309 グループ分けとスパルタ




 シアーナ街道までは、なんとか無理して二時間ほどで到着した。

「やっぱり、時間かかるね」

「こいつらと、フェレスを比べたら可哀想だろー」

 ロトスは何やら親気分で、しょんぼりしたフェンリルやドラコエクウスたちを慰めた。

「お前らは悪くねえぞ。落ち込むな」

「がるるるる」

「よしよし」

 騎獣に随分懐かれているので、後は彼に任せる。

「訓練がてら、山に入ってきてくれる?」

「おう。あ、でも、フェレスかクロを借りていい? 見張り役が欲しい」

「いいよ。どっちが……」

 行くか聞いてみようと思ったが、クロがロトスの肩に乗った。

 フェレスはどうするつもりだったのかと振り返ると、

「にゃ?」

 なんですか、みたいな顔をする。行く気はなかったようだ。

 シウは笑って、クロとロトスたちを送り出した。


 残った面々で、ミセリコルディアにある街道付近の魔獣討伐だ。

 上級冒険者が少ない状態なので、ミセリコルディア近辺の見回りが手薄になっている。

 キアヒたちにとっては儲けの少ない依頼になる。が、こうした時のための上級冒険者でもあるのだ。彼等も義務については理解しており、参加してくれた。

 せめて、彼等の騎乗の訓練にもなればと思い、フェレスとブランカに乗ってもらう。

「フェレスにグラディウスと、アントレーネだっけ? を乗せるのか?」

「重くないかな」

 キアヒとキルヒが心配そうだったが、これはフェレスのためでもある。

「竜人族の成人男性二人を乗せて飛んだこともあるから大丈夫だよ。訓練だからね」

「そうか。じゃあ、任せるわ」

 アントレーネたちは交代で前後入れ替えて上空を飛ぶ。

「ブランカにはキアヒたちが乗って」

「お前らは?」

 と聞くので、シウたちは飛行板を見せた。

「それか。いや、気になってたんだよな。あー、俺もそっちがいい」

「そう言うかなと思ってた」

 シウが笑うと、キルヒがキアヒの肩をバンバン叩いていた。

「俺とティアがブランカに乗るよ。ブランカ、よろしくね」

「ぎゃう!」

「あら、可愛いわね。よろしく」

「ぎゃうん!」

 可愛い、が自分の名前ではないと知ってからも、ブランカは「可愛い」が自分の名前のつもりだ。最近は言われなくなったので、嬉しかったようだ。ぐねぐねして、尻尾をラエティティアに巻き付けていた。


 残ったのはキアヒと、シウにククールス、レオンだ。

「飛行板による上空からの支援を受けつつ山中に入っていく、って形でいい?」

 キアヒからは今回の仕事はシウがリーダーだと言われている。この地を、彼等よりも知っているからだ。

 実力的にもそっちが上だろ、と素直に言うあたり、キアヒは冷静だった。

 もちろん経験的にはキアヒが上だとシウは思っている。

 でも時と場合によって引くことを知っているのは、それこそが強者の証だ。

「それより、シウ。先に飛行板の乗り方指南じゃないか~?」

 ククールスがのんびりと言う。彼も上級冒険者だが、気質的にリーダーは無理らしいのでシウがパーティーリーダーである。

「それそれ。ギルドで試させてもらいたかったんだが、余所者が割り込むのもと思ってなー」

 キアヒがぼやき口調で返した。

 皆、一通りの自己紹介は往路の上空で済ませている。ククールスがルシエラ王都の冒険者ギルドでは有名なことも、冒険者らしい冒険者で敬語を必要としないこともキアヒは知っていた。もとより、冒険者は敬語など使わないが。

「訓練所、いつも満員だからね」

 シウが返すと、レオンが、

「俺、さっき冒険者の奴に乗り方教えてくれって言われたぞ」

 などと言う。レオンにも飛行板を渡しているため、それを見た誰かは彼も乗れると思ったのだろう。でもレオンはまだ、それほど上手ではない。だからか戸惑い気味だ。

「じゃあ、ククールスがキアヒに付いて教えてくれる?」

「ま、そうだな。こっちの方が早く覚えるだろ。レオンは卵石も抱えてるから、シウと一緒の方がいいだろうしな」

「うん。僕はレオンと先へ進んでる。後から追いかけてきて」

 と、ここでも分かれることになった。

 キアヒは表立っては卒なく誰とでも付き合えるだろうし、ククールスもマイペースとはいえ冒険者として立派にやっている。お互いに問題なくクリアしてくるはずだ。

 ただ、レオンはまだ若い。冒険者の仕事としてもペーペーだ。何かあった時に、一番親しいシウが傍にいると安心だった。

 レオンもそれは分かっていて、済まなさそうな顔をした。

 シウは気付かないフリをして飛行板を取り出した。

「さあ、練習がてら行こうか」

 レオンは神妙な顔で、頷いた。二人だけという状況と、卵石を抱えていることへの緊張感からだろう。



 街道の入り口付近に、魔獣はいなかった。

 上空からの偵察班が時折通信で連絡してくるが、足跡もないらしい。

 せっかく来たのだから討伐はしておきたいと考え、もう少し奥へ進むよう指示した。

 ロトスたちは更に奥へ向かっているようだ。乗り手がいないので気楽なものらしい。楽しそうに山中を走り回っているとか。

 クロがこうやって飛べば良いんだよと教えていて、《感覚転移》で視ていたシウは笑った。ロトスが慌てて、

「あれは特別な飛び方だぞ、お前らにはまだ早い」

 と止めるような内容だったからだ。


 キアヒとククールスの様子も視たが、こちらも当初の考え通り、すぐに飛行板の乗り方を覚えていた。

 レオンが山中では上手く飛べないので、そのうち追いつかれるだろう。

 山中での戦いの経験が少ない、というのも差になる。

「レオン、そこに採取できるものがあるよ」

「分かった」

 飛行板から飛び降りて、岩場を足がかりに駆け下りる。飛行板をすぐ手にとって背中の専用スペースに入れるのも慣れてきたようだ。

 卵石に干渉しないよう作ってあげたものだが、最初はこわごわ使っていた。今日のためにちゃんと朝晩に練習していたらしく、すぐ使えるようになっていたが。

 採取を済ませると、足場となるところまで駆け上がってくる。

 それを繰り返しながら山中を進んだ。

 レオンには基礎魔法の無属性がないため、本格的な気配察知の魔法は使えない。が、風属性があるためふんわりとしたものなら掴める。

 その使い方を覚えてもらったり、シウが爺様から教わった「山中で暮らす樵直伝」の感覚を教えたりした。

 一度、本格的に山ごもりをしたなら覚えも早いのだが、レオンは忙しいので難しい。

 少しずつだなとシウは思っている。

 とはいえ、彼からすれば、シウはスパルタらしい。

「ちょっと待ってくれ……」

 何度も飛行板から降りては採取し、また飛行板へという動きに、疲れてしまったようだ。

「でも、その子が孵って、実際に仕事として森へ入ったら同じことが増えるよ?」

 レオンがこちらを向いた。

「フェレスやブランカみたいな、強い子ばかりじゃないからね。あの子たちを普通の騎獣だと考えたらダメだよ」

「ああ……」

「むしろ、こっちが守ってあげると考えて行動する必要がある」

「守る?」

「そうだよ。騎獣持ちだと、危険な場所への仕事を割り振られることもある。それに対処できる力を今のうちから身につけておかないと」

 レオンが真剣な眼差しでシウを見た。

「お互いに怪我をすることもある。そんな時に、山中で隠れながらやり過ごすことだって出てくるだろうね。気配察知は今すぐにでも覚えておくべき能力だよ。魔力も持たない、魔法なんて使えない樵だって覚えてきたものなんだ。彼等は魔獣を倒せなくても逃げる能力はある」

「逃げる、か」

「僕も逃げ方をたくさん教わったよ。爺様から」

 足腰を鍛える木々の上り下り、岩場の進み方。洞穴の確認に、地面を手早く掘る方法。川下り、川上り、なんだって覚えた。

「魔獣が嫌う薬草なんて、そうはない。その場所を一番に察知しておくのも大事だ。さっきから頻繁に採取しているのも目を養うためだからね」

「……分かった」

 息遣いの方法。無になる方法。あれはきっと、魔素を上手に扱う方法だった。

 人間に備わる魔力を、上手く拡散する方法。

 爺様は知っていたのだろうか。

 それとも狩人たちのような者から伝えられてきた、昔の知恵かもしれない。

 魔獣から隠れられる方法だ。

「レオンの限界を見誤ったりしないよ。大丈夫、僕には『視』えてる。だから、頑張って」

「……そうだな。万が一倒れても、お前がいるんだよな。よし、任せたぞ、リーダー」

 レオンは背筋を伸ばして気合を入れると、また飛行板に乗った。





**********



拙作「魔法使いで引きこもり?」の三巻が昨日、10月30日に発売されました。

内容は、フェレスの初飛行編とオスカリウス辺境伯領編、学祭編や演習前の合宿がメインとなっています。


「魔法使いで引きこもり?3 ~モフモフと飛び立つ異世界の空~」

出版社: KADOKAWA (2018/10/30)

ISBN-13: 978-4047353664

イラスト: 戸部淑先生


イラストの参考画像はネット上でも見られるかと思いますが、モノクロイラストもいいですよ。飛竜や飛行に失敗するフェレス、見た目は可愛いシウなどなど。

カスパルも出てきます。カスパルこんな子だったね、と思ってもらえるかと思います。

キラキラしい人や、ボン・キュッ・ボンな方などたくさん出ておりますのでどうぞご覧ください~。


本編も手を加えています。番外編もキリク視点で書き下ろしです。いろいろ頑張ったので読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。




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