえ、古代帝国時代では高価な代物だと言われていた。キリクに渡した時も散々言われたシウだ。けれど、命に変えられるものではない。

 絶句したグラキリスに、シウは続けた。

「この村の人の命を守るための話を、僕はしてるんです」

「……シウ殿」

「やれるべきことは、やりましょう」

「は、はい。はい……はい……」

 グラキリスは俯いて、それから少しだけ席を外すと言って離れていった。


 シウは門のためだけの結界用魔術式を考えながら、クッションとなる部分に塗布する高濃度水晶を笹糊と混ぜ合わせた。ラーワもよく馴染んでくれる。ラーワは特殊な溶岩で、鉱石と異物を混ぜるのに適している。変異水晶と呼ばれる混合専用のものの上位版ともいえる。変異水晶は魔法を加えることによって性質を変えるという特殊性がある。これによって異種素材を混ぜることが可能となる。生産魔法でも魔力を重ねれば混ぜることは可能だが、簡単なので変異水晶を使うことが多い。

 ラーワはミスリルなどの魔素がより多く入った特殊金属などを混ぜ合わせるのに役立つ。特に古代竜レベルの鱗をどうにかしたい時には必須だった。

 水晶竜の鱗というのは古代竜ほどではないが、魔法を無効化するという素材としては一流品だ。ランクは下がっても、同じ効能を持つ高濃度水晶もまた一流品である。

 変異水晶でも混合はできただろうが、ランクがかなり落ちるのでラーワにしたのだった。


 ラーワを溶かして冷めたところへ砕いた高濃度水晶と笹糊を混ぜたものを手早く入れ込む。それらを急いで門のぐるりへと流し込んだ。

 予め型枠を作っていたので綺麗に石組の門の枠を彩るかのように輝く液体が進む。

「綺麗……」

「なんて、美しい」

 青年団や門兵たちが声を上げる。高濃度水晶は虹色にキラキラと輝くものだ。古代では宝石として大事にされていたものだった。

 シウが魔法も使って押し込んでいくと、徐々に固まっていくのが分かった。どんどんと流し込み、隙間が出ないようにとやや圧縮気味に押した。

 やがて全部が埋まり、型枠を取り外すと――。

「わあ!」

 型枠にはラーワを使っていた。そのラーワに飾り彫りをしていたのだ。それが虹色に輝く細い枠に刻まれていた。

「精霊の蔦……」

 プリスクスが呟いた。シウは笑う。

「古代帝国時代の本に、ハイエルフの国では植物を模した飾りが好まれていたと書いてありました。中でも王城に使う飾りは『精霊の蔦』や『精霊の息吹』などがあると」

 シウでも作れそうな簡単なものは「精霊の蔦」だった。それを模してみたのだ。

「……こんなもの、わたしでも滅多に見られないのよ」

「もしかして本が?」

「ええ。ええ、そうなの」

 プリスクスは泣きそうな顔をして、それから笑顔でシウを見つめた。

「こんな素敵なものが村を守る門にあるだなんて、なんだか不思議。でも、そうね、命を守るものなのね」

 グラキリスとの話を聞いていた彼女は、独り言のように小さく呟いた。

「守らなきゃね」



 夕方にはロトスたちが戻ってきた。

 新しくなった門を通ると、振り返って見上げてはキャッキャと騒いでいる。彼等は輝くものが大好きだ。虹色に光る高濃度水晶など大好物である。

「これ、盗まれちゃうぜー」

「大丈夫。外からの人には腕輪をしてもらう。認識阻害がかかってるし、ハイエルフを鑑定しても分からないようにしたんだ。これは門の外で、着脱する」

「そうなのか」

「門兵は開閉用の腕輪をしてるから、そこに鑑定を弾く機能も付けたんだ。万が一襲われた場合は内側の詰め所に転移、再度危険があれば中央へ転移する」

「転移も付けちゃったのか……」

「違うよ、元から腕輪に転移機能が付いてたんだって」

「マジか。すごいな」

(ビックリしたー! 空間魔法のことバラしたのかと思ったぜ。まあ、もうバレてんのかもしんないけどさ)

(……まだ大丈夫だよ)

 たぶん。そう思いたいシウだった。


 夜には、竜苔をごくごく少量混ぜた《竜苔飴》を作った。簡単にできた。これら飴作りのレシピも教えたので、薬草と治癒の担当班に覚えてもらう。彼等は養蜂班と連携だ。もちろん畑に植えた甜菜の班もゆくゆくは一緒になるだろう。

 そして、竜苔の取り扱いにはくれぐれも注意するよう口酸っぱく教えた。

 彼等は神妙な顔で了解してくれた。




 金の日は疑似村を作る手伝いをすることになった。と言っても、場所を指定し監修するだけだ。作業は村人にやってもらう。その間にシウは南側の森を抜ける道を潰す作業に出ることにした。

 これは彼等にはできないことだった。道のりも大変ならば、潰すという作業にかかる魔法が気にかかる。いくら《鋲打機》を打ってから作業しても大掛かりすぎる上に、いきなりの慣れない作業を任せるのは不安だった。

 まして、遠い。

 時間がかかりすぎるので、まずはシウが行うことにした。

 ロトスたちも連れて森へ入っていくと、村人から見えなくなる場所で《転移》する。

「獣道もあるんだろ? 森に慣れた冒険者なら入ってこれるんじゃないのか」

「そこを潰すんだよ」

「どうやってさ」

「こうするんだよ」

 土属性魔法、岩石魔法、生産魔法などを用いて谷を作るのだ。

 もちろん事前に《魔素遮断》は行っている。空間魔法によってかなり広範囲を地面の中ごと囲んでしまうから、脳内の魔力量計測器はすごい数値を叩き出していた。

「うっそだろ、マジかよ!」

「冒険者が嫌がるような地形に、変えていくんだよ。もちろん作為的にならないよう、自然の要塞として作り変える」

「お、おま、頭おかしいんじゃねえの!?」

「えっ」

「ここまで大袈裟に地形変えるとか、何考えてんだよ。谷だぞ、谷! すっげえ深い!」

「……やっぱりダメだったかな」

「やっぱりってことは一瞬でもマズいとは思ったんだな?」

「……うん、まあ、少しだけ」

 自然破壊に繋がるとは思ったのだ、シウも。けれど極力、空間魔法によって排除したつもりだった。

 だんだんと下がるシウの頭に、ロトスが軽い拳骨を落とす。

「まあ、あれだ。同胞のためって気持ちは分からないでもない。やりすぎって気はするけど」

「うん」

 ロトスは呆れたような声で溜息を吐くと、もう一度シウの頭を叩いた。が、撫でるような感じだった。









**********



拙作「魔法使いで引きこもり?」の四巻が、2月23日に発売されます。

学校編でも、動きのある例のシーンです。


楽しい演習になるはずが、火竜の登場、そして魔獣のスタンピードへと繋がる事件が起こります。

せきがんのえいゆう、じゃなかった隻眼の英雄キリクとの繋がりが深くなるのも、この事件がきっかけ?

ぎゅぎゅっと詰まった四巻を、ぜひ、お手にとっていただけたらと思います。


「魔法使いで引きこもり?4 ~モフモフと立ち向かう魔獣の氾濫~」

作者:小鳥屋エム

出版社: KADOKAWA (2019/2/23)

ISBN-13: 978-4047354999

イラスト: 戸部淑先生


戸部先生のイラストもこれまで通りに大変素晴らしいです。特にヒルデガルドがぐへへです。あと、忘れてならないのはコルでしょうか。

もちろん主人公組だって可愛いんですけど!!



しかも、今回は、なんと!

コミックも同日発売となります。


「魔法使いで引きこもり? 1 ~モフモフ以外とも心を通わせよう物語~」

(MFコミックス アライブシリーズ)

出版社: KADOKAWA (2019/2/23)

ISBN-13: 978-4040654966

YUI先生著作


可愛らしい絵柄で、とても癒やされます。

赤ちゃんフェレスをぜひ堪能してください!

個人的に猫耳フードいいなとか、パン食べたいとか、アウルかわぇぇぇぇと思ってます。ふくふくした幼児の手が可愛い❤



近況ノートにも発売に関しての情報をまとめております。

どうぞ、よろしくお願いいたします。



追記:ツイッターで四巻の見どころ紹介(という名前のおふざけ企画)をしています。更に、クイズ形式で読者様に投票してもらう参加型おふざけ企画もありますのでよろしければご覧くださいー。アカウント作成しなくても、見ることはできます!(見方は慣れるまで、ややこしいですが)

https://twitter.com/m_kotoriya

ネタバレしすぎないようにしますが、そうしたものが苦手な方はお気をつけください。

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