308 二つのパーティー




 翌日は、レオンも参加しての冒険者仕事だ。彼は背中に卵石を背負って参加する。

 シウはいつものようにお腹で守っていた。常に《柔空間》で守っているし、シウとしては目につく場所にある方が安心するのだ。ただ、レオンからすれば、ハラハラするらしい。前屈みになるなとか、転ぶんじゃないぞとか、小言が多かった。

 彼の背中にあるリュックの中身は、ほとんどが毛布で埋まっている。もし倒れても大丈夫なように、全方向を守っているそうだ。

 卵石は少々のことでは割れないのだが、彼の珍しくも心配症なところに好感が持てて、シウは黙っている。

 それに、こっそり《転倒防止ピンチ》をレオンのリュックに付けていた。後ろにふっ飛ばされても大丈夫なように。話すと安心されてしまうかもしれないので、シウは黙っている。


 ギルドへ行くと、キアヒたちが待っていた。

「よーう!」

「早いね」

 シウが声を掛けると、ラエティティアがちょっぴり不満そうな顔付きになる。

「どうしたの?」

「早すぎるわよ。それに、ルシエラって寒いわ」

 文句を言う彼女に、キルヒが口を挟む。

「ラトリシア国は寒いからね。でも、シアン国よりマシじゃないかな。それより久々の仕事なんだから」

「はーい。分かったわよ。で、そちらがシウのパーティーメンバーなの?」

 と、視線をシウの背後に向ける。

 シウが振り返ると、目を輝かせたロトスが真っ先に見えた。彼はぶれない。

 レオンは特に態度を変えていないので、比較できてしまう。

 アントレーネもいつもと同じだ。そのアントレーネを見て、グラディウスが目をくわっと見開く。

「剣士か?」

「あたしは戦士さ」

 二人が何やら目で会話して、がしっと握手した。

 グラディウスはアントレーネが背負う大剣が気になってしようがないらしく、名乗りもせずに剣の話を始めてしまった。アントレーネはアントレーネで、グラディウスの剣が気になるようだ。

 なんとなく、そんな気がしていたシウである。

 苦笑していたらキアヒも同様に、頭を掻きながら告げた。

「……あー、うちのが悪い。アレだ。仕事はシウに選んでもらって、挨拶はおいおいってことでいいか?」

「いいよ。こっちは、あと一人、ああ来た」

 ククールスがやって来たことで、シウは早速掲示板に向かった。


 シウたちがキアヒのパーティーと合同で仕事を受けると知って、ギルド内にいた低級冒険者たちが羨望の眼差しだ。

 受付でもユリアナが小声で私語を挟んでくる。

「シウさん、彼等とお知り合いなの? 今度、飲み会があれば呼んでもらえないかな~」

「あれ? でもユリアナさんは勇者が好きなんじゃ……」

 そう返すと彼女は、やだあ、と甲高い声を上げた。

「高嶺の花よ~。それに神子様や、他のメンバーには美人な子がいっぱいいるんだもの」

 どうやら、本当に勇者のことを狙っていたらしい。シウは困惑しつつ、頷いた。

「じゃあ、一応、冒険者同士の飲み会があれば声を掛けるね。でも、僕らだけの場合は――」

「もちろん、分かってます。お仲間同士の話し合いに邪魔するほど、バカじゃないわ」

 シウは笑った。ユリアナもギルド職員としてのマナーは心得ているようだ。

「でも、すごいわね。彼等と知り合いだなんて。エサイフさんたちとも知り合いでしょう?」

「エサイフとは、ここの仕事で知り合ったんだよ。僕の育ての親が、彼の師匠と仲間だったんだって」

 キアヒたちとはロワルで友達になったのだと簡単に説明したら、ユリアナは何度も頷いた。

「冒険者って、そういうことがあるから面白いのよね。街で暮らしているだけでは、そんな出会いってないわ。だから、冒険者ギルドの受付を選んだのだけどね!」

「そうだったの?」

「ええ!」

 晴れやかに笑うと、ユリアナは引き止めてごめんなさいと話を切り上げた。


 他の冒険者たちにも二言三言話しかけられたが、長く引き止められることはなかった。

 ほとんどが、飲み会に来いよ、というような話だった。



 王都の外壁門を出ると、事前に用意していた騎獣に乗って向かうことにする。

 ロトスが朝のうちに引き出してきてくれたのだ。

「一人一頭かよ。すごいな」

「騎乗訓練の調整も兼ねてだから、悪いんだけどね」

 シウがキアヒに答えると、構わねえよと嬉しげに返ってきた。

「こっちも、そろそろ騎獣を持つかって話があったんだ。良い練習になるわ」

 彼の言葉に、双子の弟も笑顔だ。ただ、口にしたのは、

「ティアは一人じゃ無理だと思うから、誰か一緒に乗ってあげてほしいかな」

 だった。

「あら、わたし乗れるわよ」

「寒いし、風も強いのに? 王都よりもずっと環境は悪そうだけどね。それに、騎乗はそれほど上手じゃないよね」

 キルヒは元から表情が笑み顔なのだが目が笑っていないことが多い。パーティーの中で一番冷静な性質だ。そのため、きつめのことも言う。

 ラエティティアは数秒黙って、そうね、とキルヒの言葉に同意した。

「だったら――」

「あたしが一緒に乗ってあげるよ。冬山の騎乗訓練は何度も行ってるんだ」

 シウが手を挙げようとしたら、アントレーネに先を越された。

 何故か隣でロトスがニヤニヤ笑っている。

「あら、そうなの。だったらお願い。でも、この子はどうしようかしら」

 この子、とは一人一頭と考えて連れてきた騎獣だ。

 ラエティティアの視線がこちらを向いたので、シウは下ろしかけていた手を、もう一度上げた。

「フェレスを護衛で走らせるから、僕が乗るよ」

 そう言うと、フェンリルを受け取った。

 ロトスはまだニヤニヤしている。

「じゃあ、出発しようか」

 誰にともなく告げて、フェンリルを走らせる。

 その後を、ロトスが追いかけてくる。彼はドラコエクウスに乗っていた。

 ブランカはアントレーネたちが乗っている。残りは各自、養育院で預けられている騎獣に乗った。先頭はフェレスで、クロともども偵察気分だ。

「……何か言いたいことがあるなら、どうぞ」

 ニヤニヤ笑う割には念話もないので、シウは隣を見た。

 ロトスは、ぐふふ、と妙な笑い方をする。

「振られちゃったなー」

 シウが半眼になると、彼はまだ変な笑いで続けた。

「美味しいところ、颯爽とレーネに奪われちゃったなー!!」

 どうやらシウとラエティティアのことをからかっているらしい。

 別に疚しい気持ちはなかったのだが、ロトスの笑いが気になったので、足を伸ばして進路妨害をしてみた。

「うおっ、ちょ、おいっ」

 普段乗りなれていないドラコエクウスだからか、ロトスは手綱捌きに失敗したようだ。大きく揺らいで後退した。

 シウは素知らぬ顔でフェンリルを飛ばす。

 すると、しばらくしてロトスがひーひー言いながら追いかけてきた。

「おっお前な! なんちゅうことをするんだよ! 落ちたらどうすんだ!」

「《落下用安全球材》持ってるよね」

「持ってても、落ちたら怖いわい!」

「風属性魔法も順調にレベルアップしてるようだし、大丈夫だよ」

「待て。俺の実力を上方修正し過ぎだっつうの。あと、先に言っとくけど、この高さで落ちながら飛行板に乗り移るなんて芸当は無理だかんな!」

「ふーん」

「ちょ、こら、拗ね方が大人げないだろ。分かった、俺が悪かった。あの美人のことではもうからかったりしないから!」

 そこまで言うのなら、シウも大人げない遊びは止めよう。

 決してロトスが言うように、拗ねたからではない。

 それと、大事なことを伝える。

「ロトス、ティアとのことを何か疑ってるようだけど何もないからね?」

 彼が綺麗な女性を見るとおかしくなるのは分かっていたので、先にそう教えてあげたのだが。

 ロトスは酸っぱいものを食べたような顔になった。

「何、どうしたの?」

「いや……。今、冷静に、俺らの会話を振り返ったんだけどさ」

「うん」

 首を傾げつつ相槌を打つと。

「なんか、男の恋人同士が浮気を責めてるような会話っぽくて……」

 ロトスの顔がますます渋くなる。

「不毛だぜ」

 そうだろうか。でも、そう言われると、そうかもしれない。

 シウは曖昧に頷いた。

「これ以上は、手打ちだな。よし、不毛なことは止める! そんなことより、あの子だよ。あんな美人と知り合いとか――」

 そこからは、いつものロトスに戻り、独壇場となった。


 しかし。

 ラエティティアをこっそり鑑定して年齢を知り、ショックを受けるところまでが彼らしいといえば彼らしいのだった。












**********


拙作「魔法使いで引きこもり?」の三巻が本日発売です。

フェレスの初飛行編とオスカリウス辺境伯領旅行、学祭や演習前の合宿がメインとなっています。


「魔法使いで引きこもり?3 ~モフモフと飛び立つ異世界の空~」

出版社: KADOKAWA (2018/10/30)

ISBN-13: 978-4047353664

イラスト: 戸部淑先生


イラストの格好良い飛竜や、失敗してしょんぼりフェレス、上目遣いのシウなど盛りだくさんです!


本編も加筆修正入ってます。自由に改稿させてくれる編集さんは太っ腹。太くないけど(編集さんネタは書いていいと言われているので時々ツイッターで書いてます)。

番外編は完全書き下ろしです。キリクのお話です。(書くのに羞恥心と戦って)頑張ったので、どうかお手にとって読んでみてくださいです。


あー、フェレスに乗って空を飛びたい。







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