282 雪中訓練、様子見




 シウがイグの住処に戻ると、皆それぞれに寛いでいるところだった。

 水晶竜のところにいた時間はそれほど長くなかったから、食休み程度で誰も動いていなかったのだ。

「この後はどうする?」

 シウが聞くと、アントレーネは首を傾げつつ答えた。

「もう少し雪の中で、狩りの練習をしてみたいね」

「ククールスは?」

「俺、パス。……と言いたいところだけど、そうだよなぁ。ロトスも鍛えなきゃなんねえし」

「ええっ?」

 ロトスは完全に気を抜いていたのに、自分の名前を呼ばれたので慌てて飛び起きていた。

 枕にされていたフェレスは、やれやれといった様子で立ち上がってシウのところに来る。

「にゃ」

「暇なの? 宝物自慢は終わったんだ」

 笑うと、フェレスも「にゃー」と意味のない返事をする。

「じゃあ、暖炉の前で開きになってるブランカと雪中訓練だね」

「にゃ!」

「ぎゃ……?」

「ブランカ、おいで。雪で遊ぼう」

「ぎゃぅ!!」

 分かった、と飛び起きてきた。彼女は単純なので「遊ぶ」と言えばこれだ。

 反対に、ロトスは「えー」とうんざり顔だった。

「寒くないよね、ロトスは」

「人型だと、結構寒い。どうせ訓練って人型の時のだろ? あーあ。あ、そだ、シュヴィ。一緒に訓練やろーぜ」

「……おぬし、我への態度がぞんざいになっておらんか?」

「えー、そうかなー」

(だって、イグ様相手にしてると、この人ほんとどうでもいい感じなんだもんなー)

 ロトスはシウにだけ伝わるように念話で告げ、それからにんまりと笑った。

「聖獣の王が雪の中を飛べないとか? ぷっ」

「……よかろう。我の実力を思い知るがいい」

「よっしゃー!」

 ロトスは人を動かすのが上手いなあとシウは感心しつつ、皆で外へ出ることにした。

 途中、イグが、

([我はいかぬぞ])

 と言ってきたが、古代竜を相手に訓練しようとは思っていない。

「ゆっくりしてて。また夕方前には戻ってくるから」

([うむ])

 ひとりは寂しいかと思ってクロを置いていこうかとも思ったが、彼も訓練したいというので連れて行くことにした。


 イグの住処を離れ結界を抜けるとそこは深い雪山だ。

 吹雪いており、なかなか壮絶だった。

「これで魔獣を探すとか、どんな罰ゲームだよ」

「ロトス、一度転変してみる? 雪に紛れて分からないかも。魔獣の気配も察知し易いだろうし」

「お、そうだな!」

 彼は早速、聖獣姿になった。成獣となったロトスは立派な狐型ウルペースレクスだ。九つもある尻尾はふさふさで本体ほどもある。普段はまとまって見えるが、興奮したりするとバババッと広がるので面白い。

「おー、また大きくなったんじゃないのか?」

(そうかな?)

 ククールスとの念話も上手くいっており、騎乗の練習がてら二人がペアを組んだ。

 ククールスはこの近くにあるエルフ族のノウェムという集落出身である。だから、このあたりの地形に詳しく冬山にも慣れていた。よってロトスのことは任せることにする。

 アントレーネはブランカに乗り、シウはフェレスへ乗ってクロと共にアイスベルク周辺を飛び回った。

 雪は希少獣組には楽しい遊び場だ。全員、飛行ができるからか、いざとなれば出られると思って迷いなく突っ込んでいる。

 ロトスもククールスに雪のことを教わりながら、深みを見付けてはズボッとハマりにいっていた。もちろん魔獣を探しながらだ。

 吹雪の中でも難なく探し出して一匹狩ると、次は人型に戻ってまた探知の訓練をしている。人型だと移動は大変なのでククールスと共に飛行板へ乗るが、やはり吹雪の中では大変そうだった。

 魔獣を倒す際には降りている方がやりやすかろうとシウがかんじきを出してあげたら、ロトスにはとても受けていた。

 ククールスは重力魔法があるので雪の上でも問題ない。

 二人はそれなりに魔獣を見付けて狩っていた。

 アントレーネの方はブランカに指示しながら進んでいる。吹雪だと探知が上手くいかず、ククールス組よりは遅れていた。それでも雪豹型ニクスレオパルドスだ。雪の中をものともせずガンガン突っ込んでいる。重量級同士、雪でもへっちゃらだった。

 シウとフェレスとクロも、彼等に負けないよう魔獣を探し出しては狩るという作業を繰り返した。



 夕方にイグのところへ戻ると、彼はぽつんと岩場の上に座っていた。

 トカゲながら、どこか寂しそうに見えるのはシウの勝手な想像だろうか。

 王冠とベストを付けたトカゲ姿のイグは、シウ達が戻ると前足を上げた。

「ただいま。ここは雪が積もらない分、暖かく感じるね」

([結界も効いておるのだろう。さ、外は寒かったろう。小屋へ入るが良い])

 イグの台詞に、ロトスが念話でシウにこっそり告げてくる。

(イグ様、ちゃっかりしてるなー。もう自分のモノになってるぜ)

「そのつもりだから、いいんだよ」

「まあなー。でも、あの部屋、やばいよな」

「あの部屋?」

「イグ様専用の部屋ー。シウって凝り性だけど、トカゲサイズの部屋を作るとは思ってなかったわ。ほんと、ヤベえ」

 そうだろうか。でも喜んでもらえたのだから良かったのだと思う。

「何がヤベえって、イグ様自身が喜んでることだよな。トカゲにベッドとか鏡とか、どうなんだって話」

 本当はクローゼットなども作ってみたかったのだが、それを言うとまたヤベえと言われそうなので、シウは黙って聞き流した。

 ちなみに、イグの部屋にはテーブルと窓まで作っている。棚を設置しているので、気に入った宝物を置ける仕様だ。


 晩ご飯も共に摂り、シウたちはコルディス湖へと転移した。

 その前にイグから、

([竜苔は次回にするか])

 と言われたため、そう言えば連れて行ってもらう約束だったことを思い出した。

「そこ、遠いのかな?」

([近い場所だと海を挟んで北にある荒れ島だの。わしの住処がある、竜苔が多数あるのは西の大陸だがな])

 海を挟んだ北側にあるのは、古代、監獄島と呼ばれた場所だ。

 そこも気になるが、シウには西の大陸も気になる。

「魔人族が住むというクレアーレ大陸のことかな?」

([大陸名までは知らぬな。だが、魔人族が多く住んでおったことは確かだの])

 どちらも興味はある。しかし。

「うーん、できれば時間のある時がいいから、学校の休みに合わせていいかな」

([それでも構わぬ。どうせ人の時など早いものよ。わしは急がぬ])

「ありがと。じゃあ、また今度ね」

 そう約束を取り付けて、イグとは別れた。




 翌日の休みはククールスにコルディス湖付近の狩りをお願いし、シウとアントレーネだけ別行動だ。

 二人で転移し、ローゼンベルガー家へ向かった。ガーディニアのことが気になっていたからだ。

 飛竜で飛んできたとでも誤魔化そうと思っていたが、ガーディニアはシウの行動について何一つ尋ねることはなかった。

「来てくれたのね、ありがとう」

 ローゼンベルガー家へ預けられてからさほど時間は経っていないのに、随分と落ち着いた様子だった。ここの空気が合ったのかもしれない。

「ここでの暮らしはどうかな。不都合とかない?」

「いいえ、何も」

 そこにローゼンベルガー家の女性陣が入ってきた。

「本当にありませんか? わたしたち、きちんとできてるかしら」

「不安ですよね、お義母さん」

「いえ、そんなことは! こちらこそ、お世話になってます」

 ガーディニアが慌てて立ち上がり返している。すると、奥方のリネーアと嫁のリマはころころと笑った。

「こちらの方ですよ。叔父様のお相手をしてくださって本当に大助かり」

「それに、うちの子たちにマナーを教えてもらって。あの子たち、綺麗なお姉さんにポーッとなっちゃって、真面目に勉強するようになってくれたの」

「いえ、そんな……」

 ガーディニアが恥ずかしそうに頬を染め、俯いた。その彼女の腕に、リネーアがそっと触れてソファへまた座らせる。まだ遠慮はある様子だったが、どうやら、ぎこちないながらも彼等は上手くやっているようだ。

「何より、叔父様がとても喜んでいるのよ。毎日お話し相手がいるというのは、とても嬉しいらしいわ」

「ほんと、元気になりましたよね」

 二人ともにこにこしている。

「お料理の腕は全くだけど、教え甲斐があるわよ」

「お掃除も全くだめですけどね。わたしに任せてね!」

「……は、はい」

 全くの善意の気持ちらしいが、ガーディニアは少し落ち込んだようだった。

 昔の彼女の行動を思い出して思わず笑ってしまった。ガーディニアもまた、善意の気持ちからぐいぐい迫ってきたからだ。それを思い出したせいか、あるいはシウが笑ったからか、彼女は頬を更に赤めていた。






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「魔法使いで引きこもり?」のコミカライズ版、公開されてます。

yui先生が描くシウたちの物語をどうぞご覧くださいー!

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF02200433010000_68/

こちら、一話が27日に投稿されました。

チビフェレスがかわゆくて悶絶できます。どうぞよろしくです!




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