326 魔法袋を各港に、ラエティティアの過去




 キアヒたちが光の日にも騎獣との慣らし騎乗を行うというので、ロトスとアントレーネについていってもらった。フェレスとブランカに乗ってだ。クロも一緒である。

 プリュムも気になったようだが、光の日はスヴェルダと共に過ごすとのことで来なかった。

 残りの十一頭も、そろそろ騎獣屋で引き取ることになる。プリュムの仕事は終わりだ。もっとも時間を見付けて、また城下へ降りてくると宣言していたけれど。


 騎獣屋の実質オーナーも決まり、従業員の教育は養育院でピットやエンダたちが行ってくれている。彼等と共に、徐々にではあるが騎獣たちも成長していた。

 養育院からは騒がしさが消えるだろう。

 そのことを一番寂しく思っているのは、たぶん老獣たちだ。

 何か、彼等にとって楽しくなるような出来事はないか、シウは考えてみることにした。



 この日、シウだけ別行動だったのは各港の担当者に魔法袋を預けるからだ。

 話をすると、ほとんどの担当者は「そりゃいい」と気の良い返事だった。一部、高価な品を預かることへの躊躇いはあったものの「マーキングしてるので盗まれても見付けられる」というシウの台詞に安堵していた。

 盗まれた場合の損害賠償を気にしていたようだ。

 もちろん、盗まれないような管理はしてほしいが、そもそも市場では大量の貨幣が取り扱われている。金庫も厳重なものが用意されており護衛もされていた。

 魔法袋は最近、値が下がってきているし、むしろ金庫の方が管理は大変だろうと思う。

 各港で、

「地下迷宮で発見したものだけど、二つ目で、しかも小さいから」

 と同じ台詞を繰り返して預けてきた。

 まさか、幾つもの港で同じように預けているとは思うまい。

 使い勝手はそれほど良くないのだと示すために、わざと古い時代設定のものに偽装した。見た目が悪く、外側に鞄をセットするには難しいというような不格好さを出したのだ。つまり長くて硬い筒状にしてみた。背負うには大きい、人の手で運ぶのはちょっと大変というものだ。実際にこうした不格好なものも大昔には多かった。軍事品を運ぶのに使っていたのだ。あえて不格好にするのである。

 良いのは時間経過が遅い、という一点のみ。入れるだけはできるが取り出すのは権限のある者だけ。とまあ、いわくつきにしたおかげで納得してもらった。

 これで、大漁の時の余剰品を手に入れられる。

 時間経過の少ない魔法袋の所持者は、こうした余剰品のためには使わないのだ。よって生鮮食品である魚たちは捨てられていく。

 できるだけのことをしている市場関係者からすれば、シウが引き取ってくれる、というのは有り難いことらしい。

 最終的には喜んでもらえた。


 たとえば、もっと通信が発達するだとか、あるいは臨時の運び屋が多くいれば違ったかもしれない。

 保存のため真空パックにするとしても、頭と内臓は取らなければいけない。ところがそれには人手が必要だ。

 何よりも作業をする人間を臨時で集めるというのが難しいのだった。




 夜には戻ってきた皆と合流して、屋敷に戻っていたレオンも連れ出し全員で飲みに行くことになった。

 キアヒたちと騎獣四頭はすっかり仲良くなったようで、名前も付けたそうだ。

「俺のフェンリルが、スド。キルヒのがオヴェストで――」

「俺の相棒はノルドだ!」

 キアヒの説明を待てずに口を挟んだのはグラディウスで、彼は嬉しそうにグラスを掲げて告げた。

 最後にラエティティアが微笑みながら続ける。

「わたしのパートナーはエストよ」

 どれも、地方にある古い言葉だ。ロワイエ語から見れば外国語扱いというよりも、古語に近い。もしかして、と思ったらラエティティアがシウの隣へ座って教えてくれた。

「わたしの里で使われていた言葉なのよ。懐かしくて付けちゃったの」

「古語を使っていたんだね」

 何気なく答えたのだが、ラエティティアは驚いた顔になった。

「あ、ごめん。気を悪くしちゃった? でも、確か、今は使ってる地域が少ないって書いてあったんだ」

 シーカーの図書館には地方の言葉に関する書物も多く収められている。今は全く使われていないような古代語のみならず、中途半端な時代のものや、それこそ方言レベルのものも網羅されていた。

 古語に近いというのは、もはや別言語だろうと言われるほどの方言に対する、ある意味「揶揄」とも受け取れるものだった。だからシウも謝ったのだが。

 ラエティティアは静かに首を振った。

「……いいえ、違うの。わたしたちの村の言葉を知っているのかと驚いただけよ」

「シュタイバーンの南方にある方言だよね? 今ではほとんど使われていない――」

「わたしの出身地なのよ、そこが」

 ラエティティアは田舎を飛び出してきたと前に話していたことがある。思うところがあるのだろう。困ったような、それでいて懐かしく思い出しているような表情を見せた。


 ラエティティアの生まれたエルフの村は、コーデリアル大山脈という中にあるそうだ。

 シュタイバーン国とフェデラル国の国境にある山脈は、シュタイバーン側がコーデリアル大山脈と呼ばれ、フェデラル国側をウィリディスマリス大山脈という。

 大きく険しい山々が長く東西に渡って連なっており、その真ん中を国境として引いているのだ。と言っても、山脈の中まで厳密に管理されているわけではない。ただ、国同士が「このあたりまでを国境にしよう」と話し合ったに過ぎない。

 その証拠に、昔から山脈内で住み続けている少数民族に対して国は保護もしない代わりに税金も受け取っていない。

 山を降りて暮らすならば当然自国民として扱いもするが、そうでないのなら勝手にしろと両国は決めている。

 それができるのも少数民族に力がないからだ。それぞれが小さい集落を作って隠れ住んでいる。国として脅威になるならともかく、弱々しい彼等をどうこうするほど大国である二国は困っていなかった。

 それに山脈の豊富な資源を危険な場所から持参してくることは麓の村を潤した。けれども国が彼等を取り込まないのは、もっと切実な理由があった。

「山脈から生まれ出る魔獣の脅威は大きいわ。わたしたちは大国の生贄のようなものだったの」

 つまり、防波堤として扱われているのだった。

 山脈内の少数民族まで国民の一部としてしまうと危険な山狩りにも手を出さねばならない。それならば、勝手にさせておく方が国としては楽なのだ。

 少数民族らもまた、後からできた国の者に手出し口出しされるのは我慢ならない。

 彼等は互いの思惑があって今の状況を受け入れていた。

 けれど、ラエティティアにとってはそんな生活が苦だった。

「利用される生き方が気に入らなかった。わたしはエルフとしては逸れものだったの。……それに、ある人たちと出会ってから外の世界へ行くことに憧れた。もちろん反対されたわ。でも、出てみたかったの」

 一人で生きていくのは大変なこともあったようだが、幸い冒険者として働けた。

 最初はフェデラル国へ行き、それからぐるりと巡ってシュタイバーン国へと戻った。

 その際に、小さな町の養護施設でキアヒとキルヒを見付けたそうだ。

「親に捨てられた二人はひねていたわね。でも戦争孤児のようなものだし、デルフとの国境付近だともっと悲惨な子はいたの。幸い二人はシュタイバーン国側の施設だったから、ましだったのよ。そうは言っても子供って自分の世界しか見えないものだから」

 自分が一番不幸。そう思って養護施設を何度も脱走したらしい。ラエティティアは養護施設からの依頼で彼等を探し出しては戻すということをした。

 そのうち小さな双子たちは冒険者になりたいと言い出した。

「そんな簡単になれるものじゃないわよ、って突き放したのだけど……諦めなかったのよね」

 溜息を吐いて、彼女は微笑んだ。

「女一人の冒険者家業は大変だろうから俺たちがついて行ってやるよ、だなんて言ってね。どこか、わたしと通じるものがあったのかしらね。好かれちゃって」

 彼女についていくと子供ながらに決めたらしい。

 ラエティティアは自分で「魔性の女だからかしら」などと言って笑う。そこに声が割り込んだ。

「ばーか。何が魔性の女だよ。あとな、好きでついていったんじゃないぞ」

「あら、じゃあどうしてなのよ」

 キアヒは生い立ちをバラされたのに気にしていないようだ。ラエティティアの頭をコツンと叩いて、シウを挟んで座った。そしてシウ越しにラエティティアへ顰めっ面をする。

「ティアがあまりにも常識知らずだったからだろ。のほほんとして、仕事も適当だったじゃないか」

「あら、そうかしら」

「そうだよ。浮世離れしてるっていうかさ。キルヒも『あのお姉ちゃん、チンピラに襲われちゃうよ』って心配してたんだぜ」

「失礼ね。冒険者としては大先輩よ」

「でも、ふーらふらしてたじゃねえか。買い物の時もボラれてたしな。チンピラどもに拐われかけたの何回あるんだよ」

「そうねえ」

 三人の、当時の出来事を想像すると面白い。ラエティティアはきっと、今の調子でぼんやり歩いていただろうし、頭の良い双子たちはやいのやいのと注意したのだろう。

「値切るってことを知らなかったからな、ティアは」

「そうね。今では得意よ?」

「自分の服だけだろーが。頼むから、装備や食料もちゃんと値切ってくれ」

 それからも、脱走した自分たちをちょうちょ結びで縛って連れ帰るというラエティティアの適当さについて語りながら、キアヒは過去を懐かしんでいた。








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四巻発売にあたって、何か面白いことをしようと編集さんから提案が上がってます。

皆さんは何がいいですか?

たとえば朗読会はどうか、なんて話もあります。朗読会って絵本や詩しか思いつきませんので、どの部分を抜粋するのかや、あるいは好みのキャラの(投票する?)新たなお話など、いろいろあると思います。朗読以外でも何でもOKです。

必ずできるとは言えませんが、今後の勉強にもなりますので、よろしくお願いします。

コメントは、近況ノートの四巻用ページに書いていただけたら助かります。感想欄使うのまずいかもしれないので。お手数かけますが、ちょっくら考えてやろうじゃないのという方はよろしくどうぞです!

https://kakuyomu.jp/users/m_kotoriya/news/1177354054887982157

近況ノートへのアドレスです。


追記:

たくさんのアイディアをいただきました。

皆さん、本当にありがとうございます。

こちらは締め切らせてもらいます。ただ、こういうことがあったということで、次回の修正更新まではこのままにしておきますね。


追記2:

せっかくのご意見だったんですが、今回は見送ることになりました。

力及ばず申し訳ありません。編集さんも頑張ってくださったようですが……

しかし、いただいたご意見は大事にさせてください。

今後にいかしたいと思います。

この度は、いろいろとありがとうございました!!







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