287 レオン
金の日、戦術戦士科の授業でようやくレオンと合流した。
「初年度生のレオン=ルッタだ。よろしく」
他にも初年度生が入ってきて、レイナルドはほくほく顔である。別の時間の授業にも二年度生や三年度生が入ってきたらしい。文化祭を見てのことだと言われ、あんなものでも募集に役立つのかと、シウはヴェネリオと顔を見合わせた。
新入生は上級位のクラリーサを中心に教えていくが、この授業は途中参加でも特に問題ない。
ストレッチの方法や体を鍛える基礎だけ説明し終わると、すぐに合流した。
レオンは冒険者としても働いていたし、ロワルの魔法学院でもストレッチはやっていたので他の生徒よりすんなり飲み込めていた。
「シウの友人だと聞いていたが、なるほど最初から高性能とは素晴らしい」
「いや、俺はシウほどおかしくは――」
「ははは! そう言ってやるな!」
レイナルドはレオンの肩をバンバン叩いて笑うと、皆に話を始めた。
「いいか。ここにいるシウはちょいと飛び抜けておかしいが、まあ気にするな。なんでも屋だと思ってくれ。じゃあ、いつもの対人戦の訓練をやって、その後に筋立ての訓練だ」
と、授業を始めてしまったが、シウは大いに不満顔でレイナルドを睨んだのだった。
とはいえ結局、シウはいつものようにレイナルドの指示を受け、体育館の中にある不似合いな材料を組み合わせてシチュエーションに応じたものを制作した。
城塞風であったり、屋敷であったりだ。
その横では皆が対人戦の訓練を行っている。
シウは本当になんでも屋になった気分だった。
昼休みにはレオンから、
「お前、ここでも便利屋扱いなんだな。ロワルでも迷宮作らされてたけど、やっぱり似たようなことやらされてるし」
おかしいって言ってごめんな、と微妙な慰めであったが、シウはもういいよと肩を竦めただけで終わった。
話を聞いていたプルウィアが、ものすごく興味を持ったものの、シウはクレールやディーノたちシュタイバーン組に目配せして口止めした。
彼等もプルウィアに話すのは危険だと察知したのか上手に話を逸してくれた。
「……こういう時の団結力っていうか、察知の速さはすごいな」
「同郷人ですから」
「シウ、なんで敬語なんだよ」
レオンはシウのお茶目な返事に珍しがって、笑っていた。
午後の新魔術式開発研究科ではファビアンが来ており、オリヴェルも喜んでいた。仲良しだったランベルトやジーウェンがいないので寂しかったのだろう。
シウも混ざって話したが、ファビアンからは冬の間の愚痴を零されただけだった。王都でのパーティーや領地での仕事、いろいろ大変そうだ。
オリヴェルからは、
「来週からスヴェルダ王子が来られるよ。本当は今週からでもと思っていたのだけど、準備に時間がかかってね」
「一月遅れかあ。大変だね」
「なるべく手助けするつもりだ。シウにも頼んで良いかい?」
「もちろん」
「僕も気にかけておこう」
ファビアンもそう言ってくれるので今度顔合わせをしようと話を終えた。
授業が終わると、シウは急いでブラード家の屋敷へと戻った。
レオンも同じで、一緒に走って戻ることになって、門のところで笑いあった。
「五時限目があるとつらいな」
「でも、一日全部詰め込んでおいて、どこかで半日か一日空けておく方が楽だよ」
「まあな。来週には完全に飛び級できるから、この慌ただしさももうすぐ終わりだ」
レオンはなんとか希望通りに最低必須科目を飛び級できるらしい。ホッとしていた。
「風の日に冒険者ギルドへ行く?」
「ああ。一度顔を出してみたが、良いところだ。仕事がロワルよりも厳しそうだけどな」
ロワル王都での級数と、こちらではじゃっかん違うのだ。
ロワルでは七級がやる仕事を、こちらは八級かあるいは九級が行う。それだけ、難しい依頼も多いということである。
またラトリシアでは簡単で単純な仕事は奴隷に任せることになっていた。国、あるいは地域によって対応も違うのだった。
話をしながら部屋へ戻ると、スサたちメイドが待っていた。
「さあ、急いで用意致しますよ!」
ということで、同郷人会へ行くパーティー仕様の服を着せられる。シウは自分でできるものの、髪を整えたりするのはスサが断然上手い。
成長期ということで服もその都度直すこともあり、こういう時は手伝ってもらっていた。
「あら、また少し伸びてますよ」
と言われると嬉しいので、任せるという部分もあったりする。
ロトスが後ろでニヤニヤしながら眺めており、シウは振り返って睨む。
「なんも言ってねえじゃん!」
「笑ってた」
「伸びたんだなーと思って喜んでるんだよ」
「ふん、だ」
「拗ねんなって。なー、フェレス」
「にゃ」
「ほら、見てみろ。フェレスはブランカに追い越されても平気だぞー」
「フェレスにも葛藤はあったんだよ。ただ、すぐ、納得しただけで」
「こいつ、案外懐大きいっていうか、意外と心広いよな」
「そうだね」
「で、シウは案外心が狭いっつうか」
「ロトス様? シウ様が動いてしまわれるので少しお静かに願います」
「はーい!」
ロトスはスサに叱られて、廊下に出ていった。
今、シウたちの部屋は大改造を済ませてしまい、かなり広くなっている。
結局なんだかんだでメイドたちが気を遣って部屋を大移動してくれたのだ。そのため、ありがたく部屋を広げた。もちろんシウが魔法を使ってだ。生産魔法持ちであり、空間庫に山のような素材を持つシウである。しかも、普段から時間の合間に素材を「使える」状態にまで仕上げていた。空間魔法で部屋を固定しておけば壁を抜いても落ちてこない。だから、通常の工法よりもずっと手早くリフォームできた。
二階部分にあった従者用の部屋も使っていないとのことで、そこもぶち抜いている。
屋敷は頑強にできており、柱を増やさずとも落ちはしないが、階段などで固定している。
そして、元は隠居部屋だったシウの部屋は、ロトスの部屋になった。その隣がシウの居間と続き部屋の寝室だ。居間から見れば、屋敷の端側にロトスの部屋、居間を挟んで反対側にアントレーネの部屋へと続いている。
ロトスの部屋の上部は天井高くとった空間で、シウの居間と寝室上部――元は二階部分――をフェレスとクロとブランカの寝室にした。シウの寝室の天井に開けた出入り口から、ぐるりと周回できるようになっているため、フェレスたちは秘密基地よろしく楽しんでいる。
そして、廊下を挟んでシウたちの部屋の向かいにあった倉庫部屋は完全に改装し、レオンの個室となった。
カスパルからは、まだ増えるかもしれないからと、レオンの隣の二部屋は空いたままだ。
リュカやソロルはアントレーネの部屋の隣へと移動した。こちらも少々狭いが個室である。厨房や使用人の支度部屋などにも近く、そしてシウとアントレーネの近くということでの配置だ。
シウたちの準備が終わると、リュカがやって来た。
「馬車の用意ができてるよ。カスパル様がもう少しかかるから、従者控室で待っててだって」
リュカは屋敷にいる間は家僕のようなことをしている。ソロルの下で働くような格好だ。ソロルはリコの右腕となっている。リコは家令のロランドの指示を受けて、外へ出ることも多く、ソロルもまた他屋敷への連絡係として忙しい。そうなると屋敷内の細々とした仕事に手が回らなくなることもあって、リュカが積極的に手伝っているのだった。
メイドができない仕事もあり、助かっているらしい。とはいえ、リュカはまだ十歳だ。書生のような「家事のお手伝い」程度である。
「馬車は二台だよね?」
「うん。カスパル様の方にはリコさんが乗るらしいから、僕はシウたちの馬車に乗るね」
「リュカも一緒に?」
「えへへー。お付きの人の勉強がてら、デビューにはちょうど良いってロランドさんが言ってくれたの」
お手伝いをして褒められるのが嬉しい年頃なので、リュカは張り切っている。彼は薬師になるため勉強しているので、将来家僕になるわけではない。たぶん、経験を積ませようと、ロランドが差配したのだろう。
そして、デビューするなら今回の件は確かにちょうど良い。同郷人会ということは、集まるのはシュタイバーン国の人間だ。彼等にハーフへの忌避感はない。
「頑張ってね、リュカ」
「うん! あ、レオンさんも用意が終わった?」
「あー、終わった、のか?」
目が死んだようになっていたレオンは、振り返って手伝いのメイドを見た。メイドはにっこりと微笑む。
「はい、終わりましたよ!」
清々しい笑顔で、やりきった、と顔に書いてある。
スサたちもレオンを上から下へと見て、頷いていた。
「すごいわ。どこから見ても王子様です!」
「完璧!」
「ねえ、これならサビーネさんも褒めてくれるかしら」
「あら、素材が良すぎるからよ。ちょっと華やかさが足りないんじゃないかしら」
「でもあまり派手にすると、若様が~」
「うちの若様、おとなしいお顔つきですものね」
メイドたちのかしましい会話に、レオンはまた目が死んでいる。リュカは彼女たちに可愛がられて育っているので、うんうんと話を合わせ、それから部屋を出ていった。もう準備ができていると知らせに行くのだろう。
廊下から見ていたロトスが、あいつ逃げた、と笑っていた。
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