311 飲み会のカオス




 エサイフはもう少ししたら、デルフ国へ行くと話した。

「きな臭いところなのに?」

 彼は傭兵ではなく冒険者だ。それなのに何故と思ったのだが。

「勇者がなぁ。ちょいと心配なんだよ」

 シウが首を傾げると、彼は小声になった。他の者たちは騒いでいて聞いていないようだが、シウはさりげなく遮音のために空間壁で囲んだ。

「もう成人してるんだし、俺の出る幕じゃねえって思う。でもまあ、次の仕事も決まってないしな」

「もしかして、素直すぎて人の裏が読めないとか?」

 シウが話を振ると、エサイフは目を丸くした。

「……どこかで聞いたか?」

 神様から聞いていたとは言えず、シウは別の視点から告げた。

「噂でニーバリ領でのことを聞いたんだ。あそこの次代、跡継ぎとはシーカー魔法学院で少し関係があって、知ってるんだけど……。僕には噂通りの行いをするようにはとても思えない」

 手をついて謝り、泣く泣く父親を幽閉するなどという性格ではなかった。

 もしかしたら、性格が変わる可能性だってある。けれども、それが期待できるような事態は起こっていないと思っていた。

 はたして。

「なるほどな。知っているから、か。いや、実は俺もベニグド=ニーバリの言うことは信じていない。いくら実権は父親が握っていたとしても、後手に回りすぎている。まるで、それを待っていたかのような動きだった。勇者には軽く進言もしたんだが、どうも、な」

「ベニグドは話が上手いらしいからね」

 ガーディニアも彼のことを胡散臭そうにしながらも騙されていた。ベニグドは自らの手を汚さないタイプだ。今回のことも証拠はないのだろう。けれど、父親だけが悪かったとはエサイフも思っていないのだ。

「確かに、やつの話は出来すぎだった。俺のは勘だが、どうにもこうにも信用ならんので早々に離れるつもりだったが――」

「勇者が心配で最後まで一緒にいたんだね」

「まあな」

 シウが、優しいねという視線で見るとエサイフは照れくさそうな顔で笑った。

「まあ、こういうのも、俺たちの役回りかなと思ってる」

「役回り?」

「ああ、そうさ。師匠がな、ヴァスタ殿のことをよく話してくれた。……お前さんの育ての親はな、そりゃあすごいお人だったよ。自然と誰かを助けている。正しい道を見つけ出す人だった。師匠もそれを真似ているのだと俺に言った。俺もまた師匠のように、なりたいんだ」

「……偉いね」

「いや、まあ。って、随分年下のお前さんに言われると、なんだか妙な気分だが。不思議と嫌な気持ちにはならねえな。面白いもんだ。やっぱり、育ての親がヴァスタ殿だからかね?」

 シウの場合は元々が記憶を持って生まれたものだから、ついつい年上気分でいるだけだ。最近は出ないようになっていたが気をつけよう。

「どうかな。でも、お爺さんっぽいってよく言われる」

「ははは」

 その後は、デルフ国の話題になった。

 デルフ国から人質交換で王子が来ている、その事情についても彼は知っていた。

 エサイフの情報収集力は素晴らしく、デルフ国のことは王子のスヴェルダよりも詳しいのではと感じたほどだった。


 シウがエサイフと話し込んでいる間、他の皆が何をしていたのかというと。

「お前さ、若いのに上手いことやったな。今じゃ、シウのパーティーに入れるってな、すげえことなんだぞ。分かってるのか?」

「あ、ああ」

「しかも、卵石まで手に入れてよう!」

「そうだな」

「くそっ、羨ましいぜ! 俺も猫が飼いたい~!!」

「なあなあ、レオン。そいつ酔っぱらいだから真面目に相手しなくていいんだぜー」

「あ、ああ、そうか。……助かった、ロト、ス」

 感覚転移するまでもなく、近くにいたので会話は聞こえてきていた。

 ロトスはレオンの態度にはもう言及するつもりはないようで、酔っぱらいを押しのけた場所に座り込んだ。

「こいつら、寂しいやつなんだ。彼女もいねえし。でも、あんま哀れんだ顔すんなよ」

「え? ああ……」

「モテない男の悲哀ってやつだよ。猫飼うとか可哀想すぎるだろ」

「いや、あんたの方が哀れんで……」

「いいか。お前、イケメンだからって彼女をほいほい作ったりするなよ?」

「……は?」

「俺はなあ――」

 どうやらロトスも、酔うはずはないのに場に酔っているようだ。何故レオンに絡みに行くのか分からないが、シウは彼等のことは放っておくことにした。


 アントレーネは相変わらず「誰が一番飲めるか」コーナーで張り切っている。今日はグラディウスを貼り付けていたが、気にせずノリノリだ。

「よっしゃー、ルスツを下したぞ!」

「次は誰だ、誰が残ってる?」

「俺だ!」

「お前は見ない顔だなあ。おっと、ガスパロさんが残ってるぜ。さすがだ」

「あたしゃ、まだ飲めるよ!」

「俺、俺も!」

「兄ちゃん、誰だよ。まあ誰でもいいか。おい、次、賭けるぞ」

「だから、俺も!」

「うるせーよ!」

 本当に煩いなと、シウは飲み比べコーナーを見て半眼になった。


 キアヒはククールスと気が合うのか、同じく若くて軽い感じの冒険者たちと話し合っている。

 エサイフとの会話を終えたシウが近付くと――。

「だから、それじゃ、女は落とせねえよ」

「でも、今までは黙って立ってても来てくれたから~」

「エルフは気が長くていけねえな。待ってるだけじゃダメだ。俺らの時間は短い」

「キアヒさん、俺にも教えてくれよ」

「俺も俺も!」

 まあ待てよ、と手で制し、キアヒは滔々と語り始めた。

 なんだか聞いても仕方ない気がして、シウは離れていった。


 キルヒの周りにはユリアナとカナリアがいた。

 他にも女性冒険者が集まっている。キアヒならともかく何故キルヒなのかと思ったら、彼は真面目に冒険者とは何かと講義していた。

「うちのパーティーにも女性がいるからね。女性が大変なことはよく分かるよ。ギルドでも女性がいるいないを把握して指名依頼を出すと、いいんじゃないかな」

「そうよね。被害者に女性がいる場合は、気を遣うわ」

「あたしたちも男どもには任せられないからね」

「連携しようよ。パーティーの垣根を超えてさ、あたしたちで情報共有しない?」

「あ、じゃあ、ギルドの職員としてわたしが取りまとめましょうか」

「それいいね!」

「ねえ、キルヒって言ったよね。もっと教えてよ」

「いいよ。じゃあ――」

 真面目なようなのだが、女性の目がなんとなく獲物を狙う目つきのようにも見え、怖いと思ってしまったシウである。


 なんだかカオスだなと思って、フェレスたちの様子を見ようと庭に出てみる。すると、ラエティティアを見付けた。

「ティア、ここにいたんだ」

「ちょっと飲みすぎたわ。それに、みんな煩いんだもの」

「寒くない?」

「魔法をね、ちょちょいのちょい、よ」

 頬が赤くなり、酔ったような顔ではあるが魔法はきちんと使えるらしい。

 シウが空間壁を作り上げ中を温めるとラエティティアはほうっと息を吐き、微笑んだ。

「フェレスとブランカに引っ付いちゃおうかなーと思ってたけど、シウの方がいいかしら?」

 そう言うなり、本当にシウの傍へ来てくっついた。

 かなり酔っているらしい。

 シウは苦笑しながら、フェレスとブランカを呼んだ。二頭とも食事はもう終えている。まったり気分だったらしいがシウが呼ぶと途端に飛んできた。

「にゃにゃ!」

「今日も頑張ったね~」

「ぎゃぅぎゃぅ」

 そうなのそうなのと言っているが何も分かってないような気がする。

「ティア、フェレスとブランカが来たよ?」

「うーん。じゃ、一緒に引っ付いちゃおう。フェレスー。あんなに小さくて可愛かったのにー、どうしてー」

「にゃ……ぁ」

 えー、と不満声だ。お酒臭いので嫌なのだろう。反対にブランカはお酒くさーい、と言いながらも平気そうだ。

 お酒を飲む冒険者が食べ物をたくさんくれる、と彼女の頭にはインプットされている。ブランカにとって食べ物をくれる人はイコール良い人なのだ。

「ぎゃぅぎゃぅ」

「あら、あなたは最初から大きかったの?」

「ぎゃぅー」

 会話になっていない。これは本当に酔っ払いだ。シウは首に回っていたラエティティアの腕を外して、ブランカのお腹あたりに載せた。

「ティア、ここ、温めてるから休んでて。フェレス、見てくれる?」

「にゃ」

 いいよ、というのでラエティティアのことは彼等に任せることにした。







**********



もうないと思いましたよね?(書き忘れていただけですが)

引き続き、もうちょっと宣伝させてください。


拙作「魔法使いで引きこもり?」三巻が出ております。


「魔法使いで引きこもり?3 ~モフモフと飛び立つ異世界の空~」

出版社: KADOKAWA (2018/10/30)

ISBN-13: 978-4047353664

イラスト: 戸部淑先生


辺境伯領へ遊びに行ったり、フェレスの飛行訓練風景、学祭・合宿と平和な中にもちょっとしたエピソードが入っております。

キリク視点の番外編もあり盛り沢山です。

どうぞよろしくお願いします。





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