325 騎獣選び
翌朝、養育院前でキアヒたちと落ち合った。
ラエティティアは眠そうな顔をしていたが、他三名は機嫌が良さそうだ。
「いよいよ、俺たちも騎獣持ちか!」
などと張り切っている。もっとも、
「俺たちより充実してるパーティーがいるけどね」
キルヒがチラとシウを見る。この日はレオンも来ており、彼の抱くエアスト、シウの周囲にいるフェレスとブランカに視線を移す。
「君たちのパーティーの充実ぶりには羨むより呆れるよ」
「あはは」
実はククールスにも騎獣のパートナーができたのだと教えたら、もっと驚くだろう。
更には。
「なー、早く行こうぜ。あいつら待ってるから」
ロトスが呼びに来た。彼が聖獣だと知ったら、どう思うだろう。
呆れを通り越す? 想像すると面白くて内心で笑ったシウである。
中庭にはプリュムもいた。真っ白い姿なので、自己紹介されずとも上級冒険者であるキアヒたちには彼が聖獣だと分かるはずだ。
はたして、彼等はギョッとした顔をして立ち止まった。
「あ、この人たちが引き取ってくれるの?」
プリュムは、たたたと軽やかに近付いてきて、可愛らしい仕草で首を傾げる。彼は表情も豊かで聖獣の中では、より人間らしい。しかし、なにしろ全身が真っ白だ。顔は美麗で体は逞しい青年が、子供のような可愛らしい仕草というのは割りと違和感がある。
というのも、ロトスがよく零すからだが――。
(なー、こいつ、後ろから頭をどついてもいいかな?)
(えっ、なんで? そこまでひどくはないよね?)
シウも毒されてきた感はあるが、そこまでではないだろうと思う。
二人がこそこそやり取りをしている間に、プリュムはキアヒたちにニコニコと話しかけた。
「こんにちは。僕、プリュムっていいます。ここにいる子たちにマナーを教えたりしたので、もし変なことをしたら言ってくださいね!」
「あ、はい。いや、あの……。は?」
「キアヒ、落ち着いて。精神魔法使って」
「あ、ああ。そうだな、キルヒ、ありがとよ」
双子が珍しく狼狽する中、何故かラエティティアが小さく舌打ちしていた。
シウがそちらに近付くと、彼女は小声でシウに愚痴(?)をこぼす。
「ねえ、聖獣がいるならいるって教えておいてよ」
「言ったよ? 養育院でロトスと一緒に騎獣の社会勉強を――」
「大体、なんなの。この反則的な姿は」
「ええと?」
「……わたし、美しさで負けるのはハイエルフだけだと思ってたわ」
「あー。うん、えーと」
(シウ、そこで『君の方が美しいよ』とか言えないからダメなんだぜ)
こちらの会話を聞いていたらしいロトスが口を挟んできた。けれど、もう遅い。
「シウ? こういう時は嘘でも『ティアの方が綺麗だよ』って言わなきゃダメよ。それじゃ、女性にモテないわ。分かった?」
「あ、うん。はい。分かりました」
素直に謝ったシウである。
この間、グラディウスが何をしていたのかというと。
「剣合わせぐらい、いいじゃないか」
「しつこい男だね。あんた、一度で止めないじゃないか。大体ここへは騎獣を選びに来たんだろう? そっちを優先しな」
「だから、その後で」
「騎獣の慣らしはどうするんだい? あたしにそれまで待たせるってのかい」
「じゃあ、先に」
「あのねえ、今日の用件の第一はなんだい? あたしだって、やることはあるんだ。なんでも聞いてもらえると思ったら大間違いだよ」
というやり取りをずっと続けていた。門前では邪魔なので、職員のピットが注意してようやく中庭まで来たが、まだ言い合っている。
なんだかんだでアントレーネも打ち合いは好きだから、そのうち絆されて付き合うのだろう。こちらは放って置く。
温室には老獣たちが集まっており、中庭の様子を楽しげに見ていた。
今日、騎獣十五頭から四頭が引き取られていくことを知っており楽しみらしい。彼等にとっては遠い過去に経験した出会いの追体験でもあるのだ。
少しずつ春の兆しが見えるため温室の扉は開けられている。
だから「良い主と出会ってほしい」「懐かしい、あの頃を思い出す」。そうした言葉がそこかしこから聞こえてきた。
若い騎獣十五頭は、いつもとは違って緊張しているようだった。
「大丈夫だよ。山賊に飼われていた時のような目には遭わないから」
シウが話しかけると、ぐいぐいと頭を擦り付けてくる。以前からすれば、かなり手加減されていた。山賊とは親しく接することはなかったから、ここへ来て人間と慣れ親しんだ彼等は力加減が大雑把だった。これもプリュムとロトスが教育して覚えたものだ。
成長したな、と思う。
一列に並んだ騎獣の前をキアヒたちはゆっくりと歩いていく。見定める、というよりは「誰が俺と合うかなー」と楽しげな様子だ。
キアヒ、キルヒはにこにこと笑い、グラディウスは真面目な顔をして見ている。ラエティティアは腕を組みつつ片手を顎に当てるという格好で、小首を傾げながら歩いていた。
「がさつな子は嫌よ?」
と呟いて、興味津々のフェンリルをあしらっている。
端から端まで見て回ると、大体お互いに感じるものがあったようだ。
それぞれ数頭ずつと話をしたいようなので、
「遊んでみたらどうかな。それに四頭の相性もあるだろうし」
と提案してみた。
シウの言葉に、四人ともそれもそうだと思ったらしく、ピックアップして詰めることはせず自然に任せてみようということになった。
その間、シウたちは温室側へ引っ込む。
ロトスがやって来て、小声で、
「合コンだよな、まるっきり」
と言うものだから、気になったプリュムに「合コン」とは何か追求されていた。
「地獄耳!」
「僕は聖獣だもの」
ふふー、と笑うプリュムは「地獄耳」の意味も覚えたらしかった。どうやらロトスに、かなり庶民の言葉を教えてもらっているようだ。
念のため、あんまり悪い言葉は教えないようにねと注意した。
見た目が美麗で、しかも王子のパートナーでもあるプリュムだ。いくらスヴェルダがくだけた物言いをする王子だとはいえ、冒険者風の言葉を覚えさせたらまずい。
シウの注意に、
「分かってるってー。でな、合コンっちゅうのはだな――」
とロトスは話し続けていたが、絶対に分かっていない気がした。
騎獣にも仲の良いグループというのはあって、三つほどの輪になっているところへキアヒたちは交ざった。
話をしたり追いかけっこをしたりと、ぎこちないながらも遊んでいる。
騎獣と遊ぶ、という行為が分からないらしいので途中でボールを投げ入れるなどしてみた。
跳び箱ごっこも楽しいのだが、ここでやるのもどうかと思って自粛だ。
シウたちのやる遊びは少々激しいらしいので、山賊に飼われていた騎獣十五頭には控えめにしている。マナーを覚えて身についた後なら構わないだろうが今はまだ難しい。
ボールを必死になって追いかけて周りが見えずにぶつかる騎獣もいるぐらいだ。
跳び箱ごっこに股くぐり、風属性魔法の階段上りなんてものは危険だろう。
ちなみに跳び箱ごっこはその名の通りで、フェレスやブランカに跳び箱をやってもらうだけだ。ただ、その体のどこかを支点にして飛び上がるのだが、跳び箱役も飛ぶ役も常に動き回るので運動量がすごい。フェレスがブランカを飛び越えることもあるし、その逆もある。魔法は使わずに、というのがルールだ。
股くぐりも同じだが、これは騎獣同士ではできないので、主に人間のシウと小さいクロがスライディングの要領で抜ける。互いに走りながら、ぶつからないように抜けるのは至難の業だ。ロトスも小さい頃からやっているので慣れている。
風属性魔法の階段上りはシウの空間壁を模したものらしく、フェレスが塊を作って足場にしていた。方向転換の際にも使うので彼の得意技だ。ブランカはまだ自前で作れずフェレスにねだって壁を作り、そこを足場にしていた。ただ、あくまでも風魔法なので、強く押しすぎると突き抜けてしまう。自分でもきっちりと風属性魔法により補助を付けないと難しいのだ。細かい作業なので今の所自在に使えるのはフェレスとクロだけだった。最近ロトスも上達してきている。
これらは狭い場所でもできるのでブラード家の裏庭でよくやる遊びだった。
縦に遊ぶ方法は他にもたくさんあって、彼等の想像力は逞しい。
こうしたことも徐々に覚えて、騎獣たちにも「獣性の楽しみ」を見付けてもらいたいものだ。
何度か手助けしたり口を挟んだりしたものの、昼過ぎには各自で良い相手を見付けられた。
十五頭全体で見ると仲が悪いという騎獣はいなかった。けれど、できれば仲良しグループが良いだろうという結論に至ったようだ。
最終的に、キアヒとキルヒが第二候補の子にし、グラディウスとラエティティアが第一候補の子たちの仲良しグループに決めた。四頭ともフェンリルだ。
そこも選んだ理由のひとつらしかった。
ドラコエクウスは頑丈だが体高があるので目立つ。また、辺鄙な田舎の宿だと泊められないところもある。もちろん野宿をする冒険者だから外へ繋いでおくこともあるだろう。けれど、ある程度の村や町で繋いだだけというのは盗まれる危険性もあって難しい。
世話も少々大変と言えば大変だ。
そうしたことを踏まえてフェンリルにした。もっとも、犬好きでもあったようで――。
「わたし、主に忠実な犬が欲しかったのよね」
ラエティティアはツンとした顔のまま、手でフェンリルの首元を撫でていた。
猫っぽいイメージのある彼女は、どうやら猫型より犬型でもあるフェンリルが気になっていたようだ。可愛いところがあると、シウは笑った。
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コミカライズ版が、27日に公開されました。
ニコニコ静画→http://seiga.nicovideo.jp/comic/35332?track=list
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エミナとアキエラが可愛いっす!
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