313 採掘と石自慢




 二十キロメートル先で《探知》通り大きな鉱床に当たった。

 ロトスやフェレスたちの意見を取り入れて、彼等が気に入る色のものを探す。

「真っ赤なのと、ピンクね。紫は嫌なの? ふうん、分かった」

 《探知》の精度を上げ宝石の色を中心に探してみる。

 幾つかの込み入った通路を作ることになったが、おかげで良い場所へ着いた。

「よし。じゃあ、このへん探してみよっか」

「にゃ!」

「ぎゃぅぎゃぅ」

「きゅぃ~」

 各自嬉しそうに、大きな広場となった場所で壁へ張り付く。探しやすいように、ギリギリまで削ってみた。

 何故かロトスが不満そうな顔だ。

「どうしたの?」

「……トンカンしたかった」

「あっ、ごめん。そっかそっか」

「あ、待て。戻すな。やめろ」

 慌てて止められた。

「こっちのが探すの便利だし。お膳立てが凄すぎて引いたけど」

「だって」

 掘るのが大変だろうと思ってここまで来たのに。そんな気持ちが現れたシウの顔を見て、ロトスは溜息交じりに答えた。

「わーってるって。フェレスたちにトンカンはできねえ。あ、ほら、呼んでるぞ」

 誤魔化されたような気がするが、呼ばれているのでフェレスのところへ行った。

 彼等は素直に喜んでいる。

 これがフェレの、こっちはぶーたんのなの、と騒がしい。クロも鳴きはしないものの踊りでアピールしている。

 シウはしばし、彼等と宝石の掘り出しに勤しんだ。


 各自が楽しい時間を過ごし、一度町へ戻ることにした。この日は町で泊まることにしているので、ゆっくりだ。

 一応、予定通りに鉱山ギルドでも「大型鉱床らしきものを発見した」という報告は済ませた。

 ただ、具体的な場所は報告していない。大体、東方面、突き当りの場所で発見したとだけ告げている。

 本職しか入れないと言われる、北側への地下坑道は塞いでいるため、ギルド職員は冗談だと思ったらしく「はいはい」とスルーして終わった。


 宿に入ると早速、自慢大会だ。

「おー、フェレスのは大きくて真っ赤だね。カットしたらもっと綺麗になるよ」

「にゃ! にゃにゃにゃ~」

「ぎゃぅっ、ぎゃぅぎゃぅっ」

 ぶーたんのも見て、と言ってくるので、皆でブランカの選んだものを見た。

 ロトスが微妙な顔をする。

「お前はまた、価値関係なく選んでるな~」

 カットしたらどうなるか、など彼等は考えない。掘り出したものの断面が綺麗なものだけを感覚で選んでいるのだ。ブランカは灰色の石と混在するキラキラ光った大きな石ころを持って帰ったようだ。宝石を取り出しても、小さな粒にしかならないだろう。けれど、彼女にとってはこれが良かった。

「断面が綺麗だね。これを床に敷いて寝ても良いんじゃない?」

「ぎゃぅん!!」

 そうなの、と嬉しそうだ。ブランカの選んだものは、大きくて宝石混じりが多かった。

 クロは、フェレスと同様に吟味してきたようだ。きちんと中身が宝石であると考えて拾っている。

 シウに、ここを採掘してほしいと頼む時も明確に場所を示していた。

「ピンクや淡い紫が多いね。これもカットしたら綺麗だよ」

「きゅぃ!」

 宝石屋では淡い色は価値は低いと言われたが、こういうものは好みなのだ。希少獣にとっての価値は、どれだけ惹かれるか、ただそれだけである。


 聖獣であるロトスの選んだものは、濃い青色のものだった。

「サファイアだぜー、へっへー」

 この地では赤や紫が多く出てくるそうだが、実は青色の石も出てくる。希少らしく宝石屋でも置いていないと言っていた。

「青ばっかり探したんだ?」

「青系は持ってなかったからなー。シウに買ってもらったのとか、イグ様んとこのは赤系多かったもん」

 どうよどうよ、とフェレスたちに自慢している。

 フェレスは「ふーん」という顔をしているが、ブランカは「それもいい!」と目が輝いていた。彼女の場合は人が持っていると興味を示すので、いつものことだ。クロは、良いの見つかって良かったね、と大人の対応である。

「これなんて、絶対に大きい石に違いない!」

 期待に胸を膨らませているようだが、断面で奥行きを想像したらしいものの、シウの空間魔法で確認したらそうでもなかった。

 本人に告げるのが可哀想で、カットしてと頼まれるまでは黙っていようと思う。

「シウのは? 通路作るのにあっちこっち採掘してたし、持って帰っただろ」

 ロトスは青い断面の石たちをニヤニヤ眺めながら、シウにも話を振った。

 もちろん、持って帰っている。

「あるよ。見る?」

「見る見るー」

 フェレスたちもワクワク顔だ。尻尾をふさふさ、ブランカとクロも前のめりで近寄ってきた。

「僕はねえ、変わった色のを見付けてきたよ」

 石に対して詳細な《探査》も掛けたので、中がどうなっているのかも分かっている。

「こっちがね、オレンジ色っぽいの。ピンクなんだけど、オレンジに近くて変わってるでしょ?」

 ピンクはピンクでも、オレンジがかったものが固まっていたので丸ごと持ってきた。その中でも一際綺麗に見える石を取り出す。

「うわ、マジでオレンジっぽい。綺麗だな、おい」

「にゃー」

「ぎゃぅぅ」

「きゅぃぃ」

 皆、うっとりしている。

 シウは更に、これはどうだ、と取り出してみた。

「更にオレンジが強いのがコレ」

「おお!」

「で、これがイエローの強いやつ」

「おおおお!!」

 皆、大興奮だ。にゃーにゃー、ぎゃぅぎゃぅ、きゅぃきゅぃ、と騒ぐ。

 シウは笑いながら、最後の大物を取り出した。

「はい、最後にコレ。金色に輝く石だよ」

「うおーっ!!」

「にゃにゃにゃにゃ!!」

「ぎゃぅん!!」

「きゅっ!?」

 ロトスに釣られたのもあるだろうが、フェレスたちも飛び上がるほどに驚いていた。

 実際、切り取った時の断面が絶妙だったせいか、他の石と違って綺麗に光が反射しているのだ。カットすれば、もっと美しいだろう。

「うおおお、すげえなぁ」

「こういう色のもいいよねー。ここは赤紫系が多いらしいから、きっとゴミ扱いなんだろうけど」

「こんな綺麗なのにな。勿体ないぜ。でも、おかげでごっそり持って帰れるじゃん」

「そだね。カットも気負いなく試せるし、いいよ」

「なあなあ、余ったやつで何か作ってくれよー」

「いいよ。いつも見られるように、腕輪にしようか」

 するとフェレスたちも、石を嵌めた腕輪が欲しいと騒ぎ出した。邪魔になったりしないのだろうかと思うが、本獣たちがいいのならと了解した。


 晩ご飯を食べ終わっても宝石の話は尽きず、希少獣たちはキャッキャといつまでも楽しそうだった。


 シウはそろそろ飽きてきたので、一人で削り出しをやったりと、部屋でできることをして時間を潰した。

 宿は希少獣と一緒に泊まれる大部屋を借り切っているため、本棟からは離れている。部屋にも結界を張っているため、迷惑はかけていない。

 つまり、シウなりに大丈夫だと思って作業をしていたのだが。

「シウさー、こんなとこ来てまで、そういうことすんの止めろよ」

「えっ」

「楽しい旅行だぜー。みんなで楽しんでんだから、個人行動、しかも石削るとかナイだろ」

「……いやでも、石の話ばっかりで」

「んじゃ、シウから話題振れよな。なー、フェレス」

「にゃ!」

「ほら!」

「いや、今のフェレスは、特に意味のない――」

「いいんだっつうの! ほれ、元引きこもり、こっち来て語り合おうぜ!」

「ぎゃぅぎゃぅ!!」

 ブランカが意味も分からず、かたりあおーぜー、と真似る。

 シウは諦めて、作業の手を止めた。


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